第17話 パワ−9の実力
「とりあえず作戦はこうだ」
海道とヤナギは修行を終え、蒼井の待つ会議室を再び訪れていた。蒼井はモニターを指差し棒で指しながら、海道の原案を元に作り上げた作戦のパワーポイントを開設している。
「まずこのジャック・ウィルソンだが、都内の廃アパートに潜伏していることがわかった。すでにわかっている分だけでも5体の精霊と交戦、いずれも精霊使いも含め殺害している」
「やはり危険だな」
「廃アパートの近くは住宅街となっており、派手に戦えば周囲に被害が出る可能性が高い。なので廃アパートに侵入してこちらが結界を貼り、周囲に被害が出ないようにする」
「アパートには敵の魔力結界は張られていないのか? 普通精霊使いは敵の索敵を防ぐために、自陣には何らかの結界を張っているものだと思うが」
魔力結界を上書きするためには一度相手の結界を破壊しなければならない。それはかなりの難易度だ。
「どうやら奴は殺しのプロではあるが、精霊使いとしてはずぶの素人らしい。結界の類は張っていないようだ」
「なるほど。なら問題は奴に気づかれないように、いかにして結界を張る時間を稼ぐかか」
「それなら大丈夫。結界を張るためのスタッフがこちらにいるからね。一人かつ短時間で張るのは難しくとも、あらかじめ魔法陣は書いておきさらに複数人がかりならば問題ないはずだ」
そういうと黒服の男が複数人、蒼井の元にやってくる。海道は単なるSPだと思って気にもとめていなかったが、彼らは一人一人が政府直属の精霊使い部隊「SB」に所属する精霊使いなのだ。
「彼らが外から結界を貼り、私たち二人で侵入する。これなら周りへの被害なく確実に倒せるはずだ」
「わかりました、行きましょう」
ヤナギが飛べば早いが、それで敵に感づかれては結界を張れなくなってしまう。蒼井は海道とヤナギ、そしてSPを4人乗せ、リムジンを走らせるのだった。
「ほらジャック。持ってきたぜ」
一方ジャックはその頃、ボルバに盗ませてきたコンビニ食品と酒を食い漁っていた。ジャックが指名手配犯ということもあり、食料の調達などは基本的に精霊であるボルバが行っている
「ありがとよ。そういやさ、あと何人殺せば精霊対戦ってのに優勝できんだよ」
「確か日本国内だけで100人近くまだ生き残ってて、さらに世界中に精霊使いは散らばっているって言ってたぜ」
「マジかよ面倒くせえ」
「いいじゃねえか。とりあえずノルマの10人まで後半分だ。その後のことはそれから考えようぜ」
男は金銭を得る代わりに、精霊使いを殺すように依頼されていた。最低10人で100万ドル、それ以降は一人殺すごとに20万ドル。リスクを冒して死刑囚を解放し、それだけの金額をかけて雇うほど「パワー9を召喚できる」という才能は希少だった。
「うめえな、日本の飯は」
完全に我が世の春といった笑顔でパック寿司を口に運んだ、その時だった。
「ピカーン」
「なんだ? この音」
「魔術結界だ… それもかなり強い」
「なんだよ結界って」
「敵が攻めてきたってことだ」
ボルバとジャックは立ち上がり、周囲を警戒する。
「喰らえ」
「ぐおっ」
メイド服の男、ヤナギがボルバに斬りかかる。斬りかかられたボルバは両腕でガードするものの、メイド化によるレベル低下の影響で防ぎきれず、腕から血が噴き出した。
「チッ、やるじゃねえか。この俺の鋼鉄の筋肉に傷を与えるとは」
「さすが蒼井さんが用意した刀だけありますね。『ムサシ』には劣りますが、普通の真剣とは比べものにならないほど馴染みます」
今回の作戦にあたり、蒼井はヤナギに魔刀を一本貸し出していた。本来政府が所持しているものなのだが、作戦成功率を高めるために特別に借りてきたのだ。
「てめえら、何モンだ」
「アメリカ政府からの依頼により、お前を逮捕する。射殺許可も当然もらっているから覚悟したまえ」
「政府の精霊使いか… もう見つかるとはな」
蒼井は刑事ドラマの刑事のように、かっこよく啖呵を切った。普段の机仕事とキリコのご機嫌取りでストレスが溜まっていたので、ジャックのいかにも小悪党な反応に気持ちよくなってしまったのである。一方の海道は冷静に目の前の敵を観察し、ヤナギに渡すための魔力を練り上げている。
