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化け猫の物語

作者: 秋葉竹


1

遠い昔、

私はあなたを見限った。


それはそれは好きだったけれど、

あなたの裏切りに傷つけられた私は、

あなたの顔を見ることさえ受け付けられなくなり、

あなたと袂を分かったのだった。


遠い空から声がする。

あなたが私を呼ぶ声がする。


もう、ずいぶん前に縁を切ったはずなのに

あなたが私を呼ぶ声がする。


それは、異国で歌うあなたの歌声。


まるでこの世には絶望しかないと

信じ込んだ

異常なくらい暗い、

それでいて伸びのある

声であなたは歌う。


歌う歌は、

明日への希望に満ち溢れた、

男と女の旅立ちの朝の唄。


歌詞と声がちょうど綺麗な正反対で

そのズレが、心地よいと

すっごい評判になり、

私の国にまで、聞こえてきたと言うわけ。


それはあなたは、

心をメロディーに乗せることができる、

数少ない天賦の歌手だものね。


どんなに有名になっても、驚かないわ。


だけどあなたが本来、

その歌をそう歌うと言うのは

ちょっと違うと思うわ。

あなたは楽しい歌は楽しく

前向きな歌は前向きにうたう、

はっちゃけた歌も大好きだったし、

明るい笑顔でうたうとき、

とても素敵な愉快なピエロも

演じ切っていたじゃない?


それがあの明るい歌を

あんな声で歌うなんて。


今、誰があなたの周りにいるの?

どうしてあんな歌い方しかさせてあげられないの?



2

それは、この国のラジオ放送、

(この国帰ってきたのなら、顔ぐらい出せよな)

歌のゲストで出ていたときの話。

私じゃなくても思うよね、

やはり、歌詞と歌声のギャップが

とても話題になっているようで

その番組のラジオパーソナリティーも

その質問をしていた。


あの歌の、

歌詞と歌声のギャップがいいという意見が

言いはやされれているようですが、

本人のお考えは?


えー、そうなんですよ。

最初からそのつもりで歌ったんです。

この歌は、実は、ある1人の女性に、

僕の心が伝わるようにと祈りを込めて歌っています。


えー?言っちゃっていいんですか?

その幸せな人って、あなたの恋人とか?


(ばっか、あたし、あたし、あたしの事よ、)

(なんてね?)


僕がまだ猫だった頃に


(えー?何言ってんのこの子!ダメッ!)


え、うん?


1人の女性と暮らしてましてね、

その人とそれはそれは楽しい生活を

送っていたのですが。


そんなこと、言っちゃってもいいんですか?


(よしよし、猫の事は忘れささないとね)


ええ、もちろん、

この国に帰ってきたの、そのためですから。



3

放送事故になりそうな位の

長い沈黙の後


ゴホンゴホンえへん、えーと

なんだかはなしが、凄い所いきそうなんですが……?


いいんですよ、何でもいいますよ。


パーソナリティーも、

ラジオ人としてのプロ意識が目覚め始めたのか、

はなしに食いついていく。


じゃあ、先ほどの、


《ドキッ!》《ネコッ?》


前に過ごしていた女性の正体は?

なーんつって?


ああ、ぼくの最愛の人ですね。

その人と出会ってぼくは生まれ変わって、

いまの自分になれたんです。


ああ、なるほど、

恩師にあたられるわけですね?

歌の、先生ですか?

失礼ですけど、

お母様かなにかのような、感じの?


いいえ、違いますね。

若、くはないのかな?

でも、妙齢の美しい女性で、

先ほどからぼくが最愛っていっているのは、

女性として、1番愛している、って、

そういう意味で、ですよ?



い、いいんですかね?

か、関係者の方、付き添いの方か、マネージャー、

いらっしゃいませんか?


はなしの流れについていけずに、

周囲に助けを求めるるが、

もう、止まらない。


そう、愛のチカラは、もう、止まらない。



その人の名前は、

さえき ともみ

ぼくの最愛の人で

ぼくの初恋の人で

ぼくの天敵で、

ぼくの、すべてです。

ぼくは、その人のために、生きています。


ねー、

聴いてる?

ともちゃん?

ぼくだよ、ぼくだよ。


ともちゃんのために、帰って来たよ。


(ばっか、ばっか、ばっか…………)

(どこで、なに言っちゃってんだよお?)

(ラジオの人が、困ってるんじゃない?)


(あんたって、ホント、……バカ…………)






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