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第83話 評判の悪い国

宝物庫でボンヤリしていたが、ふと己の使命を思い出す。

接戦で消耗していたとはいえ、自分の行動原理を忘れるとはマヌケも良いところだ。

初志貫徹。

これは基本。


改めて中を見回した。

ここは思いの外に広かった。

初めは手狭な印象を受けたが、それは数えきれない宝物でひしめいてるからだろう。

まぁ先程の戦いの影響で、だいぶ荒れてはいるがな。

炎龍の暴風でグッチャグチャだがな。


そんな部屋の中で、金銀財宝が目に入る。

イラン。

横倒しになった金色の鎧やら、宝石の散りばめられた剣が転がっている。

イラネ。

オレが真っ先に手を伸ばしたもの。

それは麻袋。

程よいサイズ感、膨らみ具合かして、それに入っているのは豆のはずだ。


さぁ、豆ガチャの時間だ。

そろそろ当たれ、お目当ての大豆!

口を開いて中を覗き見るが……。



「……クッ。ダメか!」


ーーおめでとうございます。見事ソラマメを入手しました。


「またかよもぉお! いい加減大豆よこせよぉお!」


ーーそれも得難きものではございます。持ち帰られますか?


「うーん。少しだけ貰っとく。チョロまかしたことが連中にバレたら面倒だ」



この城は後々明け渡す予定となっている。

相手はもちろんミレイアだ。

それは宝物庫の中身も含まれるので、ドサクサに紛れて豆を奪うとしたら今のうちしかない。


とりあえず記念品としてソラマメの一掴み分を頂戴した。

だが、あの苦労の報酬がこれだけってのも面白くない。

何か他に珍しいものを、邪魔にならない程度に漁りたいが。



「何か目ぼしいモンないかなぁ。便利アイテムとかさー」


ーーミノル様。足元にある小袋をご覧ください。


「うん? 袋は2つあるけど、こっちかな? 中身は青い石ころが……」


ーーそちらではありません。もう片方です。


「ああ、こっちか」



アリアに促されて手にした袋には、真っ赤な石がいくつか入っていた。

ビー玉のような丸く、そして燃えるように赤い色をしている。



「これが何だってんだよ?」


ーーまぁまぁ、実に素晴らしい。これは『転生玉』というもので、大変に貴重かつ、御身の役に立つこと間違いありません。具体的な使用法は、またいずれ。


「そうなの? 何だか良く分からねぇが、貰っとくか」


ーー先程の袋の中身も面白き物にございます。


「これか。青い石が入ってたヤツな」



再びその袋を開けてると、折り畳まれて封入された小さな紙を見つけた。

そこには細かい文字がビッシリと書かれている。

どうやら青い石の解説書らしい。



「へぇ……この青いやつは薬なんだ。宝石か何かかと思った」


ーー自然界には存在しない物です。わざわざ作らせたのでしょう。


「ええと、何々? 飲めば3日3晚性欲がたぎり……。性欲増強剤かよ!」


ーー製作者は中々の腕を持っています。誇張ではなく、本当に効果が3日間続くでしょう。


「しかも副作用ありかよ……って、ふむふむ。なるほどねぇ。そんなデメリットがあるのか」


ーーお気に召されましたか。とても素敵な顔をされています。


「ありがとうアリア。ここまでお前に感謝の念を抱いたのは、今回が初めてだ」


ーーお褒めに預かり光栄の極みでございます。


「うん。もうお宝は良いや。青い薬だけでも十分だ」


ーーこれからどうなさいますか。


「そうだな、寝る。ヘラクレスも休みたいだろ?」



オレが声をかけると、彼女はうつむいて鼻を鳴らした。

寝床に飛び込んで眠りこけたい気分だろう。

それはこっちも同じだ。


宝物庫のドアから出ると、そこは王宮の通路だ。

混乱の極致とも言うべきか、下働きの人たちが右往左往している。

いつぞやの『仕事クレ』モードかもしれない。

とりあえず近場の1人に声をかけてみた。



「あー、チミチミ。ちょっと良いかね?」


「は、はい! 私めでごさいますか」


「そうそう。馬の世話よろしく。それから一部屋用意して。腹へったからパンとミルクも欲しい」


「承知しました。ただちにご用意致します」



昨日訪れた生産施設と状況は同じだった。

突然現れたオレの頼み全てを、嫌な顔ひとつせずに聞き届けてくれた。

本当にこの国の統治スタイルは危ういと感じる。

まぁ、今ばかりは大助かりだが。


メイドさんはすぐに客室へ通してくれた。

テーブルには焼きたてパン、コーンスープにミルク、そしてチーズの盛り合わせが用意されている。

ベッドメイクも完了しており、洗い立てのシーツがピシリと美しかった。


オレはマナーなんか糞食らえとばかりにベッドにダイブ。

寝転がりながら食事を胃に流し込んで、ほどほどに満足したら眠りについた。


