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第82話 魔緑石の力

四角い箱にぶっとい足が2本。

箱の上左右にそれぞれ備え付けられた巨大な砲。

敵の切り札である『砲機兵』の全容だ。


それが姿を現すなり、敵の士気が大きく盛り返した。

指揮も行き渡るようになったのか、弓兵も無駄撃ちをやめ、矢をつがえたまま時を待っている。

恐らくオレが攻撃の為に降りる瞬間を待っているんだろう。

一気に手強くなったと感じる。



「どうした。ハエの様に飛ぶばかりではないか! 仕掛けてこないなら、撃ち落とすまでだ!」



2門の砲より強烈なレーザーが放たれる。

ヘラクレスは今のところ上手く避けてくれるが、敵の狙いも正確だ。

ぼんやりしていると直撃してしまいそうだ。



「クソっ。調子に乗りやがって……」


ーーミノル様。決してあの光を受けてはなりません。避けるか迎撃するかでご対応ください。


「やっぱりヤバイか。食らったとして、どれくらい消耗する?」


ーー馬は即死、あなた様も瀕死の重症を負うでしょう。


「そんなにかよ。いよいよ戦い方を工夫しねえと」



その間も射撃は止まない。

いくつもの光線が頭上を、足元を通りすぎていく。

エネルギーを充填する必要がないのか、ひっきりなしに飛んできた。

安全策を取るならチャージタイムを狙いたい。

だが、その隙が一向に見えてこなかった。



「だったらこっちも遠距離攻撃だ!」



狙うはデカブツの足。

自立出来なくなればまともに射撃も出来なくなるだろう。

左手を突きだし、存分に魔力を込めた。



穿うがて、炎龍!」



猛り狂った炎の龍が空を駆けていく。

弓兵が、バリスタが撃ち落とそうとするが、その身体に届く前に全てが蒸発した。

勢いを止めること無く、砲機兵の右足に向けて疾走していった。

だが……。



「ハッハッハ! 無駄だァ!」



標的を目前にして、龍が弾けた。

敵方に被害は無い。

山すら吹き飛ばす大魔法が忽然と消えてしまったのだ。



「バカめ! 対策をしていないとでも思ったか! 魔緑石まりょくせきが有る限りワシは無敵よ!」


「何だ今のは! どうして消えたんだ!」


ーーあの機体はミノル様と同様、大いなる魔力によって守られております。相手の魔力が尽きるまで、傷つける事は叶いません。


「マジか……そんなヤツ倒せんのかよ」


ーーミノル様の余力も鑑みまして、一度撤退する事を進言いたします。


「引き上げろって……あぶねっ!」



アリアとの会話中ももちろん攻撃を受ける。

ヘラクレスが上手く避けてくれるが、話には集中出来そうにない。



「読んでいたぞ! そこだ!」


「し、しまった……ッ!?」


「死ねぇぇえーー!」



さっきの攻撃は誘いだった。

ヘラクレスが避けた先にもう一射放たれた。

回避は間に合わない。



ーーミノル様。急ぎ斧を前へ。どうにか凌いでください。


「わかった。ヘラクレス、迎え撃つぞ!」


「ヒヒィンッ!」



視界一面が光に染まった。

オレはそれに向けて斧を突きだした。

すると、オレたちの体を守るように、半透明のマユが生じた。

それが光の侵入をどうにか防いでくれている。



「ブヒィィンーーッ!」


「耐えろ、耐えてくれ!」



凄まじい圧力だ。

ドウドウという轟音も耳をつんざく。

まるで濁流に飲み込まれた木の葉のようだ。

上下左右に揺さぶられながらも、どうにか耐える。


みるみる消費される力。

終わりの見えない光の攻勢を前に、心に不安がよぎる。


……もう少し、もう少しだけ堪えれば!


