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第25話 待ちわびた再会

初めてやってきた都会の街だけども、少し無作法だったろうか。

何せ壁をブッ壊すという、ダイナミクス感が満載の侵入法だ。

アウトローやチンピラだってもう少しお行儀が良いだろう。

まぁオレのやった不法行為なんて、ここいらの連中に比べたら些細なもんか。


街の中はやはり外とは別世界だった。

石畳で整えられた大通り、レンガ造りの豪邸が立ち並び、すべてが真新しい上に庭園まで備わっている。

噴水付きで水遊びまで出来るんだから、呆れて物が言えない。


壁一枚向こうから怨嗟の声を聞きながら、優雅に暮らすというのはどういう了見なのか。

わらっていたか、さげすんでいたかの2択だろう。

憐れんでいたならば、外の暮らしはもっとマシになったハズだからな。


カォンカァンカァンッ!


けたたましく鐘が鳴る。

もしかしなくても警報だろう。

城に繋がる坂の上、各路地や防壁の門の方から、10人20人と敵兵が集まってきた。

そうしてあっと言う間に包囲されてしまった。


アリアが言うには、この場に532人ほど居るらしい。

もはや蟻の這い出る隙間も無さそうだ。



「止まれ! 死にたくなくば投降しろ!」



城からやってきたグループの一人が声をあげた。

装備や頭飾りがひと際目立つ。

恐らく軍曹だの団長だの、肩書き持ちなんだろう。

それにしても『死にたくなけりゃ』とは笑わせる。

お偉方以外の命なんか屁とも思ってねぇ連中の台詞じゃない。

オレは返事を返さず、手近な敵を殴り飛ばした。


フットワークを軽くし、ダッキングしつつ、低い姿勢から迫る。

そこで腹フック。

腹フック。

腹フックからの腹フック。

それから、起き上がり様に右アッパー。


鉄の装備なんかお構いなしにひたすら殴り続けた。

それにしても技が決まる決まる。

やってて良かったボクシングゲーム。


連中は怯むばかりで反撃に移ろうとしない。

ボヤボヤしていて良いのかな、ミノルさんは気持ちが整うのを待つほど善人じゃないぞ。

5人、10人と木の葉のように吹き飛ばす。

騒ぎに巻き込まれる形で付近の邸宅の壁が、屋根が、噴水が弾けて割れる。



「隊列を組め! 1人で当たろうとするな!」



敵から檄が飛ぶと、ようやく相手もそれらしい動きを見せた。

密集して槍の穂先を揃えるフアンランキングとかいう陣形だ。

戦略ゲームで散々お世話になったアレだ。


この戦法は一度破っているが、今回は簡単にいかないだろう。

ここは家やオブジェが邪魔をしていて横から攻めるというのが難しいからだ。



「参ったな。突撃しても良いけど、反撃をもらっちまう。となると魔力がもったいねぇ」


ーー提案します。足元の石に魔力を込め、投げてみてはいかがでしょうか。


「……おい。お前の言ってることが何か予想できたぞ。本当にそんな真似が出来るのか?」


ーー全てはイメージ次第となります。



言われるがママに石を拾い、魔力を込めていく。

頭に浮かべたのは手榴弾だ。

拳大の石にはすぐに魔力が満ちた。

後は投げるだけ。

失敗したらだいぶ恥ずかしいが、大丈夫かよ。



「弾けろオラァ!」



野球経験は無い。

友達にも笑われた腕投げのフォームにて、だけど全力で投げつけた。

微妙な球威で飛んだ石が前列の男に当たる。

すると……。


ドォォオオンッ!


想像以上の爆発が巻き起こった。

熱波に埃、鉄クズに血飛沫……ヒエッ!