翌朝。

とうもろこしの甘い香りで目が覚めた。

ベッドから身を起こすと、メイドさんが一人。

テーブルには朝食の用意が既に為されていた。



「ありがとう。朝飯まで出してくれてさ」


「滅相もございません。それでは冷めないうちに……」


「そうだな。いただきまーす」



朝のパンも焼きたてだった。

香りは鼻を虜にし、絶妙な甘味が舌を転がる。

つまりコックは逃げていないということだ。

さっきのメイドさんも部屋の入り口に控えるばかりで、平然としているようだ。

その様子がどうにも不思議に思えてならなかった。



「なぁアンタ。世話してもらっといて聞くのもおかしいが、逃げないのか?」


「そのつもりです。ここはミレイア領になるということで、お間違いありませんか?」


「まぁそうなるな」


「では、国内のどこに居ても同じです。悪鬼ミレイアの支配下にあっては」


「あっき……? 今悪鬼と言ったか!?」


「口が過ぎたようで申し訳ありません」


「いやいや、怒っちゃいない。どうしてそんなに評判が悪いのか知りたいだけだ」


「古い話ですので、実体験ではございませんが……」


「構わん。頼む」


「承知しました」



メイドさんの話は、今から200年近くさかのぼる。

当時はミレイア一国だけが大陸に君臨し、アルフェリアだのアシュレイルだのといった国は存在しなかったそうだ。


それで、当時の為政者たちは暴虐の限りを尽くしたらしい。

奪って虐げて、それから儀式と称して多くの人々を殺していった。

だが、そんな日々も長くは続かない。


暴政が数十年も続くと各地に抵抗勢力が生まれ、それがやがて国となった。

四方を敵に囲まれたミレイアは、長い時をかけて領地を削られ、遂には一度滅亡してしまったのだ。

こういった経緯から、ミレイア人はあまり好かれていないようである。



「これが私めの知る全てでございます。ご期待に沿えましたでしょうか?」


「……不思議に思ってたんだよな。レジーヌやオッサンに比べて、かつての重臣とやらが異様に性格悪かったからなぁ」


「お客様?」


「あ、あぁ! だいぶ為になる話だったぞ、ありがとうな」


「もったいなきお言葉でございます」



オレにとっては衝撃的な内容だった。

オッサンから聞いていた前国王は名君っぽい人だったから、てっきり仁愛の国だとばかり思っていたが、それは誤りのようだ。


推察するに、何世代も前はミレイアも酷い国だった。

王を筆頭に貴族連中が好き勝手に振る舞っていた事だろう。

それもやがて上手くいかなくなり、政策の転換を迫られた。

そんな流れを受けて前ミレイア国王、もしかするとその先代かもしれんが、善政を敷くことを誓う。


だがその時、貴族連中はどうだったろう。

きっと賛成と反対に別れたはずだ。

派閥はそこからどうなったか。

賛成派は忠義心も篤いだろうから、前王とともに玉砕したかもしれない。


となると、後に残ったのは反対派だ。

言い換えれば、悪政によって私服を肥やそうとする連中だけ生き残ったんじゃないか。

少なくとも、監視役に回された坊っちゃん連中を見る限り、国家中枢の質も悪いことは想像に難くない。



「ミレイアの復興って、やって良かったのか悪かったのか……よくわかんねぇな」



アリアは何も言わない。

どうやら独り言だと解釈されたようだ。

まあ実際、その通りだった訳だが、ほんの少しだけ寂しく思った。


時間は過ぎて同日の昼。

陥落したばかりのアルフェリア城に来客が来た。

昨日まで一緒だったミレイアの監視役である4人組だ。

窓から連中を覗き見たところ、全員が健在のようだった。

どうやら丸太を転がしたくらいでは、殺すどころか浅傷を負わせた程度で終わったらしい。



「クケケ。全員ピンピンしてやがるのか。いや、これはむしろ好都合だ」


ーー残念だ、というお気持ちは微塵もないのですね。


「むしろ嬉しいくらいだ。昨日の青い薬の出番がこんなにも早く来たんだからな」


ーーミノル様。表情が素敵過ぎます。私好みの大変素晴らしいものですが、それでは企みが予見されるでしょう。


「マジかよ、顔に出てる?」


ーーアゴを引き、うつ向き気味になさると良いでしょう。あのダニどもは注意力に欠けていますので、配慮はそれだけで十分かと。


「助かる、ありがとうな」



外の様子がにわかに騒がしくなる。

連中が王宮前にまで到着したようだ。

オレを散々コケにしたあの4人。

そいつらにまとめて生き地獄を見せてやれるかと思うと、どうしても頬が歪んでしまう。


腰にくくりつけた袋をヒト撫でして、これから始まる復讐劇に心を踊らせた。

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