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第19話 俺みたいな奴が

 俺にしてみたら悪い思いを千佳は私の為を思ってくれたんだよね?と言った。そのことが心に強く引っかかっていた。

 俺はいつもの癖で端末を見ながら心に直接届く思いを聞いていた。ずいぶんコントロール出来るようになったけれど、目から得る情報は整理できて有り難い。あの死ねという思いを送ってくる野田浩司はまだ送って来ていた。ただ回数は減ってきている。誰か専門家が会っているのだろう。

 俺は端末の情報から出身地を調べた。町を転々としているがあまり遠くないところだった。そこの紙ひこうき届け屋に連絡することにした。

「紙ひこうき届け屋の大坪です。野田浩司さんの母親のことで伺いたいことがあります。」

「はい。野田夏代さんですね?」

「えぇ。夏代さんはきっと浩司さんに思いを送っていると思うのですが、それを私に一任してもらえませんか?」

 町を越えて思いを伝える時。長くなりそうな時はその二人のやりとりをどちらかの紙ひこうき届け屋が担うことがあった。

「浩司さんは私も気になっていたんです。お願い出来ますか?夏代さんも心配してるのは伝わるのですが…。」

 やはり思いは送っていたのだ。一見、送れないような思いを。千佳とのやり取りを思い出して強めにお願いした。

「俺にやらせてください。」

 自動で夏代から浩司への全部の思いがこちらの端末に送られてきた。

『困った息子で心配。』

『生き恥を晒してる。』

『恥じてもいい。生きていて。』

 死ねと送ろうとする浩司にこれらも他の言葉も、何より母親の言葉を送っていいのか迷う。しかしどう見ても夏代の言葉の数々は浩司を心配していた。これらの思いを母親からだとはすぐ分からないように加工して送る。

『心配してるよ。』

『生きてるだけでいい。』

 そんな風に加工して浩司に送った。


 何日かして、紙ひこうきが郵便で届いたらしい浩司から返事みたいな思いが帰ってきた。

『うるさい。』

『放っておいてくれ。』

 全てが『寂しい』に聞こえてならない。しかし思いを捻じ曲げて送ることは出来ない。野田浩司の今日の思いは夏代へは送れなかった。

 窓を開け、外を眺める。ビルとビルで切り取られた小さな四角い空が見えた。星の瞬きを確認して目を閉じる。

 俺みたいな奴が紙ひこうき届け屋をしてていいのか。人の思いを届けていていいのか。どんな思いを届けるのかも届けないのかも俺の考え次第でいいのだろうか。

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