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女装メイド大戦  作者: T
第2章 9人の精霊編
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第16話 修行

 遠藤の住むマンションの一室、彼の自室兼の勉強部屋。会議の後、遠藤とカムイは一足先に自宅に帰還していた。遠藤は夏休みの課題に取り組もうとするが、ソワソワと落ち着かないカムイのせいで集中できず、ため息をつく。

 

 遠藤が精霊大戦に参戦する際、最大のネックとなったのが精霊の住処だった。親をごまかしてカムイを家に入れることには成功したものの、部屋数が足りずに遠藤はカムイと同室で過ごさざるをえなかったのだ。


 「主君、特訓だ! 」

 「は? 」


 カムイは急に、大声で叫んだ。 


 「藪から棒に何だい? 」

 「さっき見ただろう? あの強靭な精霊には、今までのままでは太刀打ちできない。だから私たち二人で修行をして、強敵との戦いに備えるのだ」


 ボルバとの戦いから外されたことがよほど悔しかったのか、カムイの目は真剣そのものだ。いつもジト目で目つきが悪いカムイだが、今日はほんの少し目が大きく見えるほど血走っている。


 「いや、いいよ。あの精霊は海道と蒼井さんが倒してくれるだろうし」

 「しかしだな主君。少なくとも同等の精霊が後三人いるわけだ」

 「うーん」


 一方遠藤は当初の目的であったヴィヴィアンも倒し、戦うことにあまり乗り気ではなかった。しかし遠藤も魔術や精霊といった非現実的な世界には興味があった上、修行するだけならタダだと思い一応カムイの方を向く。


 「私が元の力を取り戻せば、大半の敵は瞬殺できると思うぞ」

 (本当かなあ… )


 彼女の本来の星は6。確かに強くはなるだろうが、それでもメイド服を着ているセイクリッドと同等のランクだ。彼女の自信はどこから来るのだろうと、遠藤はまたため息をつく。


 「とにかくやるぞ。まずは限定解除の方法からだ」

 「え? セイクリッドたちがやってたやつだよね? やり方知ってるの」

 「あれは理屈自体は簡単だ。精霊の肉体の一点に魔力を集中させて、無理やり出力を上げるだけだからな。無論どんなに多くの魔力を注いでもその精霊の本来のポテンシャル以上になることはないが」


 カムイは人間性的な意味では駄目精霊だが、魔術に関しては侍系の割には詳しい方だ。限定解除の方法に気づくのは不思議なことではない。もっとも魔術適性が薄いのに魔術が大好きなせいで、ほとんど知識だけという可哀想なことになっているのだが。


 「で、どこに集中させればいいの」

 「まず足だな。スピードが上がるから、魔眼と合わせればかなりの速さになるぞ」


 そう言うとカムイは足で遠藤に絡みつく。首はしまっていないが三角絞めのような体制だ。


 「何するんだ」

 「まずは私の足の感覚を覚えこむことだ。さあ、思う存分スリスリするがいい」

 「嫌だよ」


 一点に集中して魔力を注ぐ難易度は距離に比例するので、確かにゼロ距離なら簡単だろう。しかしここまで接近するのは、明らかにカムイの欲望が混じっていた。


 「マジで止めろ。家事を一切しない上に主人にセクハラするメイドとか聞いたことないぞ」

 「主君。悪いが私はメイドではない、主君に仕える暗殺者アサシンだ」

 「もっと聞いたことないよ」


 遠藤の悲鳴が、誰もいない昼下がりのマンションに響き渡った。


 


 一方。海道家に帰ったヤナギと海道も、同じく『限定解除』の修行を開始していた。


 「さて。限定解除の修行ですが、いかがいたしますか」

 「まずはゼロ距離でやって、だんだんと距離を離していくのが効率がいいだろう。とりあえずヤナギ、足を出せ」


 ヤナギは言われるがままに生足を出す。筋肉質で引き締まった、無駄毛の一本もない足を海道は丁寧にさすり始めた。


 「まずはゼロ距離で俺の追加魔力を足に馴染ませる。どうだ? 力がみなぎってくる感覚がないか」

 「おお! これはすごい」

 「問題はここからだ。距離を離しても同じように魔力の受け渡しができなくてはならない。そしてその量は多すぎても少なすぎてもダメだ」

 「難しいですね」

 「いや、単に使うだけならすぐだろう。問題は一度送った魔力を定着させることだ。実戦の中で動き回る中魔力の糸を切らさないようにするのは、相当な集中力がいる」


 海道は持ち前のセンスで、徐々に徐々に魔力パスをつなぐ距離を伸ばしていく。しかし繊細な魔力コントロールの代わりに膨大な魔力量でごり押し習得できる精霊解放とは違い、繊細な魔力コントロールが必須となる限定解除は海道にとっては面倒な魔術だった。


 「うーん。しまった、切れてしまった」

 「やっぱり移動スピードを遅くしますか? 」

 「いや、スピードを上げるための魔術で、速度を遅くしたら意味がない。このままもう一度だ」


 二人は試行錯誤を繰り返しながら、毎日のように特訓を重ねた。夏休みの宿題をほっぽり出した甲斐もあり、なんとわずか10日で限定解除を使いこなせるようになったのだ。


 「ふう、まさかここまで大変だとはな」

 「いえ、10日で習得なさったのは流石です。この魔術は魔力量がどんなに多くても、コツを掴まなければ習得できないタイプの魔術ですから」


 武器強化系以外の魔術を苦手とするヤナギにとって、海道の魔術センスは尊敬の対象だった。もっとも彼も精霊基準で魔術が苦手というだけであって、元の姿ならば基本的な魔術は一通りこなせるのだが。


 「さて、もう一度蒼井さんのところへ行くか」


 二人は新たな技を提げ、再び蒼井の待つビルへ向かうのだった。

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