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ミステリー・ノヴァ  作者: 皇椋
第一章
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第二話-相模-

「蒔いた種は花咲いたらちゃんと摘む。でもな、まだ花は咲いてへんねんや。優しいお前が心痛めんのはよーわかるけど、もうちょい待ってや」

「この四日間でたくさんの人が亡くなってる。原因がわかってるのに、知らないフリして見逃すことは出来ない」

「皐月」


 直接的な会話ではない。相模は打つのが面倒だからという理由で音声入力でメッセージを送信し、受信したメッセージも音声による読み上げの機能を導入しているが、実際はただの文面だ。まるで遮るようにチャット相手の名前を呼びかけはしたものの、対面的な会話とは違って”遮る”という効果はそれ程ない。それでもチャット相手である皐月は呼びかけた意図を汲み取ったのか、まるで口を噤んだかのようにメッセージの受信は止まった。


「なあ皐月。気持ちはわかるって。でもな、よー考えて。お前は見逃されへんって言うけど、逆に今日までの十六人は見逃してきたわけや。そうやろ?俺は別にお前を責めてるわけちゃう。この件に関して、皐月は何も悪くない。敢えて言うなら知らんフリして見逃してることやろうけど、そんなもんは俺とアイツしか知らん話や。俺ら二人が黙ってれば誰もお前を責めることはないし、ちょっとでも関与してるなんか周りは一ミリも思わん。俺らがまかり間違って警察に捕まったり死んだりしても、皐月は何も心配せんでええんや」

「拗らせた過保護は止めろよ。俺はお前と同罪だろ。もしお前とアイツが俺のことを何も言わず黙ったまま捕まったり死んだりしたら、俺は自分から世間に触れ回るからな」

「……せやなあ。皐月はそういう奴やわ」


 呆れたようにも、諦めたようにも聞こえるその些細なイントネーションが当然文面で伝わる筈もなく。「何か馬鹿にした?」と見当違いな捉え方をされてしまう。そうじゃない、と見えもしないのに顔を横へ振った。


「皐月。俺らは間違ってる。どう言い訳したところで誰も正しいとは言うてくれへんし、同情も救済もしてくれん。バレたら世間には憎悪と嫌悪しか残らんやろ。でもなー皐月。俺ら二人の中だけでは、俺らが正義やろ」

「着いた」


 今までの話の内容を綺麗な音声が全てぶつ切った。こういうところが電話と違いアプリの悪いところだと、ポップアップで表示された味気ない三文字を見ながら相模は口を尖らせる。自分は通話の要領で喋っているが、相手はメールと同じ使い方をしているのだから仕方ない。


「二階のいつものとこおんで。一回荷物置いてから注文行ったらどうや?」

「そうする。でも先にトイレ行く」


 トイレ?それも荷物置いてから行けばええやろ。そう言おうとしたが、余程急いで行かなければならない緊急性があるのだろうと思い口を噤んだ。もしかしたら体調が悪いのかもしれないとも思い、言葉を選んで「なあ」と呼びかける。


「大丈夫か?お前、体調悪いのに来たんちゃうやろな」

「違う」

「せやったらどうしたんや」

「ちょっと待って」


 歯切れの悪い返事が続く。それでも相模は急かすように「なあ」「おいって」「ほんまに大丈夫か?」としつこくメッセージを送り続けると、ようやく諦めたのか、それでも渋るように途切れ途切れのメッセージを送って来る。


「いやさ」

「なんや」

「実はさ」

「うん」

「服、表裏逆に着ちゃってた」

「おまっ、やらかしてるやんけ!」


 靴を左右に履き間違えるなんて馬鹿な真似はしないと啖呵を切ってはいたが、どうやら服の裏表は間違えてしまったらしい。「恥ずかしい」と呟くその声からは、先ほどまでの勇ましさが消え綺麗な声色と言葉が絶妙にマッチしていた。

 音声が入ってしまわないように笑いを堪えながら、また一口コーヒーを飲む。難しいことを今一人で考えるのは止めようと、コーヒーの苦味を舌でじっくりと味わいながら首を傾ける。どうせこの後皐月と合流することになれば、嫌でも今後を考えさせられることになる。ついさっきアプリでやりとりをした内容も、再び口にすることになるだろう。

 ぺろりと舌なめずり。取り敢えずは来たる戦に備えて腹を満たそうと、残っていたハンバーガーを口の中へ詰め込んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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