「殺すぞ。『精霊解放』」
ボルバの筋肉がさらに大きく隆起し、メイド服を突き破る。まるで北斗の拳のような光景に驚きつつも、海道は予定通りにヤナギの脚を『限定解除』した。
「行くぜ行くぜ行くぜ」
ボルバの拳を、ヤナギは持ち前の戦闘勘で紙一重で避けていく。
「チッ、ちょこまかと逃げ回りやがって」
「はああああ」
ボルバの回し蹴りを間一髪で躱し、ヤナギは居合の要領で腹部に斬りかかる。しかしそれがマズかった。
「ヘッヘッヘ。ようやく捕まえたぜ」
「馬鹿な!? 」
ボルバは斬られた瞬間に瞬時に腹筋に力を込め、刀を腹部で止めてしまったのだ。刺さった部分からは血が滲み出していたが、ボルバはそんなの関係ないとばかりにヤナギを殴りつける。
「ぐあああああああああ」
必殺技でもなんでもないただのパンチだったが、ヤナギは数メートル吹っ飛ばされた。
「ぐっ」
脳震盪のような症状を起こしながらも、ヤナギは何とか立ち上がる。
「一撃でここまでダメージを負うとは」
「限定解除したといえどスピード以外は星4相当… 無理もないか」
海道と蒼井はスピードさえ取り戻せばボルバの攻撃を躱し続けられると思った己の浅はかさを悔やんだ。そもそも元々の状態でさえヤナギは「8」でボルバは「9」なので、限定解除しようともスピードはボルバの方が上。むしろ捨て身に出られるまでボルバの攻撃を躱し続けたヤナギの技量が凄いのである。
「こっちも『限定解除』だ。時間稼ぎをしている余裕はない」
ヤナギの身体が光に包まれ、メイド服が鎧武者の鎧へと変わる。手には愛刀である『ムサシ』が握られ、心なしか顔立ちも引き締まったように見えた。
「それがお前の本来の姿か、面白え」
ボルバが殴りかかってくるのを、今度は真正面から刀で受け止める。本来刀と拳がぶつかれば拳が引き裂かれるのだが、レベル差のせいもあり互角の勝負となった。
「お前の刀は一本だが、俺の拳は二本あるぜ」
拳で刀と鍔競り合いしたまま、ボルバはもう一方の拳でヤナギに殴りかかる。しかしヤナギはとっさにステップして相手の体勢を崩すと、そのままボルバに斬りかかった。
「プシャア」
斬られたボルバの肩口から鮮血がほとばしる。体勢を崩しながらも急所を避けたのは見事だったが、さすがにダメージが大きく。動揺を隠せなかった。
「よし、いいぞ」
そのままヤナギはボルバに斬りかかり、ボルバは防戦一方で逃げ回る。血を止めるために時間を稼ぎたいのだろうが、これがヤナギにとってはかなり不都合だった。
(まずい… 「逃げ」に入られたら、時間切れでこっちが先に武装が解ける)
技量的にはヤナギの方が上とはいえ、基本スペックで明らかに上回られるボルバが回避に専念したらヤナギは追いつけない。そしてこと『精霊解放』できる時間においては、なぜか海道よりもジャックの方がはるかに上回っているのだ。
「まずいな… どうすれば」
「『精霊奥義』で決めに行きましょう。仮に相手が撃ち返してきても、こっちには二発目があります」
そう。『精霊解放』できる時間は向こうの方が上とはいえ、魔力量自体は圧倒的に海道の方が多いのだ。『精霊奥義』と『精霊解放』を同時に使うのは負担が多いとはいえ、今の海道らの勝ち目はそれしかなかった。
「行くぞ… 精霊奥義『覇王一文字斬』」
巨大な魔力を帯びた真空切りが、横一文字にボルバの身体を切り裂く。ボルバは悲鳴をあげながら、光になって消滅した。
「やったぜ」
「うっそだろオイ」
狼藉しまくるジャックと、喜び勇む海道と蒼井。しかし次の瞬間、二人の顔は真っ青に染められることとなった。
「まさか奥の手をもう使うことになるとはな… 」
光になって消えたはずのボルバの身体が再び集積し、元に戻ってしまったのだ。
「何… だと… 」
「俺様の特殊能力『エクストラ・ライフ』だ。俺は二つの命があるんだよ」
おまけに海道が与えた切り傷はすっかり回復してしまっている。
「もう駄目だ… おしまいだ… 」
ヤナギの武装も時間切れで、メイド服に戻ってしまった。絶体絶命。海道は死を覚悟し、天を仰いだ。




