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第25話 届けたい

 千佳から誘われてクラッシックコンサートに来ていた。小さい頃にピアノを習っていたらしく、そこからクラッシックが好きになったらしい。スーツで来てねと言われ、待ち合わせの所に現れた千佳はワンピースで華やかな格好をしていた。

「恥ずかしいからあんまり見ないで。」

「あ、あぁ。ごめん。」

 静かなコンサートホール。舞台にライトが照らされて浮かび上がるようなオーケストラ。初めて聞く音と演奏の迫力に圧倒される。クラッシックは全く分からないけれど生の演奏は心に響くものだった。

「付き合わせてごめんね。もしかして嫌だったかな。」

 終わった後の食事で言われて訂正した。

「そんなことないよ。クラッシックって言われて躊躇したけど、聞いてて癒されたり感動もした。」

「そっか。なら良かった。久人くんとも行ってみたかったんだ。一緒に。」

 微笑む千佳が眩しかった。

 店を出て、いつもの公園へ行こうと誘う。

「今日も紙ひこうきなの?」

 笑う千佳を公園のベンチに座らせてそこから距離を取った。

 俺の思いは紙ひこうき届けでは届けられない。何度も会っているのにメモ帳の紙ひこうきを飛ばしあっているのに言えなかったこと。紙ひこうき届け屋をしてるって千佳にこそ言わなくては。今なら、じいちゃんみたいな本物の紙ひこうきで思いを届けられる紙ひこうき届け屋になれた今だから…。

 メモ帳を開いてペンを持った。何度も飛ばし合ってもうメモは無くなりそうだった。その中の一枚に思いを託す。書き終えると折っていく。丁寧に丁寧に折って、角が立つように。俺の思いは届け屋の力では届けられないから、ちゃんと千佳の元まで風と紙ひこうきの力で届くように。

「行くよ!」

 ちゃんと受け取って欲しくて声を掛けた。手を振る千佳に目掛けて力一杯に紙ひこうきを飛ばした。真っ直ぐに飛んでいく紙ひこうき。同じように千佳への思いも真っ直ぐに届けられるように。

 受け取った千佳が紙ひこうきを開く。その姿を見ているだけで鼓動が速まってここから逃げ出したくなる。だけど逃げない。俺は自分の思いを千佳に伝えたいから。

 紙ひこうきを見た千佳がゆっくりと歩み寄ってきて、俺の前で立ち止まった。

「ずるいよ。こういうの。」

「だって俺には勇気が足りないから。」

「だけどこういうのは…。」

「うん。口で言うよ。」

「ま、待って。やっぱり大丈夫。」

 顔を赤らめた千佳が手に持つ紙ひこうき。その中には三文字が書かれていた。

『好きだ』

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