第18話 起死回生の『精霊回収(コール)』
「もう駄目だ… おしまいだ… 」
海道は絶望していた。倒したと思ったボルバが復活し、さらにヤナギの精霊解放も解除されてしまったからだ。
「逃げてください。今の自分でも時間を稼ぐくらいのことは出来ます」
ヤナギはせめて主人だけでも守るため、海道の前に立つ。しかし…
「喰らえ」
「ゴフッ」
一度死んだことで慢心をなくしたボルバが、海道に正拳突きを放つ。ヤナギは回避はおろか防御することすらできず、その場に崩れ落ちた。
「ヤナギ! 」
「終わりだな」
ヤナギを倒したボルバが今度は海道と蒼井に襲いかかろうとする。その時だった。
『精霊回収』
蒼井が魔術を発動させる。周囲が光に照らされ、光の中から全裸の男が現れた。
「貴様… この俺を呼びつけるとはどういうことだ」
そう。蒼井は最後の手段として、自陣に残しておいたキリコを無理やり呼び出したのだった。当然呼び出されたキリコは怒り心頭で、青筋を立てている。
「王様申し訳御座いません。しかしこのままでは私の命… もとい王様の現界も危ういのです」
「下らん。俺は帰る。貴様の作戦ミスで死んだのなら自業自得だ」
「いいのですか? 王様程のお方がこんな序盤に精霊大戦で敗北するなど… 精霊界に残っている部下たちにも示しがつかないかと思いますが… 」
「チッ」
キリコは精霊界最大の国家『ヴァルキリコ』の王であった。国家を代表して精霊大戦に召喚された以上、負けは許されない。
「まあいい。ただしメイド服は絶対に着ないからな」
「武装無しでどうやって戦う気だ? 」
人型の精霊が戦うためにはまずは魔力由来の武装を装備し、それから戦わなければならない。「メイド大戦」の厄介なところはその武装を無理やりメイド服(型の魔力武装)に置き換えられてしまう点だ。「メイド服」を拒否し、かつ蒼井が精霊解放を使えない時点で、キリコは一切通常の魔術を行使することができないのだ。
「小童は知らんのか。我々のような特殊な精霊は、魔術の他にもう一つ特別な能力を持っていることを」
そういうとキリコはボルバの前に立つ。精霊としての星はボルバが最高の9に対し、武装をしていないキリコは1だ。
「精霊召喚!!! 」
キリコは魔法陣の書かれたノートを掲げる。
「馬鹿な!? 精霊が精霊を召喚だと!? 」
「海道君、今のうちに逃げるぞ!!! この技は周りに甚大な被害を及ぼす。ここにいたら巻き添えだ」
「おい、やべえぞ。俺たちも逃げようぜ」
「何を言ってやがるジャック。ようやく面白そうな奴と戦えるんだ。逃げたら俺がぶっ殺すからな」
キリコのノートに注がれる甚大な量の魔力に恐怖を感じ、ジャックは逃げようとする。しかしボルバは言うことを聞かない。たまたま意気投合したから言うことを聞いていただけで、パワー9を人間がコントロールすることは絶対に出来ないのだ。
「ほう、ビビらず立ち向かってくるか… さすが俺と同じ星9精霊だ」
「うおおおおおおおお」
召喚されたのは、三体のドラゴンだった。サイズこそ2メートル前後と龍系の精霊にしては小柄だが、それぞれが8つ星精霊クラスの魔力を帯びている。
「喰らいな」
ボルバがドラゴンの一体にパンチを繰り出す。ドラゴンは吹っ飛ばされたものの空中で旋回し、上空へと回避した。
「さあ、来いよ。空中戦と行こうぜ」
「面白え」
殴られたドラゴンは囮だった。一体のドラゴンをボルバが殴っている隙に、キリコはドラゴンの背に乗って空中へ移動していた。合流した分も含め、3体のドラゴンがボルバを睨みつける。
「行くぞ」
ボルバも空中に飛んだが、魔力で無理やり飛んでいるだけの人間型精霊と龍系の精霊が空中戦をすれば、どちらが有利かは火を見るより明らかだった。
「フン! フン! 」
「そんな大振りの拳が当たるわけなかろう」
キリコは高笑いをしながら、2対のドラゴンでボルバを翻弄していく。ボルバ側は何とか叩き落そうと拳を振り回すものの、空中にいるドラゴンを捉えるには至らなかった。
「止めを刺してやろう」
キリコは3体のドラゴンを一箇所に集める。ドラゴンたちは一斉に口の中に魔力を溜め始めた。
「殺れ」
キリコが命じるとともに、3体は一斉に口から攻撃を発射する。炎、毒、雷の三種類の攻撃魔法が、同時にボルバに襲いかかった。
「クソッ」
しかしボルバは間一髪で攻撃を躱した。回避には成功したものの、圧倒的威力に冷や汗を流す。
「ハァハァ… クソッ」
「アレを躱すとは、大したやつだ。貴様がもう少しマシな知能をしていたら、もう少しはいい勝負ができたかもな」
「まだ勝負は… ハッ」
気づいた時にはもう遅かった。ボルバの肉体は、もう既に消えかかっていたのだ。ボルバはパニックになり辺りを見渡す。周囲一帯が炎に包まれている。
「あれだけの衝撃波を受けて、人間が耐えられるはずがないだろう」
キリコはボルバを狙うと見せかけ、後ろにいる精霊使いのジャックを狙っていたのだった。精霊使いが死ねば、精霊も死ぬ。ボルバはそのことを肝に銘じていなかったのだ。
「貴様… 卑怯だぞ!!! 」
「勝てばいいんだよ」
ボルバは恨み言を言いながら消滅していった。
一方その頃。海道はヤナギと蒼井を抱えて全速力で走っていた。蒼井はキリコが『精霊召喚』した際に体内の魔力の大半を持って行かれ、気絶してしまったのだ。いくら魔術で身体能力を上げているとはいえ、大柄な成人男性二人を抱えて走るのはさすがにきつかった。
「ハァハァ。ここまでくれば大丈夫か」
十分な距離をとったと判断した海道は、『索敵魔術』を発動させた。
「反応… 星1精霊が一体! マジでボルバを倒したのか、あの全裸男」
「私の魔力切れ以外の要因で、王様が負けるはずはない… 気絶こそしてしまったが、なんとか命が持って良かったよ」
キリコによる魔力消費もなくなり、蒼井はなんとか立ち上がることに成功した。立ち上がるとすぐに、蒼井は携帯電話を取り出す。
「もしもし、蒼井だ。手負いの精霊が一名と、私自身がかなり魔力を失っている。もっとも精霊の方は本体の精霊使いの方は無事だから、しばらくすれば回復するだろうが」
「今救援を呼んだ。もう大丈夫だ」
蒼井の言葉を受け、海道は安堵のため息をついた。
「すまない。私の見立てが甘かったばかりに、民間人である君を危険な目に合わせてしまった」
「いえ。精霊大戦に参加した時点で、奴らとはいずれぶつかっていたでしょう。蒼井さんがいたからなんとか無事だったんです」
生き残ったとはいえ、海道にとって初めての敗北だ。海道は悔しさを滲ませつつも、もう二度と負けないと心の中で誓うのであった。




