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女装メイド大戦  作者: T
第1章 メイド大戦開幕編
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第3話 武家屋敷の攻防

 「ここだ」

 「はえー、すっごい大きい」


 学校を仮病でサボった海道はヤナギを連れて、裏山にある古ぼけた武家屋敷に来ていた。


 「ここは長らく住民がいないが、かつては本物の侍の一族が住んでいた武家屋敷だと言われている。刀の一本や二本、落ちていたとしても不思議ではない」

 「なる程! それは名案ですね」

 「最も錆びていたりしてそのまま使える状態じゃないだろうが… お前は武器強化系の魔術は使える。だったら、刀の修復ぐらい朝飯前だろう」

 「修復ですか」


 今まで魔剣と呼ばれる名刀ばかり使ってきたヤナギにとって、普通の武器を修復して使うという発想はなかった。しかしそれでも元がちゃんとした刀なら、模擬刀よりマシなことは確実だろう。


 「さて、とっとと行くぞ。誰かに見つかったら厄介この上無いからな」


 そう言うと二人は武家屋敷に侵入した。



 「暗いな… 」

 

 武家屋敷の中は広く、二人は携帯の明かりを頼りに慎重に進んでいった。すると狙い通り、壁に刀が立てかけてあったのだ。


 「ありましたよ」

 「・・・ 」


 ヤナギは嬉しそうに刀を持つ。なんの変哲も無い、鞘に入った日本刀だ。


 「まさかこんなにあっさり見つかるなんて、私たちは運がいいですね」

 「ヤナギ、とっとと逃げるぞ。屋敷の主に見つかったら厄介だ」

 「この屋敷には人は住んでいないのでは」


 「これだから低能は」と言わんばかりに海道がため息をつく。


 「いいか。新品の綺麗な刀が、誰も住んでいない古ぼけた武家屋敷から見つかるわけないだろう。おまけにこの刀には埃一つかぶっていない上、部屋も綺麗だ。おそらく誰かが住んでいる」


 そういった次の瞬間、屋敷の明かりがパッとつく。


 「誰だ」

 「しまった」


 屋敷の主が帰ってきたのだ。痩せこけた男と金髪の女。金髪の方はメイド服を着ている。屋敷の主人とメイドだろう。


 「いえ、あの。すみません。誰かが住んでいるとは思わず」

 「全く、近頃のガキは」


 ため息をつきながら、痩せこけた男はゆっくりと近づいてくる。次の瞬間だった。


 「シャキ」

 「くっ」


 金髪のメイドが、いきなり海道に切りかかってきたのだ。ヤナギは咄嗟に手にした刀を抜くと、金髪メイドの剣を受け止める。


 「よく反応したな… 殺気は隠したつもりだったんだが」

 「お前は殺気を隠せても、男の方からは殺気が漏れていたからな」


 男はポケットから拳銃を取り出すと、海道に向かって撃つ。


 「『身体強化アクセル』フルパワーだっ」


 足に強化魔法をかけ、間一髪で拳銃をかわす。次の瞬間、ツバ競り合いをしているヤナギとメイドの陰に隠れ、射線を遮った。


 「咄嗟に射線を遮る位置にかわすとは… 只者じゃないな」

 「現代日本で平気で拳銃をぶっ放す、あんたの方が只者じゃないけどな」


 海道は冷や汗をかく。魔力自体はトップクラスに多い彼ではあるが、肉体自体はただの中学生だ。肉体強化の影響で一般人よりははるかに頑丈とはいえ、銃で撃たれてしまってはひとたまりもない。


 「こいつらどうします。一応作戦では、召喚期間中は戦いを自重する方向ではありましたが」

 「いずれは全員殺さないといけないんだ。ちょうどいいさ。屋敷内で死体を処理すれば、他の精霊使いに所在がばれる事もないだろうしな」


 死体処理という言葉を平然と使う男に、海道は背筋を凍らせた。魔力量は彼の十分の一にも満たないだろうが、実戦に置いてははるかに格上だと言わざるをえなかった。 


 「逃げるぞ」

 「逃がすか」


 ヤナギは海道を抱え、一目散に外に駆け出した。男は銃でヤナギ達を撃つものの、上級精霊は拳銃の弾ごときでは傷一つつかない。ヤナギの高身長にガードされ、拳銃の弾が海道に当たることはなかった。


