プロローグ 突然のルール変更のお知らせ
『精霊使い』ーーーーー 大小様々な精霊を操り、時代の陰で暗躍し続けていた存在達。
彼らは400年に一度、最強の精霊使いを決めるために『精霊大戦』という儀式を執り行ってた。各々が最強だと思う精霊を精霊界から一体召喚し、最後の一体になるまで戦うというものだ。
『海道聖』は、そんな『精霊大戦』の参加者候補の一人だった。齢15にして使役した精霊は100を超える。そんな彼にとって『精霊大戦』は人生最大のイベントであり、また彼が最も楽しみにしているものであった。
「上級精霊召喚の召喚陣は用意した、召喚する精霊を決定する材料もある… 完璧だ」
彼の準備は完璧だった。あらかじめ召喚する精霊の目星も、先に他の参加者に召喚されてしまったケースを考え10番目まで用意した。また、時代によって微妙に変わるルールに対応するためありとあらゆる古文書を読み漁り、過去2回に渡る『精霊大戦』のルールも完璧に把握している。
「5… 4… 3… 2… 1… ゼロ」
古時計の針が静かに12の文字を指す。その瞬間、彼は何度も反復し、暗唱した文言を唱えだした。
「我、精霊と契約する者なり。大いなる意志よ。我に人智を超える力を与え給え」
基本的に精霊の召喚には材料と魔法陣さえあればいいが、上級精霊は文言を唱えなければならない。おまけに召喚には膨大な魔力が必要で、精霊大戦期間以外に上級精霊を召喚しようとすれば体内の魔力が一気になくなり、ショック死するとも言われている。
「・・・ 」
しかし、何度文言を唱えても、精霊が召喚されることはなかった。10種類全ての精霊の召喚を試みたが、魔法陣は反応を示すどころか、僅かな魔力の動きすら見られない。
「何故だ… 何故召喚できない… 」
聖は焦っていた。
「くそっ、ピクシー」
彼は使役している下級精霊であるピクシーを呼び出した。ピクシーは現実に関与する力を持たない代わりに、現実世界から精霊界を見通す力を持つ。事前準備に抜かりはないとした聖は、その召喚失敗の原因は召喚元である精霊界にあると判断したのだった。
「おい、精霊界に何か異常はないか? まさか精霊大戦が中止になった… なんてことはないよな」
「いいえ、召喚魔法は精霊界でも確認が取れました。各地で強大な魔力を持つ上級精霊が、人間界に召喚されていっています」
「なら何故召喚できない!? 」
「それは… 」
ピクシーは若干気まずそうに、聖に言った。
「精霊王が気まぐれで、今回の『精霊大戦』は『メイド大戦』にすると… 」
「は? 」
『精霊王』とは、精霊たちの中で最も強大な力を持つ存在だ。元々『精霊大戦』は精霊王が自身の力を渡すのにふさわしい人間を決めるために始めたものだとされている。
「だから、精霊王が気まぐれで、今回の『精霊大戦』は『メイド大戦』にすると… だからマスターが召喚しようとした精霊は全て男性型が龍型なので、今回のルールでは召喚できないんです」
(何… だと… つまり今回の精霊大戦では、女性タイプの精霊しか召喚できないというのか)
海道聖は極度の女性嫌いであった。理由は小学生の時、女子にいじめられたという単純なものだ。いじめられた海道は男性に比べ女性は劣る存在だから攻撃してきたのだと考えた。それは海道にとってそれは絶対的な価値観であった。
命を預ける手持ち精霊に、女性を選ぶわけにはいかない。海道聖は絶望し、天を仰いだ。