表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミステリー・ノヴァ  作者: 皇椋
第一章
1/16

プロローグ

 耳障りな音が鳴り響いたのは、玄関扉のノブへ手をかけた時だった。ウォン、ウォンと、人の不快感と恐怖心を煽るような音が、スマートフォンへと繋げたイヤホンから吐き出される。ついさっきまで流れていた、ピアノとカホンによる激動のアンサンブルは一体どこへ行ってしまったのか。

 けたたましいサイレンが耳元で三度音を響かせるうちに、コードに付属されたボリュームコントロールで音量を下げ、片耳からイヤホンを外す。


「んだよ……」


 と、ため息混じりに不満が声に出るのも仕方の無いことだった。一度聞くだけでも心臓に悪いこの警報音。連日四日間、まるで自分で定めたアラーム時計のように鳴り続けているのだ。

 未だ右耳に小さな音で鳴り続ける不協和音に眉根を寄せながら、ブレザーのポケットからスマートフォンを取り出す。液晶にはバックグラウンドを薄い赤で敷いた通知が浮かび、大げさな程のエクスクラメーションマークの横にニュース記事のタイトルが記載されている。

《新たに7遺体 豊島区池袋西口から徒歩10分の殺戮》

 あまりに実直過ぎる表現ではないだろうか。今時小学生でも防犯だなんだとスマホを持つ時代。豊島区と隣接する区に住んでいる人ならば、有無を言わさずどの端末にも飛ばされるこの警告文を子供が見て、どう思うだろうか。そもそも読めるのか?

 そこまで頭の中で言葉を連ね、水城は考えることを止めた。こんなところで自分が気を揉んだところで無意味であることに気づいたのだ。

 通知をタップすると 、記事を見るようにしつこく促していた警報音が鳴り止む。16桁もの暗証キーを手早く打ち込み、更にパターンキーを指を滑らせて解除すると、ようやく目的の記事が表示される。通知に表示されていた大きな見出しは読み飛ばし、本文へと目を移す。

《本日未明、巡回中の警察官二人が豊島区池袋西口から徒歩十分程の居酒屋が立ち並ぶ路地裏にて、計7遺体が無造作に積み上げているのを発見。連日起こっている通り魔殺人事件を受け、厳戒態勢・捜査の最中に再び凄惨な事件は引き起こされました。

 関係者によりますと、遺体の損傷はいずれも先週日曜から続く通り魔事件の被害者達と同じく、鋭利な刃物で刺されたことによる失血死とされています。遺体により複数の刺し傷が見られるものもあり、犯人は強い殺意を持って犯行に及んだと思われます。

 また、証拠となり得る鋭利な刃物は依然見つかっておらず、犯人が持ち去ったものとみられます。警察は引き続き調査を続け、更に犯行現場区域の厳戒態勢を強める方針です。》

 昨日にも見たような内容のニュース記事にざっと目を通し、ページ下部に記載されているエリア毎の厳戒態勢中の行動規制を確認する。

 水城が今正に出ようとしていた自分の家は練馬区。犯行の起こった豊島区の丁度隣に位置する。まさか自宅待機なんて言わないだろうな、と区域一覧から練馬の文字を探し出す。そして見つけたその文字は、見事に真っ赤な太字で表示され、規制内容には《未成年は自宅待機。午後より解除予定。近隣高齢者には順次役所より規制中の対応についてご連絡させて頂きます。》と書かれている。案の定だった。

 暫くその真っ赤に強調された自分の住む区域と規制内容を睨み付けていたが、それを遮るようにチャットアプリのポップアップが表示される。送って来たチャット相手の名前を見た後、ディスプレイの電源を落としスマホをポケットへと突っ込んだ。首に下げていた分厚いゴーグルを目元まで引き上げ、左右に動かしながら顔に馴染ませる。


「行って来ます」


 習慣的な言葉。誰もいない家の中へ、投げやりに言う。

 耳障りに鳴り響いたアラームも、規制を言い渡すニュース記事も、小煩い幼馴染からの伝聞も。全て見なかったことにして、全て目を塞いで、幾重にも敷かれたセキュリティに目も向けず、水城は外への扉を開いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