 「追え、セイクリッド」

 「了解です」


 金髪の女騎士、セイクリッドが後を追う。


 「セイクリッド… 私ですら耳にしたことがあります。女性の騎士系では最強の精霊です。おそらく役割コンバートされてはいますが… 今の私に比べればかなり格上でしょう」

 「ああ、魔術で敵の星を見たが6つ星だった。かなり格上の相手と見て間違い無いだろう」


 セイクリッド。精霊界では知らぬものなどいないほどの、高名な女騎士だ。女性精霊としては1、2を争う実力者だろう。最も海道は女性精霊を召喚する気は皆無だったので、精霊マニアにも関わらず彼女の存在など知る由もないのだが。


 「追いつめたぞ」

 「それはどうかな」


 ついに壁際に追い詰められ、絶体絶命の状態に陥る。しかし海道は焦ることなくニヤリと笑った。


 「お前の主人、随分と遠くに離れちまったな」


 星4の精霊と星6の精霊が追いかけっこをした場合、どんなにうまく逃げてもスピードの差で星6の方が追いつくことができる。にも関わらず「逃げ」の一手を選択したのは、精霊使いと精霊を引き離すためだったのだ。


 「行くぞ『精霊奥義』だ。ありったけの魔力を、この一撃に込める」

 「大丈夫ですか!? 精霊奥義はかなりの魔力を消費します。昨日の無理な召喚で、ご主人様の魔力はかなり減っているんですよ」

 (ーーーーーやるしかない)


 格下の精霊が格上の精霊を倒す方法はかなり限られている。一つはさっきの男のように、精霊使いを直接狙う方法。精霊使いが死ねば、精霊に送られる魔力がなくなり遅かれ早かれその精霊は人間界に止まれなくなる。

 そしてもう一つがこの『精霊奥義』。通常の状態では使えない量の魔力を一気に精霊に送り込み、強力な一撃で一気に勝負を決める方法である。


 「行くぞ! 魔力装填120%!!! 」

 「精霊奥義『覇王一文字斬』」

 

 ヤナギの刀が真っ赤に輝き、セイクリッドに襲いかかる。セイクリッドは咄嗟に剣で受け止めるものの。剣は砕け、衝撃を受けた彼女はそのまま50メートルほど吹き飛ばされた。


 「よし、逃げるぞ。今のうちだ」

 「逃げる!? トドメをささなくていいんですか」

 「奥義一発で最上級精霊を致命傷に追い込むほど、今の俺たちは強くない。魔力切れしている最中に精霊使いと合流されたら、それこそ終わりだ」


 ヤナギは無言で頷くと、海道を抱えて駆け出した。海道はヤナギの温もりに包まれた途端、気が緩んだのか寝落ちしてしまう。


 (ご主人様をここまで疲弊させるとは… このヤナギ一生の不覚です)


 ヤナギは本来の力が出せない自信に苛立ちともどかしさを感じ、唇をギュッと噛んだ。


 


 「セイクリッド、大丈夫か」

 「すみません。奴らを逃してしまいました」

 「いや、無事だっただけよしとしよう。何せ奴は前回の優勝者のパートナー精霊だからね」

 「馬鹿な!? あの女装男があの高名なヤナギ!?!? ありえない」 

 「今回のルールは「メイド大戦」だからね。君と同じだよ。本来の役割からコンバートし、ランクを落としてでも優秀な精霊を召喚することを選んだんだ」

 「それにしたって、男性を無理やり女装させてメイドと言い張るのは… 」

 「ああ、そこは盲点だった。強制的にメイドにコンバートされるから女性精霊しか使えない、だから君に勝てる可能性がある精霊はせいぜい数人。その前提が、今回の件で完全に覆された」

 (強力な女性精霊を引いたものの情報を集め、一人ずつ暗殺する作戦だったが… 作戦の練り直しだな)


 男は傷ついたセイクリッドを抱え、屋敷に戻っていった。


 


 

 

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