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第2話 霊界ジャッジ

やってきたのは雲の上のような場所だった。

といっても見晴らしが良いとか、青空や星々が望める訳じゃない。

視界の端から端までボヤッとした白いモヤが漂ってるだけだ。


それ以外は何もない。

モヤと恐ろしく長い行列の他には。

何の為のものかはわからんが、凄い数の人だと思う。



「何だよこれ。ラーメン屋かよ」



目の前の光景が他人事のように感じられた。

もしかすると本当にオレとは無関係なのかもしれない。

ちょっと成り行きを見守るとしよう。

いきなりこんなものを見せつけられても、何をすれば良いか見当もつかないしな。



「おにいさーん、そこのお兄さーん!」



少し離れたところに居た女性に声をかけられた。

サラサラの黒髪に振り袖姿の綺麗な人。

額に生えている角と、裾が妙に短いことを除けば、ごく普通の和装美人さんに見える。



「ねぇ、あなた死んだ人でしょ?」


「え。うん、そうだけど」


「だったらそこの最後尾に並んで。それからは先々の係員に聞いてくれれば良いから!」


「あのさ、ここってどこなの?」


「それじゃあよろしくねー!」


「お、おい!」



質問に答える事なく、女の人がどこかへパタパタと駆け去っていった。

話くらい聞いてくれても良さそうなのに。

せめてこの状況について知りたかったが、悩むだけ無駄なのか。

ひとまず言われた通りにしよう。


列の歩みは遅かった。

10秒おきくらいに1人分詰められていく感じだが、余りにも待ち人が多すぎるのだ。

ヒマつぶしがてらに周りの連中と話そうとしたが、それは無理な相談だった。



「もしかして、世界中の死んだヤツらが集まってんのか?」



ここは異様なほどに国際色豊かだった。

西洋、中東、ラテンにアジアン。

さながらインターナショナル・スクールみたいだ、通ったことねぇけど。


彼らの大半は泣いていた。

言葉はわからんが、きっと自分の運命を嘆いているんだろう。

遺してきたモノに未練が断ち切れない様子だ。

そして、それはオレとて同じこと。



「そう、味噌。味噌だよお前。せっかく買った赤白合わせの3種……。一口で良いから食いたかったなぁ」



死ぬにしても、コレクションたちと別れを済ませたかったもんだ。

特に新入りの3点。

アイツらの味を知らずして旅立つなんて、こんな不幸があるだろうか、否無い。



「はい次の人。ゲートくぐって」


「……ふぇ?」


「アンタだよアンタ! 良いからさっさとくぐってくれよ、後がつかえてんだ!」



考え事をしている間に、いつの間にか列は大分進んでいた。

目の前にはアーチ状のオブジェがある。

そのすぐ側には椅子に座る、神経質そうな眼鏡のオッサン。

そいつにまた怒鳴られそうだったので、ゲートとやらを潜った。


するとオッサンがオレに手招きする。

呼び寄せるにしても酷すぎるだろ、ここの連中は随分と雑な気質なんだな。



「ええと、魂の色はブルー。二十歳、死因は事故死……アンタは3番ね」



ーーペタコン。


オレの手の甲にシャチハタが押された。

丸付きの3と印字されたが、これが何だって言うんだ。



「なぁ。3番だったから何だよ」


「はい次の人ー!」



オッサンが列の人を促しつつも、アゴをしゃくった。

その地面には矢印に③とある。

この向きに歩けって事だろうが、本当に塩対応だな。

SNSに書き殴るぞこの野郎。


腑に落ちないながらも矢印に沿って歩きだした。

今はともかく居場所が欲しい。

やれ並べ潜れあっちいけと、急かされ続けてるせいだろう。


しばらく進むと、また別の人物が待ち受けていた。

貴族のお屋敷にあるような長テーブルがあり、その上には山のように書類が積まれている。

そこに割と小柄なオッサンが椅子に座ってるんだが、顔色が酷く悪い。

頭もしきりにユラユラと揺れている。

疲労か、寝不足か、それとも単なるクセなのか。



「はい。3番さんね。えーっと、トラックによる事故死。じゃあ異世界行きね」


「異世界? え、マジで?」


「君には特別な能力を与えといたからね、美味いもん食うほど強くなるよ、じゃあいってらっしゃい」


「ちょ、ちょっと待てよ! 異世界って何だよ、どんな場所だ? それに特別な能力ってのもキチンと教えてくれ! お前らさっきから雑すぎんだよ、仕事下手か!」


「チッ。うっせぇな」



明からさまな舌打ちの後、書類の束が飛んできた。

嫌がらせかと思ったが、大量の紙はオレの目前でフッと消えた。

何十枚という数がひとつ残らずに。



「はい今のはマニュアルね。特別サービスだからクレームとかやめてよね。じゃあ行ってらっしゃーい」



ーーガコン。


オッサンが空から垂れた紐を引く。

すると、オレの足元が消えた。

その瞬間にまっ逆さまに墜落していった。



「う、うわぁぁあーー!」



辺りは完全な暗闇だ。

その中を体が重力による加速を延々と受け続けている。

これもしかして、もう1回死んだりしないか?

アイツらの仕事ぶりが不安を助長する。



「……光だ。光が迫ってくる!」



遠くに輝くものが見えたかと思うと、それは瞬く間に大きくなった。

そして視界が真っ白に染め上げられる。

目を介して脳に痛みが走った。


「こ、ここは……?」


再び目を開く。

そこは木々の生い茂る森の中だった。

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