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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王


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それじゃあ

「ふぅ……ありがとうございました」


 シルレが疲労を見せながら頭を下げてきた。


 先ほどまで文句を垂らしていた民は各々が説得されて家に帰っている。


「新しく物事を成すときは口を出されるものですから。頑張ってください」


 ソリアが言う。


 俺の時とは全然違う、普通な感じで。


「ありがとうございます。――そういえば、神樹の件のお礼がまだでしたね」


「いや、依頼達成の報酬は貰ったはずだが」


 報酬の話をしていなかったのにも関わらず、賢老会が支払う予定だった以上の額をもらっている。


 だが、シルレは首を左右に振って、


「いいえ。まだ、あります」


 そう言ってシルレが何かを持ち上げるように手を浮かせる。


 しかし、手には何も持っていない――訳ではないようだ。


 綺麗な流れの――色で表すと黄金と白銀が混ざったような鮮やかな魔力がシルレの手の内から作り出された。


 俺の首にネックレスをかけるような仕草で魔力を包んだ。


「――――エルフ姫の祝福」


 ルックが呟く。


「何の効果があるという訳ではありません。ですが代々のエルフ姫は、こうして『英雄』に対して祝福を行ったとされます」


「英雄?」


「はい。エルフの危機を救った者が大半で、つまりは身内に行うことが多かったです。――ただ直近では勇者に対して先代様が行ったと聞いています」


「へぇ、なるほどな」


 また勇者だ。


 どうにも縁がある称号だな。


 シルレは続けてソリア、フィル、ユイ、ルックに同様の真似をした。


「先ほども言いましたが、これに効力はありません。ただ気持ちばかりの感謝をこれで伝えようというものです」


 つまりは形式的なものということか。


 金銭は貰っているし、俺達は依頼が達成できたからそれでいいのだが、シルレとしては何かしたい感情の現われなのだろう。


 滅多にやってもらえないことらしいからラッキーくらいに受け取っておこう。


 そう思っていたが。


「た、た、た、大変ですよ! エルフ姫の祝福を受け取ってしまいました!?」


 ルックが慌てふためいた様子で叫び声をあげた。


 ソリアとフィルも目を見開いている。すこし意外だな。ソリアもフィルも聖女や剣聖なんて呼ばれているから、あまりこういう儀式には興味がないと思っていたが。


 ユイは……こいつはいつも通り無表情だ。


「なんだ、すごいのか?」


「す、すごいなんてレベルじゃないです! お伽噺ものですよ!」


 ルックが気持ち冷めやまぬ様子で熱く語りながら両手をぶんぶん振っている。


 絵本とかにある感じの話だろうか。


「そうか。光栄だな?」


 よく分からんが、とりあえずそう言っておこう。


「本来ならもっと正式なものにしたいのですが、今はまだ不安定ですから。まだ機会を見て改めて祝福をさせていただきます」


 それからシルレは俺に何か言いたそうにしながらも、頭を軽く下げてから「それでは、私は用事がありますので」と口にして去っていった。


「あ、そうだ。皆さんいつ頃にお帰りになりますか?」


 ルックが思い出したように言う。


「そろそろ帰ろうとは思っている。借家はいつまでなんだ?」


「期限は後一週間ほどありますが、必要なら延長可能です」


「俺は明日には帰るつもりだが」


 チラリとソリア達を見る。


 ソリアは顔を真っ赤にして目を背け、代わりにフィルが言った。


「私達は今日にでも王都に戻る。神樹の加減も問題なさそうだし、ソリア様は予定を取り消されて里に来たからな。すぐにでも戻らねば」


「同」


 フィルに続いてユイも頷く。


 ということは明日には全員が居なくなるってことだな。期限があるってのは勿体ない気がするが。


「わかりました。それでは転移のマジックアイテムを用意しておきます!」


「ああ、頼む」


「……――皆様」


 ルックが真剣な表情を作る。


「――本当に! ありがとうございました!」


 ガバッと頭を下げる。


 急だな。


 いや、カリスマパーティーの全員が揃うのはここだけだと思ったのだろう。


「依頼だから別に礼なんて不要だ」


 ギルドと冒険者は持ちつ持たれつの関係にある。


 言ってしまえば斡旋する組織と、斡旋される人材にすぎないのだから。


 それでも、ルックは頭を上げなかった。


「いいえ、言わせてください! 皆様のおかげで私は家族と一緒に居られます……! 本当に、本当にありがとうございます……!」


 ルックの目から涙がこぼれた。


 その感情が本物だと口よりも語っている。


 彼は資料を揃えたり、命を狙われていたのにも関わらずエルフの里にいた。


 それだけの未練があるということ。


「私達の結果が貴方に幸せをもたらせたのなら、なによりです」


 ソリアが言う。


 それは俺達の総意だった。


 余計に感極まったのかルックがブワッと涙を流す。


「あ、あ、あ、ありがとうございますっ! 皆様の活動拠点とは遠い地ですが、なにかあったら呼んでください! 全力で援護させていただきますので!」


 そんなことを言うと、ルックはギルド支部に戻っていった。


 いよいよか。


「それじゃ揉め事も終わったみたいだし、カフェ行くか」


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[気になる点] 私達は今日にでも王都に戻る。神樹の加減も問題なさそうだし、ソリア様は予定を取り消されて里に来たからな。すぐにでも戻られば」 「同」  ■フィルに続いてフィルも頷く。 ■部…
[一言] >フィルに続いてフィルも頷く。 フィルが二人?
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