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 創那きずなは未だかつてないほどに焦っていた。

 それはもう焦っていたのだ。

 しかし、それも仕方がないことだろう。

 なんせ、教室でHRをしていたら謎の閃光と爆音。

 つい今しがたまで教室にいたはずだ。

 それが気がついたら、どことも知らない王宮。

 この突然すぎる超展開に頭が追いつかないことを責めるのは酷というものだろう。


 脳内が刹那的に湧き出る膨大な数の疑問符に占拠された創那きずなは頭を抱えることしかできないでいた。

 いっそのこと考えることを放棄しようかと思ったほどだ。

 それは他のクラスメイトたちも同じでいた。

 そんなクラスメイトの誰かがかすれた声で呟いた。

 

「……こ、ここはどこだ?」


 その声につられ、他のみんなも同じようなことをつぶやく。

 そして辺りを見渡し、どうにか現状を把握しようと努めようとする。

 しかし、疑問は止めどなく溢れでてくるだけで何の解決にもならないでいた。


 創那きずなの視界に映るのは、金、銀、色彩が鮮やかな宝石であしらわれた豪華な内装。

 天井にはこれまた豪華なシャンデリアが部屋中を照らしていた。

 その手の知識がない創那きずなの目から見ても、とんでもない値が付くことがうかがえる。


 そんな内装をした王宮然とした広間には、中世ヨーロッパを彷彿ほうふつとさせるような服を着ている者たちと、同じように鎧を身に纏った者たちが品定めでもしているかのような不躾な視線を向けていた。

 その中でも特に強い視線を向ける者がいる。


 彫りが深い白髪オールバックと淡い青色の瞳が特徴的な50代半ばほどに見える男のことだ。

 創那きずなたちを見下ろしている。

 そんな男を見た創那きずなの第一印象は「なんか無駄に偉そうだな……」であった。


 その男は頭上に人の横顔のような紋章が描かれた黄金に輝く王冠を。

 背中には赤と金の煌びやかなマントを纏い、厳格な雰囲気を漂わせている。

 どこぞの王様なのだろうか?

 その周りを配下らしき者たちがずらりと並んでいる。

 その者たちも創那きずなたちを遠巻きに見つめながらなにやら騒いでいるようだ。

 王様と思われる男は配下たちよ騒ぎなど耳に入っていないのか、毛ほども気にしていない様子。

 そんなことよりも、ただただ創那きずなたちを凝視していた。


(ゴチャゴチャとうるさくて何を言っているのかサッパリだな。

 だけど、あの偉そうな男たちがこの状況の理由を知っていると見てまず間違いないだろう)


 創那きずながそんなことを考えていると。


 男は『静まれ』と一言。

 あれほど騒いでいた者たちが一斉に黙り、静寂が訪れた。

 男は、無駄に豪華な装飾をなされた椅子から立ち上がる。

 そして。首を左右に動かし、俺たちを値踏みするようにゆっくりと見渡した後、一呼吸置いて口を開いた。


「儂はエガレア王国第18代目国王ロバート・ガルボ・エガレアだ。

 ようこそ勇者殿!

 我がエガレア王国は貴殿らを心より歓迎しよう!!」


(ーー誰だよッ!?

 いや、それよりも勇者ってなんの話だ!?

 全く意味がわからないんだけど……えっ何?

 何が起きたんだ!?

 ほんとに何が起きたんだよっ!?)


 創那きずなは唐突過ぎた展開に事情が飲み込めないでいるようだ。

 ただでさえ抱えていた頭をさらに抱える羽目になったかのような表情をしている。

 とはいえ、このまま思考停止していてもラチがあかないので、どうしてこうなったのか直前の出来事をフルスロットルで思い起こすことにした。


(そう、たしか……俺たちは帰りのホームルームをしていたはずだ。

 苦行とも言える授業を消化し、ようやく帰れると思った矢先、テストの返却。

 それをどうにか見事に赤点回避。

 で、テストの重圧から解放されたから本日発売の『魔法幼女プリティアリス』の最新巻を買いに行こうとウキウキしながらHRが終わるのを待っていて、ようやく帰りの挨拶をしようと席を立った。

 その瞬間、謎の爆音と閃光に見舞われて……今に至ると。

 ……なるほど、わけがわからんッ!!)


 創那きずなは直前の出来事をフラッシュバックしたものの、この状況をカケラも理解することはできなかった。

 むしろ、考えれば考えるだけ思考の糸は身動きがとれないほど複雑に絡み合っていく。

 もはや意味不明すぎて頭が全く働かない。

 頭がこんがらがる中。

 一部のクラスメイトたちが騒ぎ始めた。


「何言ってんだ、あのおっさんは……?

 頭がイカれてるのか?

 いや、それよりも一体全体どうなってやがんだ!?

 説明しろ!」


「そうよそうよ、いきなりどういうことなのよ!

 これは拉致なの!?

 ねえ答えてよ!」


「おい答えろ!

