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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王


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縮まった?

 木製のカップをテーブルに置く。


 普通の物と違い、嫌な高音が鳴らない。


 エルフ特有のカップなのだろうか。


 …………。


 ……。


 そんなどうでもいいことを考えてしまうほどの静寂が流れていた。


 ソリアは顔を俯かせて押し黙っている。


 フィルはそんなソリアを見て頭を抱えている。


 ユイはどうでも良さそうに無表情だ。


「あー、なんか今日は良い天気だな」


 とりあえず、適当に言う。


 そんなことしか言えんのか!? 的なメッセージをフィルが目で送ってくる。


 自分でも分かっている。会話下手だってことくらい。


 でもこんな空気で一言発せただけマシだと思ってくれ。


「たしかに良い天気」


 と、ユイが言う。


 予想外の助け舟に視線を巡らせる。


 ユイも俺の方を見ていた。


「私と二人っきりでエルフ観光」


「さ、させないぞ!」


 ユイのマイペースな提案にフィルがテーブルを叩きながら立ち上がる。


「ソリア様! 折角ジードと話す機会ができたのですっ、さぁ恥ずかしがらずにっ!」


 ユイに先んじられないようフィルが言う。


 だが、肝心のソリアは顔を真っ赤にしながら呼応しない。


 ……ダメだな、これ。


 戦場になれば各々がしっかり動いてくれるがプライベートが固すぎる。


 いや、別に依頼さえクリアできればパーティーとしては良いのか……? 仕事だけの関係だが、それで成立しているわけだしな。


 しかし。


 それでも俺は伝えなければいけないことがある。


 真っすぐにソリアを見る。


「ソリア、ありがとな」


「え?」


 突然、俺に呼ばれて驚いたのか目を見開く。


 それでも、ようやく初めてしっかりと目が合ったようだった。


「まずは、そうだな。用事があったのに神樹の治癒に来てくれて、ありがとう」


「そ、そそ、そんな。依頼ですから。それにジードさんに呼ばれたのなら私は……!」


「それと――――俺をギルドに推薦してくれて、ありがとう」


――これを俺はずっと言いたかった。


 色々あって言えなかったが、ソリアは俺の恩人だ。それも、きっと命の。


 あのままクゼーラの騎士団に残っていれば、きっと俺は壊れていただろう。それはギルドに来てから本当に感じることだ。


「と、当然のことをしたまでですっ! ジードさんはもっと色んな人に知ってもらえるようなお人ですから!」


 急にソリアが熱弁をする。


 すぐにハッとなって目線を逸らした。


「良い調子ですよ、ソリア様! この調子で行きましょう!」


「う、うぅ……! やっぱり私はまだ慣れないです……!」


 隣でフィルがめちゃくちゃ褒めている。


 いい調子なのか……?


 普段のソリアとは似つかないテンションだったが。


 いや、まぁ下手にユイ以上に喋らないよりはマシなのか。


 なんとか多少は打ち解けたみたいだから話題を出す。


「そういえば、そろそろSランク試験じゃないか? 俺達の中じゃフィルがまだAランクだよな」


「私ならば問題ない。まず間違いなく昇格するだろう」


「フィル、慢心はダメですよ。あなたと同じく試験を受ける方たちはAランクの猛者達です」


「ふふ。ですが、パーティー単位でのAランクが多いのです。私がそこらの雑多に負けるはずがありません」


 ランクには個人とパーティーのものがある。


 試験を個人で受けたか、パーティーで受けたか、それによって個々のランクが決まる。大抵の高ランクはパーティーでのものが多い。


 つまり、一人か一組で試験を受けることができる。


 例えば個人がCランクの集まりが、パーティー単位でAランクに昇格すると、個人ではCランクの依頼しか受けられないが、パーティーではAランクの依頼が受理できるようになる。


