第六話-梅野-
「Cの《感覚型》は共感覚が分かりやすいかな。人の声とか、文字とかに色が見えるねん」
「なんか、素敵ですね。私も見てみたい。私は何色だろ?」
「心療内科のカウンセラーとかにおったりすんで。そういう人はやっぱり特別やから、ネットとかでも噂になってるし興味があったら行ってみたらええんちゃうかな」
「どこも悪くないのに行けませんよ。絶対予約でいっぱいなのに、冷やかしで行ったら迷惑じゃないですか」
「あそうか、それはそうやな。まあでも共感覚はCランクの中でも結構割合高いから、上手いこと出会える可能性もあるかもしれん。後はええと、Bか。Bの《感情型》な。これは何らかの形で感情が見て取れる人」
「感情を見て取る?さっきの共感覚はこっちじゃないんですか?」
「共感覚はちょっと難しいねんよな。Cの共感覚は文字を見たり声を聞いたりして色を見るだけ。その色がどんな感情を伴っているかまでは判断出来へん。文字や色って例で言うたけど、自分の感じ取った色をそれに上塗りしてるような感じや。一方Bの共感覚は、感情によって見える色が変わる。それは自分の感じ取った色じゃなく、感情を読み取る相手から与えられる色」
「難しいです」
「Cは相手に与えた色を見る。Bは相手から与えられた色を見る」
「うーん」
顎に指を添え、眉を寄せて悩む梅野に「これ以上専門的な話はもっとわからんやろうしなあ」と苦笑いを浮かべる。
「ちゃんと理解するにはしっかりノヴァについて勉強するか、それともそれぞれのランクの子をひっ捕まえて根掘り葉掘り聞き取りするしかないんちゃうか」
「共感覚の子と上手く知り合って、話を聞いてみたいですね。出来ればCもBも」
話を締めくくるように梅野がそう言うと、同時にピピッと小さな機械音が鳴る。診察時間の30分が経過した合図のタイマー音だ。
椅子から立ち上がり、荷物入れに入れていた小さなショルダーバッグを肩に掛ける。振り返ると、ずれたメガネを手の甲で押し上げた医師がひらりと手を振った。
「お大事に……ではないな。半年に一回は定期健診があるから、忘れんといてな」
「わかりました。ちゃんと予約して帰ります」
「半年に一回言わず、いつでも来てくれてもええんやで」
「先生の診察、そんなに頻繁に予約取れないじゃないですか」
冗談めかしてそんなことをのたまう軽薄な医師に肩を竦める。これで医者としての腕が確かでなければ、それなりに苦情の一つや二つ飛んで来てもおかしくないのではないだろうか。
「あ、せや」
「なんですか?」
「そんな重要なことではないんやけど。さっき梅野ちゃん、友達に二人もノヴァの子がおる言うたやん。その子らはランクなんぼなん?興味あるんやったら、いっぺん詳しく聞いてみたらええんちゃうかな」
「うーん、そうですね。でも、一人は私と同じDで、殆ど同じようなものっぽいから」
「それは残念やな。いや、Dでもそんなごろごろおるわけちゃうし、充分凄いんやけどな。……でも一人はってことは、もう一人はDとちゃうってこと?」
「もう一人」
もう一人は、と、梅野の口が迷うようにまごつく。視線を不自然に宙へ飛ばし、言葉を選ぶように「えっと」と間を繋げる。
「Aです」
「……え、ほんまに?A?」
「はい。先生の言う、《神秘型》ミステリーノヴァ。その子には、死点というものが見えるらしいです」
意表を突かれたかのように目を丸める医師に背向け、扉の取っ手を握る。外では頑ななまでにゴーグルを付ける知己のスーパーノヴァを思い出し、複雑な感情から逃げるように目を背けて強引に口角を引き上げる。
「それじゃあ、また半年後に宜しくお願いします。相模先生」