いまだに血は慣れねぇな。



「何だよ、何なんだよコイツは!」


「人間じゃない! 化けモンだ!」


「確かにオレは化物かもなぁ。でもよ、お前らよりは人間らしい心を持ってんぞ」


「あぁ! まだ死にたくねぇよ……」


「コイツを殺せば、殺しさえすれば……!」



固まってまとまっていた敵が突然動き出した。

完全に恐慌状態だ。

隊列も連携もかなぐり捨てて、がむしゃらになって攻めかかってきた。

だがこれはミノルさんにとっても好都合。

遠慮無く叩きのめさせて貰う。



「ギャアッ!」


「グハァーーッ」



ろくな歯ごたえ無く打ち倒していく。

統率不能な軍隊のか弱き事よ。

終いには逃亡者まで出始める始末だった。

オレは蜘蛛の子を散らすようにして追い払い、城へと続く坂道を登っていった。


いくつもの悲鳴が聞こえてくる。

体を宝石でゴチャゴチャと飾り立てた連中が、こっちを見ては腰を抜かしている。

そんな反応は無視して城へと走った。



「テメェか! オレ様の庭で暴れやがったのは!」



城の前で極端に太ったオッサンが怒鳴った。

品性の欠片すらないが、立ち位置や装いからして公爵なんだろうとギリギリ察しがつく。

その巨体の前には、銀色に美しく輝く兵が横一列に並び、そして最前列には妙に軽装な男が数人立っている。

そいつらは全員がこちらに手を向け、口許を忙しなく動かしていた。


……魔力が集まっている。


オレは察した瞬間に、慌てて迎撃しようとするが。



「撃てぇ!」


「燃やし尽くせ、フレイムブロウ!」



大きな火球が現れた。

それから幾筋もの赤い軌跡がこちらへと伸び、オレは火柱に包まれてしまう。

直撃だ。

公爵の引き笑いが辺りに響き渡る。



「ファーッハッハ! 口ほどにもない。見たか、これがディスティナ魔法騎士団の実力だぁーーッ!」



魔法騎士団。

一国のもつ力。

これが魔法のエリートたちによる、最高峰の武力だと言うのか。



ーーミノル様。お加減はいかがでしょうか。


「なんとも。全然熱くねぇ。連中の方が余波で暑いんじゃねぇの?」


ーー情けない威力ですが、軍備を怠った国の武力など、たかが知れています。侮力と呼ぶ方が相応しいかと。


「じゃあ連中に本物の火を見せてやろうか。あと一発撃つくらいイケるぞ。ド派手に弾けさせて終わりにしようぜ」


ーー炎龍であれば、眼前の敵を城もろとも吹き飛ばせましょう。問題ありませんね。


「問題は……あるだろ! 城には囚われたヤツらが居るじゃねぇか!」



バシッと爆発オチをキメたかったが、それは泣く泣く諦めた。

懐から石を取りだして念じる。

そうやってお手製の手榴弾を作成し、火柱の外まで手を伸ばし、手首のスナップだけで投げつけた。

公園で鳩にエサやる感じで。


ドドォオオオン!


さっきよりも力を込めたから、爆発も比例して大きかった。

火柱が止むと惨状が嫌でも目についた。

かつて人だったものが、そこら中に転がる。

立っている人の姿なんかひとつとして無い。

あの公爵が身に付けていた服や装飾品も、焼け焦げた状態で見つけることができた。


……悪は滅びた、その見せ場すらなく。



ーーミノル様。おめでとうございます。悪の根を立ちきる事に成功しました。


「なんかアッサリしてんなぁ。もっとさ『オレの怒りを、人々の悲しみを思い知れぇー!』なんて叫びながら、激闘の末に倒したかったぞ」


ーー名よりも実を得たのです。お気になさらぬよう。それよりも、目的があったのではないですか?


「そうだ! 早く助け出さなきゃ!」



急ぎ城の中へ乗り込んだ。

混乱の極致なのか、すれ違う人々は転がるようにして出口へと殺到していく。

オレが騒ぎの張本人だとは知られていないようだ。



「アリア、豆はどこだ。探せ!」


ーー探索致します……。発見。右手の階段より地下倉庫に向かい、最奥に保管されています。


「よし、地下倉庫だな!」



階段を降り、重厚な鉄扉を蹴破り、大きな倉庫の中を駆けた。

一刻も早くお豆さんを助け出さなくては。

視界を埋め尽くすのは下らないものばかり。

金貨の山、違う。

宝剣宝具、違う。

壺やら花瓶、全然違う。


視線をさ迷わせていると、その一角に見つけた。

山のように積まれている豆状のものが。



「会いたかったぞ、大豆さん! もう離さないから……な?」



豆をひとつ手に取るが、どうも様子がおかしい。

楕円形のスフィッとした美しい形状フォルムじゃない。

すべての豆がプックリとした妙な膨らみを帯びている。

これはもしかして。



「ヒヨコ豆じゃねぇかぁーーッ!」


ーーおめでとうございます。あなたは今、大陸の財産の4分の1を手中に収めました。


「こんなもん要るか! 大豆だよ、大豆はどこにある!?」


ーーここに無いのであれば、別の国が保有しているでしょう。


「別の……くに?」



膝が砕け、その場にうずくまった。

指先からはあらゆる力が抜けていく。

これだけの苦労をしたのに、散々頑張ったのに、とうとう大豆は手に入らなかった。

この絶望を誰が汲み取ってくれるだろうか。

もういっそのこと、頭を打ち付けて死んでしまいたいくらいだ。


その後、貧民街の有志たちによって、人質たちは全員助け出された。

そして多くの人たちが押し掛け、口々に礼を述べていった。

オレはそれに取り合う気力はゼロ。

ただ機械的に『……はい、はい』と返すのがやっとだった。


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