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ブラックは奴隷の如く

 俺はジード。

 苗字はない。ただのジードだ。



 両親は貴族でもなく、偉い商人というわけでもない。と思う。

 なぜ『思う』かだって?

 それは俺が両親のことを詳しく知らないからだ。



 俺は両親に連れられて五歳くらいの時に森に出向いた。けどその森で両親は魔物に食い殺された。

 両親に言われるがまま俺は逃げて、森の中で十年ほど生き延びた。



 どう生き延びたか?

 魔物を殺して、食ったんだ。

 もちろん最初のころは自分でも殺せる小動物や、単体で活動していたゴブリンとかだ。



 味?

 美味しくなかったよ。それどころか最初のころは腹を壊したね。上からも下からも汚物をまき散らしていたよ。

 でも次第に慣れていった。

 森の地形を理解していくと果物の場所も分かったから甘いものにもありつけたしね。

 まぁその果物も毒入りだったなんてオチもあるけれど。



 それでまあ、森を抜けだして十五くらいか。俺はようやく人里に戻ることができた。

 かなり怯えられたのを覚えているよ。

 魔物や動物の皮を剥ぎ取って継ぎ接ぎだらけの衣装を見りゃ誰だってそうなるってくらいには怯えられた。

 子供は泣き叫ぶし、匂いにあてられた奴は吐くし、終いには騎士団を呼ばれて俺は捕まった。



 なぜ弁解しなかったのかって?

 久しぶりの同族で言葉を忘れていたんだ。だって最後に喋ったのが五歳なんだ。

 生きるのに必死で文字を書くことどころか会話のために口を開くことなんて一切なかった。



 ああ、これは後から聞いたことだ。

 俺も不思議に思っていたさ。どうして森の中で助けは来なかったのかとか。森で人に会わなかったのかとか。



 俺がいた森は指定Sランク『禁忌の森底』と呼ばれていた場所らしかった。

 そんなとこにいてよく生きてたな、と我ながら思った。

 同時にどうして俺をそんな場所に連れて行って魔物に食い殺されているんだ両親よ、とも思ったね。

 それらは過ぎたことだから、確認のしようがないんだけれどね。



 さて、本題はここからだ。

 捕まった俺は騎士団に言われるがまま、囚人としておとなしく施設に放り込まれ食糧だけを与えられ適度な運動をしつつ――なんて甘いことは許されなかった。



 なぜか騎士団の代わりに隣国との小競り合いに参加させられたり、あるいはドラゴンの討伐に参加させられたりした。

 まぁそれくらいなら例の森での経験に比べれば大したことないんだけどさ。

 問題はそんなことを毎日毎日、ひどいときは一週間、一睡もさせてくれずに行わされていることだった。



 いやー、大変だね。



 ん?

 なんで現在進行形なんだって?

 いやいやそりゃあそうさ。

 だって今も俺は騎士団に所属しているんだから。



「ジード! てめぇなにぼさっとしてんだ!」



 俺に怒号が降りかかる。

 それは俺が所属している第一騎士団の団長、ランデ・イスラから発せられたものだった。



 オールバックの金髪に碧眼、がたいの良い身体つき。

 話を聞くと彼は百体のドラゴンを一斉に相手にして倒したり、列強の帝国が攻め入った際もたった一人で勇猛果敢に撃退した経歴をもつ。いわゆる猛者ってやつだ。



「俺の傍らにいることを許されているからと調子に乗っているんじゃないだろうな!? これからの任務は国のために行う! 気合を入れろ!!」



 ランデのお言葉はいつもお決まりのものだ。

 二言目には国のためと。



 はぁ……。

 いくら忠義を尽くすものがあるからといって、それを俺たちに強要することはないだろう。

 だってもう――すでに三日も寝ずに俺たちは活動している。



 俺の周りを歩く騎士団の団員たちも目に隈を作って死にかけのゾンビのように歩いている。

 なんだったら昨日の任務で数十人くらい見た覚えのある顔が消えている。

 医療班に連れていかれたのか。それとも死神に連れていかれたのか。それを知ることになるのは先になるだろう。そもそも知らないままのことが多いけど。



 ああ、ちなみに不眠不休で働くのは俺たちだけだ。

 というか無事に完徹までしているのは俺くらいか。



 団長のランデはついさっき合流したばかりだ。彼が働いている姿を見るのは一か月に一回くらいなものだから珍しい。

 だいたい想像はつく。

 今まで元気に食事して眠ってきもちよく仕事場に来たのだろう。



 だから俺たちにも平然と他人事のようにカツを入れることができるのだ。



「父上、彼らも連日の疲れが出ているので行進の時は……」



 と救いの声が差し伸べられる。

 それは第一騎士団の副団長、シーラ・イスラだ。

 腰まである金髪に青々とした瞳、太陽に焼かれながらも地の白肌が目に見えて分かる美少女だ。

 彼女は数か月前に騎士団に入り、あっという間に副団長にまで上り詰めた。

 傑出した実力を持ち、『閃光』とまで言わしめる速度を誇るそうだ。



 ちなみに俺は彼らの力を見たことはない。

 なぜなら常に前線で戦うのは俺たちだからだ。



「なにを言う。こいつらはこれから戦うのだ。その程度の威勢でどうする!」

「それは……。せめて私たちも」

「いらぬ心配をするな! こいつらがダメな時に俺たちがいるのだ。動く時は見極めろ! 当然それは俺にも言える。俺も見極める。動く時を、この俺が」



 ランデが自信満々に言う。

 はぁ……

 次はいつ寝れるのだろうか。

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