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第1話 紙ひこうき届け屋

 紙ひこうきに思いを乗せよう。


 そんな夢見がちな公約が果たされて早何十年。紙ひこうき届けが立派な職業になっていた。

「なぁ。今朝のニュース見たか?隣町も紙ひこうきの電子化が進んだってよ。うちの町はまだかな〜?」

「うちは無理だろ?本物の紙ひこうきから郵便にするまでもずいぶん後だったって言うじゃないか。」

「げー。俺、隣町に引っ越そうかな〜。」

 最近よく耳にする紙ひこうきの電子化。そもそも紙ひこうきが郵便されるようになっただけでも紙ひこうきか?と甚だ疑問だ。それを電子化だなんて。

 頭が固いと言われそうな俺は大坪久人。二十歳。紙ひこうき届けを生業にしている。

 ブーッ。ポケットの携帯が騒いでメールの受信を伝える。確認すると裕太からだ。

『久人はまだ彼女作らないのか?紙ひこうき届け屋が恋しちゃいけないって決まりはないだろ?』

 昔からの知り合いの裕太だけは俺の紙ひこうき届けの仕事を理解してくれていて、俺も裕太には色々と話せた。それで裕太は俺の彼女の心配までしてくれるというわけだ。

『職業を伝えるのがダルい。伝えた後のことを考えるのも面倒。』

 さっきの通行人の反応が普通だ。昔こそ紙ひこうき届けの仕事をしていると言えば敬われた。それも父さんの代まで。今は胡散臭がられるのがオチだ。

『ま、飲みに行こうぜ。職業は伏せたっていいから。』

 合コンの誘いだって何度も断っている。ただ裕太の心配を考えると一度くらい顔を出してもいいかと思って返事をした。

『分かった。フリーターってことで参加する。』

『公務員なのにな。俺はなんだか悲しいよ。』

 悲しがってくれても先生や警察官、消防士に市役所の職員。他の公務員の方がよっぽど敬われている。俺だって子どもの頃はもっと紙ひこうき届けに夢を持っていて、いつだってじいちゃんは俺の憧れだった。

 そのじいちゃんも数年前に亡くなった。俺の紙ひこうき届けへの志は大海原に飛んで行った紙ひこうきよりも頼りなく、そしていつの間にか水没しかけていた。


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