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一話完結小説シリーズ  作者: レッサーパンダ
2/2

君と飲んだコーヒー

「…エリサ」

「…」

「変わらないのか…?」

アンナはまた問いかける。何度も何度も。

「ああ。僕はこの国を変えたい。アンナこそ変わらないのか。」

「私は…やっぱり…」

「…分かった。じゃあ今日で最後だな。アンナと一緒にコーヒーを飲めるのは。」

そう言ってエリサは笑みを浮かべた。

このネレーメーン州はつい一週間前から戦争が勃発している。ネレーメーンを独立に導こうとする「革命派」とルバウル連邦からの独立を認めない「政府派」に分かれて。エリサは、独立をするべきだと、革命派についたが、アンナは今が一番良い、革命は望まないと、政府派につく事となった。しかし二人にとって問題なのは、幼い頃から近所で育ってきた親友と敵対する事となってしまう、ということだ。何年も一緒に遊び、笑い、時には喧嘩もした親友と。お互いに引き留めた。だが無理だった。そのため、今日がお互いが一緒に話をしたり出来る最後の機会だった。

「戦場で会わないよう祈っておくよ。」

アンナはそう言いエリサも答えた。

「僕も同じだよ。」

二人ともいつものようにコーヒーを飲む。何かあればよくここに来てコーヒーを飲んだりした頃が懐かしい。

二人は中学生の頃から一緒にコーヒーを飲むようになった。最初は苦かったが、段々と慣れてきた。同級生にはシブいとか言われていたが、二人とも特に気にしていなかった。

「…おいしいね。」

「だね。」

まだこの辺りは戦場になっていない。しかし、それもきっと今のうちだろう。いずれはネレーメーン州全土を巻き込む戦争になる。

「それじゃあ…元気でね。」

「君もな。」

別れ際、二人は戦場で会わないよう、そしてお互いの無事を祈って別れた。



「アンナ…」

「…エリサ!?」

だが出会ってしまった。戦場で敵も味方も入り乱れている中…いや、開戦して以降、想定とは違い政府軍は敗北一路だ。この戦いも例外ではなく、アンナのいる政府軍は壊滅、撤退を始めていた頃だった。政府軍は明らかに人数が少なく、入り乱れるほど人間はいない。

しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはエリサだった。

「エリサ、君の返事次第では、僕はこの引き金を引かなければならない。」

「…。」

アンナにはエリサの言いたいことは分かった。だが口を開かず、続きを聞いた。

「やはりこっちに来る気は無いのか。」

「…無理な話だな。」

「そうか…。」

エリサは両手で持っていた小銃を背中に掛け、代わりに腰に付けていた拳銃を抜いた。


あれからしばらく経った。エリサはまだ来る気配がない。彼女が拳銃を抜いた直後、アンナは目の前に発煙弾を投げ逃げた。戦い自体も、自分が死ぬのも恐くはない。怖いのはエリサを殺すことだ。だが彼女は違う。彼女は覚悟を決めている。それだけ1年前の誓いに嘘偽りが無いということだ。アンナにはそれが分かった。

(ここなら大丈夫か…?)

エリサから逃げたは良いが、味方からはぐれてしまった。少しアンナは休んだ後、味方探しに出掛けようとした。

「ここに居たのか。アンナ。」

「…っ!」

ここなら大丈夫と思ったが、そのような事は無いらしい。容易に見付かってしまった。

「…次は逃げるなよ。」

そう言いエリサはまた拳銃を抜き、今度はアンナも抜く。

「どうして…!」

「決まってるだろ!この国を変えるんだ!」

「私は…こんな形で…エリサと再会したくなかった!エリサも同じだろ!」

「…それはどうかな」

「え…」

アンナとエリサは構えていた拳銃を下ろした。

「2年前、僕はこの国を変えると決めた。その時は出来れば誰も殺したくはない。そう思ってた。」

「その時…は?じゃあ今は…」

「ああ…そうだ…。あの時僕はこの国を変えると決めんだ…そのためには犠牲がどうこうとは言ってられない。それが…君だったとしても。」

「そんな…」

「油断するなと兵学校で習わなかったか!」

「っ…!」

「…」

アンナが話に夢中になっていたその隙にエリサが拳銃を構えなおし、放った銃弾ががアンナの脇を大きく擦り、それと同時にアンナが倒れた。

「…さすがだよ…エリサ…」

「………」

アンナが詰まりながら言った。

「あり…がとう…今まで…楽しかったよ…これからも…親友で…いたかった…」

「……ごめん」

エリサはそれを聞いて、拳銃を強く握り、まだ息のあったアンナの胸元に撃った。

「ごめんな…アンナ…」

その場で座りこんだエリサの頬に、涙が流れた。



「…ちゃん!ばあちゃん!」

「…あら、キールじゃない。どうしたの?」

いつの間にかソファで寝てしまっていたらしい。付けっぱなしにしていたテレビには夕方のニュースが流れている。ニュースでは革命60年の節目のニュースばかりしかしていない。

「あら、キールじゃない。じゃないよ!ほら可愛いだろ?ばあちゃんの曾孫だよ!」

キールが言った。隣に居るニーナの腕の中には赤ちゃんがいる。

「あらあら…可愛いわね。でも貴方じゃなくてニーナさんが生んでくれたのよ。ニーナさんありがとうね。」

「いえいえそんな…」

「こんな赤ちゃんみたいなキールだけど、これからも宜しくねぇ。」

「こちらこそお願いします。」

ニーナが少し笑いながら答える。

「それよりおばあさま、コーヒーでも入れましょうか?」

「おばあさまなんてやめてよ。恥ずかしいわ。」

「じゃあ…エリサさんとか?」

「…そうね。それが良いかしら。それよりキール。コーヒーをニーナさんと入れるから、あなた赤ちゃんあやしてなさい。」

「ええ!?俺?」

キールが聞き返す。

「当たり前よ。何もしない夫なんて嫌われるわよ。」

「…頑張る。」

「ニーナさん、何かあったらすぐ言ってちょうだい。懲らしめてやるからね。」

「キールくん言われてるよ。」

ニーナが少し笑みを浮かべてキールに言う。

「お…エリサさんはなぜコーヒーが好きなんですか?」

コーヒーを入れながらニーナが問う。

「そうね…。思い出なのよ。」

「思い出…?」

「話せば長いわ。それに…」

「それに…?」

「今もう話す事ではないわ。大昔の話よ。」

エリサが淹れ終わったコーヒーを見ながら呟いた。あの日のコーヒーとそっくりだ。

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