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第15話 見たくなかったもの

「あら。お帰り。」

 呑気な母さんの言葉は耳をすり抜けて自分の部屋まで駆け上がった。部屋に入ると同時に大きく息を吐いて逸る気持ちを抑える努力をする。それでも気が急いて仕方がない。

 部屋の机の上にある、思いが届く端末を強引に隅へ寄せて机に登った。机の上から手を伸ばし、押入れの天袋に置いてあった缶を取り出した。

 あの頃のまま甘いクッキーが何個も描かれた缶の蓋は埃が被って薄汚れていた。窓を開けて、ふっーと埃を吹き飛ばした後、丁寧に拭く。大切な、だけれど胸が痛くなる思い出。

 ゆっくりと蓋を開けて、色褪せることない思い出の紙ひこうきが開かれた紙を何枚も中から出した。何枚も出した中から一番見たくなかった、今は何よりも見たくなった紙ひこうきを取り出した。それを意を決して裏返した。

 汚い文字の羅列。本物の紙ひこうきの時は本人の字で送られていた。それが唯一の送り主の手掛かり。

『仲良くするのやめる。』

 今、見てみても嫌な気持ちになる。だけど…千佳が言うみたいに言葉の裏側に込められた俺への思いを考えてみる。

 この紙ひこうきが送られて俺はじいちゃんの元へ行かなくなった。中学生の多感な時期というのも相まって親とも話さないし家族との会話は途切れた。そのままじいちゃんは亡くなってしまった。こんな紙ひこうきさえ送られなければ…そんな思いが余計にこの紙ひこうきを嫌いになって…。

 じいちゃんが俺だと分かってて相手も俺の一番の友達だと分かって送った。そのことが信じられなくてショックで…。

「なんでだよ。じいちゃん。」


 その夜から変な夢と声に悩まされるようになった。色んな人の声で「会いたい…」や「どうして…」「ありがとう」や「頑張って」も。頭が変になりそうで、ぼんやりすると聞こえてくるその声にいつもいつも何かに集中するようにした。それでも集中しながら寝ることは出来なくて寝不足を抱えて過ごすことになった。


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