 無視してんじゃねーぞおっさん!!」


 彼らに同調して、他の皆も今しがた国王と名乗ったロバートに苛立った口調で言いたいことぶつけたり、質問を投げかけたりしていた。

 しかし、ロバートは素知らぬ顔で口を閉ざしたままだ。


(……なんかこの国王とやらは嫌な感じだな)


 創那きずなは密かにそう思った。

 たしかにその気持ちはわかる。

 国王であるロバートは、つい今しがた、心より歓迎すると言っていたにも関わらず、こちらの話を一切聞こうとしない。

 そんなロバートのぞんざいな態度に他のクラスメイトたちも苛立ちが増したのか、さらに喧騒は広がっていく。


 そんな俺たちの目の前に無骨な鉄の鎧を身につけた騎士のような佇まいをした者が現れる。

 その表情を見る限り、かなりお怒りのようだ。


「静まれ異界より現れし勇者たちよ!

 ここは王の御前であるぞ。

 いくら勇者と言えど、言動は慎しむのだッ!!」


 その騎士風の男は創那きずなに向かって強い口調で一喝した。

 すると、怒りが腹の中でたぎっていたのか、クラスメイトと殆どの者たちの表情が一変する。


「んだと!

 ふざけんのも大概にしろよ、木偶の坊が!」


「そうよ! 何様のつもりなの!」


「拉致した挙句、何言ってやがる!

 しばくぞ、この野郎!」


 騎士のような男がこの怒号を黙らせようとしたのだが見ての通り逆効果であった。

 反発の声がひっきりなしに上がる。

 そもそもの話、ここがどこで、目の前に国王がいることなんて、今来たばかりの創那きずなたちには知りようがないことだ。

 そんな創那きずなたち相手に明らかな怒気を含んだ物言いは流石に悪手であった。

 黙らせようとした結果。

 さらに喧騒は広がっただけだ。

 それはもう収拾がつかないほどに。


 そんな頭に血が上った皆を眺めていると、不思議と落ち着くことができた創那きずなは、もう一度冷静になった頭で現状を整理することに努める。


(ん?

 そういえばこの状況どこかで見たことがあるような……いや、ありえない。

 そんなどこぞのテンプレ小説みたいなことが現実に起こるはずない……と思うんだけどなぁ……いやでも、さっきまで教室にいたはず。

 で、今は王宮。

 しかも、あの国王とやらは俺たちを勇者と呼んだ……。

 ってことは、やっぱりそうなのか?)


 創那きずなは、ああでもない、こうでもないと思考を巡らせ続ける。

 そして、ようやく導き出した答えがふと口から漏れた。


「ーーやっぱ異世界転移か……?」


 ポツリと呟いた創那きずなの言葉は不思議なほどに王宮内に響き渡った。


 すると、


「ーーその通りです」


 奥の方から女性らしき美声が聞こえてきた。

 その女性は国王の背後から現れたのだ。

 一瞬の内にこの場の全ての視線が彼女に釘付けとなる。

 彼女はぱらりと額にかかる美しい銀色の髪を優雅な仕草でかきあげ微笑んでいた。

 キメ細かく一片の穢れもない白い肌に吸い込まれそうな淡い紫色の瞳。

 白く透き通った艶かしいまでに美しい顔。

 そして、メリハリのある抜群なプロポーション。

 全てのパーツが最高レベルのクオリティーである。

 パーフェクトと言わざるを得ない容貌だ。

 これほどまでに絶世の美女を体現した女性は見たことがないと断言できる。

 それほどまでに彼女の美は逸脱した存在に思えたのだ。

 年は創那きずなとさほど変わらないか、少し年上くらいだろう。

 とは言え、創那きずなたち一般市民とは違うと断言できる。

 既に国王以上の存在感を放ち、見る者を惹きつける圧倒的な雰囲気を醸し出していた。

 クラスメイトのほとんどが王様そっちのけで、彼女を見つめている。

 いや、見惚れていたと言った方が正しいか。

 特に男子生徒。

 目にハートマークが見えるのは錯覚なのだろうか。

 大半の男子生徒が鼻の下を伸ばし、だらしがない笑みを浮かべたまま彼女を見つめていた。


 そんなクラスメイトたちを横目に創那きずなは、


「さっきまでの怒りはどこに置いてきたんだよ」


 と、呆れ顔で呟いていた。


 すぐに呆れ顔を真顔に戻し、目の前に現れた女性に視線を戻した。


「私はレイラ。

 エガレア王国第一王女レイラ・ガルボ・エガレアと申します。

 以後お見知りおきを。

 今しがたそちらの方が発言された通りにございます。

 ーーそう、皆様は異なる世界からこのエガレア王国に勇者として召喚されたのです。

 この世界ーーエブロイでは皆様のような世界を超えてきた者たちをこう呼びます……」


 レイラと名乗った女性は、ひとつ大きな間を取る。

 そして、再び口を開いてこう言った。


「ーー異世界転移者、と」

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