挫けそうになりつつも、どうにか叱咤し続けた。

気持ちで負けたらお終いだ。

後先を考えるのを止め、光を凌ぐことに気持ちを傾けた。


するとやがて、途切れた。

目が刺さるような眩しさは消え、辺りには夜空や地表が見え始める。



「突破した……って、うわぁあ!」


「ブッヒヒィンーーッ!」



困難は終わらなかった。

台風のごとき圧力から解放されたが、その時バランスを逸してしまう。

その場で落下を始め、地表に向かってまっ逆さまに突き進んでいった。



「ヘラクレス! オレから離れんなよぉ!」


「ヒッヒィン!」


「つかまれぇーーッ!」



空中で体勢を整える事は出来なかった。

重力加速度そのままに落ちていく。

そしてどこかの屋根を突き破り、地面に叩きつけられた。


久々に体に痛みが走る。

懐かしさとともに、嫌な予感が胸を打つ。

それは魔力の底が見え始めたサインでもあるからだ。



「いてて……。ヘラクレス、無事か?」


「ブルルル……」


「良かった、怪我はしてないみたいだな」



幸いにもお互い埃まみれになっただけで、無傷で済んだ。

ヘラクレスは意気消沈し、翼もいつの間にか消えているが、ちゃんと4本足で立っている。

長い顔がオレの腕にすり寄ってきた。

これは彼女なりの謝罪なんだろうか。

その頬を少し撫でつつ、辺りの様子を確認した。



「ここはどこだろうな……。見た感じ宝物庫のようだが」


ーーミノル様。この戦の勝利が確定しました。あなた様の強運には目を見張る想いです。


「何言ってんだよ。今のオレには闘うどころか、ここを脱出する力すら残ってるか怪しいんだぞ」


ーー左手奥にある、緑の石をご活用ください。


「緑のって、アレかよ」



アリアが誘導したのは、部屋の隅にある台座だった。

その上には拳大の緑色の宝石が置かれている。

それを手にすると……ヒヤリ。

思わず身がすくむ程の冷気を感じたが、それは一瞬でしかなかった。


これが何の役に立つのか。

オレには巨大なアメジストにしか見えないが。

しかも研磨のされていない、ゴツゴツと表面の粗いものだ。



ーーそれが魔緑石です。長い時をかけて魔力を封じ込めた天然石です。


「これが……か。使い方は?」


ーーそれを手にしたまま、魔法を発動させてください。石に封じられた魔力を活用する事が可能となります。


「この石でオレの魔力を回復することは?」


ーー不可です。あくまでも、魔力の消費を肩代わりするものに過ぎません。


「そういうもんか。だが十分だ」



宝物庫の窓からは、依然として城門の前に居座る砲機兵が見える。

そして、敵の槍兵が隊列を整え、こちらに攻め寄せてくる所だった。

間一髪だと思う。

この魔緑石のおかげで窮地を脱そうだ。

石を小脇に抱え、窓の方に向けて右手を構え、大声で叫んだ。



「穿て、炎龍ッ!」



すると、凄まじい風圧が襲ってきた。

3頭の赤い龍が発現し、壁を突き破っていったのだ。

先を競うように、それぞれが追い越そうとして加速する。

そして瞬く間に敵兵を焼き、件の兵器にも襲いかかった。



「な、何だ! こんな力をどこに隠していた!?」



信じられないものを見たかのように、敵が驚愕の声をあげた。

今の攻撃でもアイツは倒せなかった。

だが着実にダメージを与えたようだ。

右半身の砲は吹き飛び、胴の部分も焼き焦げている。

今度の魔法は防がれなかったからだろう。



「小癪な死に損ないめ! 一門あれば十分、今度こそ吹き飛ばしてくれるわ!」


「凍蛇、敵の足を奪え!」


「な、何だと!?」



青い蛇が敵の足に巻き付いて凍らせた。

氷で地面と繋がってしまい、旋回が出来なくなる。

これで砲に狙われる心配も無くなった。

そしてすかさず止めの一撃を放つ。



「穿て、炎龍ーーッ!」



再び呼び出された3頭の龍。

それは暴風を巻き起こしつつ、標的を飲み込んだ。



「ば、バカな! ワシこそが最強の、大陸最強の王……ッ!」



最後の断末魔とばかりに、叫び声が響いた。

それもすぐに聞こえなくなる。

最後に残されたのは、凍りついていた足の部分だけ。

他の部分はノコギリで切り取ったように、跡形もなく消えてしまった。



「やった! オレたちの勝ちだぞヘラクレス!」


「ブヒィン! ブッヒヒィン!」


ーーおめでとうございます。あの窮地から、見事な巻き返しでした。


「それもコイツのおかげだよ……って、あれ?」



魔緑石にヒビが入ったかと思うと、音をたてて崩れてしまった。

いくつもの欠片に分かれたが、そのほとんどが色を無くし、薄い灰色に染まっていた。

いまだに美しい緑色なのは、手のひらに僅かに残ったヒト欠片だけだ。



ーー魔緑石は力を使い果たすと、今のように壊れます。それには最早、先程と同等の力を生み出す事は出来ません。


「そっか、消耗品なんだな。でも良いよそれくらい。ヤツらに勝てたんだからさ」



壁に出来た穴から外を見る。

その向こう側の様子は慌ただしく、敵兵が武器を投げ捨てて逃げていく姿が見えた。

オレはそれをどうするでもなく、ヘラクレスと並んで、しばらく一緒に眺めていた。



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