 もしも個人での昇格をしたい場合は、再度一人で受ける必要がある。


 ただし、Sランク試験は毎年一人しか受かることができない。もしくは一組だ。


 今回のSランク試験もパーティーで受ける奴らは多いのだろう。数がいる分だけパーティーでの試験者の方が有利なわけだが、それでも圧倒する『個』がいる。フィルのような。


 だからこそフィルにとって、そんな彼らは敵ではないということだ。


「ちなみに俺が個人的に組んでいるパーティーのメンバー二人も今回のSランク試験を受けるぞ」


 思い出すのはクエナとシーラだ。


 フィルも思い当たる節があるようだった。


「ああ……そうか。彼女たちも受けるのか」


 どこか苦々しい顔つきだ。


 そういえばクエナとシーラを通り魔したんだよな。


「まさかまだ謝ってないのか?」


「て、手紙は送ったぞ。だが、まだ顔を合わせてはいない。時間の都合がつかなくてな……」


「なら試験の時に謝っとけな」


「ああ、わかっている」


 どことない気まずさを感じながらもフィルが頷く。


「ジ、ジジジ、ジードさんとご一緒してるパーティーといえば、シーラさんやクエナさんですよね?」


 声を転送するマジックアイテムが壊れた時のようにドモりながら、ソリアが俺に聞いて来た。


「ああ、そうだ。知ってるのか?」


「スフィさんから聞いているので……っ! 彼女はそれで冒険者登録をすることになりましたから……!」


 なるほど。意外な接点だが、考えてみれば確かに繋がっている。


 アステア教から真・アステア教に移籍したソリア。真・アステア教に在籍しているリーダーのスフィ。スフィと同じパーティーのクエナとシーラ。


 ……世界って狭いな。


「てか久しぶりに名前を聞いたな。スフィは元気してるのか?」


「はい。なにやらジードさんに渡したい物があるとかで度々お話していますっ」


「ああ……例のやつか」


 剣のことだろう。


 前に使えないと言ったはずだが、それでも俺に預かって欲しいらしい。


 まぁ受け取る分には問題ない。


「また会ったら貰うって伝えておいてくれ」


「はっ、はいっ!」


 まだ若干の挙動不審さが目立つが、ようやく普通に会話ができるようなってきた。


 そろそろソリアも俺に慣れてきたはずだ。話題を作ろう。


「そういえばSランク試験って何やるんだ?」


「なんだ、知らないのか?」


 ふっ、と頬を吊り上げながら、どこかバカにした口調でフィルが言う。


「飛び級だったからな。フィルは知ってるのか?」


「知らん。私も受けたことないからな!」


 腕を組みながら胸を強調しつつフィルが言う。


「なんでちょっと自慢げなんだよ。よく俺に『知らないのか?』とか聞けたな。……ソリアはなんか知ってるか?」


「い、いえ、私も試験なしでの昇格でしたから……お役に立てず申し訳ありません……! 今から全力で情報収集に参りますので……!」


「うん、そこまで大事じゃないから大丈夫。席立たないで。怖いって。そこまでの情熱を持たれたらこっちが怖いって!」


 どうにもソリアは行き過ぎた俺信仰があるような気がするな……。


 しかし、二人とも知らないとなると残るはユイだ。こいつは最年少でSランクに至った経験もあるらしいから試験は間違いなく受けているだろう。


 面倒になりそうで話かけたくないが……


「ユイ、おまえなら知ってるんじゃないか?」


「ん。試験は毎回ばらばら」


 ユイがコロネを食べながら言う。


 ならば、とフィルが問う。


「おまえの時はどうだったのだ?」


「Sランククラスの依頼を最速で達成」


 まぁ妥当なところだ。


 適当に上位の魔物を討伐を選んでも良いわけだ。


 そして倒せれば見事に適性アリと判断できる。しかも最速なら、単純に考えれば一番に仕事ができる。


「ちなみにどんな依頼だった?」


 俺の問いにユイが思い出すように顎に手を当てた。


 そりゃそうか。こいつがSランクになったのは数年前だ。すでに記憶の片隅なのだろう。


「上位のドラゴン討伐」


「やっぱり討伐系だよな」


 まさかSランクになってまで俺がたまに受けているFランクのドブさらいのような依頼なんてないだろうし。


「ふっ、まぁいいさ。私は負けない、絶対に。ソリア様の騎士として」


 例えどんな試験が来ようとも負けない。


 そんな意思を感じる目をしていた。


「ええ、私も信じています」


 それに応えるソリア。


 ふと、ソリアが首を傾げる。


「そういえば、フィルはクエナさんとシーラさんと何かあったのですか?」


「うっ……!」


 あれ、もしかしてフィルが絡みに行ったことを聞かされていないのだろうか。


 フィルが慌てふためく。


「そ、それはその……!」


「クエナとシーラに一方的に喧嘩を売ったんだよな」


 にんまりと頬を緩ませながら俺は言った。


 これはちょっとした罰だ。


 涙目になったフィルが恨めしくこちらを見てくる。


 だが、その反面でソリアが驚きと怒りを混ぜ合わせた顔をした。


「それってどういうことですか……!?」


「そ、そ、それはぁぁあ~~……!」


 ソリア様の騎士として、なんてフィルは言っていたが、あの行動は目に余るものがあるだろう。


 それを分かっているからこそフィルも面白い反応をしてくれる。

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