Q7、地味眼鏡っ子との関係はなんでしたか?A、昔の同級生だったようです。
教官との模擬戦から一週間が経った。
俺は変わらずに朝昼晩と食堂での食事にありつきながら教官との訓練をしていた。教官との訓練は何故かひたすら模擬戦だが。
ただいくつか変わったこともある。
まず食事だが、最初と違いどのような食事にするかを自分で選べるようになった。
バカな男子高校生がひたすらに肉を食いまくったり、女子がダイエットと称して野菜を食いまくったりできるようになったのだ。
各いう俺は朝は野菜中心、昼は肉、夜は魚といたって健康的な食事を毎日している。安藤に言わせれば「人生楽しくない。」そうだが、俺はこの生き方に満足しているので構わない。
他に変わったことと言えば、俺の一日の行動がほぼ確定したことか。
召喚された時は慣れていないこともあって乱れがちだったが、そもそも俺は日本にいたときからほぼ毎日同じ行動をするようにしているのだ。
確かに安藤の言うとおり「楽しくない。」のかもしれないがこの方が何をするにも楽で日々のストレスが少ないのだ。だから俺は中学の時とかにあった修学旅行なんかはいつもと違うことをするので、そこまで楽しくはなかった。
俺の一日の行動の内容は、まず食堂で野菜中心の朝食を食べ、教官と訓練をし、肉中心の昼食を食べ、教官と訓練をし、夕食を食べる。夕食を食べ終わるのがだいたい夜の八時くらいで、その後俺は訓練場に向かう。
それから一時間程度俺は騎士達が模擬戦をしているのをただひたすらに見ていた。
いわゆる『見取り稽古』というやつだ。何回か模擬戦の相手に誘われたこともある。俺はそれの相手もたまにしているので、「勇者を支えるために熱心に訓練している真面目な奴」という評価がついていると教官に教えられた。
まあそこまで間違ってはいないのだが……全部自分のためだしな、クラスメイトのことなんかこれっぽっちも考えていない。だからその評価は他の奴にやってほしい。
最後にその見取り稽古が終わった後、夜の九時ぐらいに就寝する。
寝る時間にしては少し早いが、これには理由がある。
俺は毎日夜中、具体的には夜の二時くらいに起きて自主練習をしに行くのだ。
命の水を毎日欠かさず飲んでいた俺は全てのステータスが百を超えており、知力もまた増えている。
教官が言うには「知力」は初期値が生来の頭のよさで、それ以降レベルが上がった時に増えるのは全て動体視力や神経伝達速度の上昇にあたるらしい。
しかし、俺の体感では記憶力も上がっているように感じるのだ。それが何故なのかはわからないが、俺はそれを生かして、見取り稽古により覚えた騎士達の動きをこの自主練習でトレースし、さらにはそれを自分なりの動きに出来るようにしている。
また、自主練習では同時に魔力の制御と魔力を使うことによる増幅も行っている。
最初の内はただ体に魔力を流しながら動いているだけで魔力切れが起こったから楽だったのだが、昨日一昨日あたりから、それだけでは魔力切れを起こさなくなったので仕方なく動きながら魔力を外に放出したり、大気中の魔力を操作したりしている。
これはかなりきついのだが、まあこれも強くなるためだと思ってあきらめている。
あ、そうそうこの話をしていて思い出した。一番の変化なのに忘れていたとは。
俺の職業が「剣士」から「魔法剣士」に代わっていた。
職業が進化した場合でも固有スキルになるらしく、俺の固有スキルには『魔法剣士』というのが増えていた。
そしてなぜか「剣士」だったころの固有スキルが消えなかったので、秘匿しているものも含めて俺の固有スキルは三つに増えた。
教官は固有スキルのことについても教えてくれた。
それによると、固有スキルはステータスが上がる「パッシブ型」と特定の条件の時に発動する「アクティブ型」があるらしい。
「パッシブ型」はステータスが上がる以外にもあるらしいが非常に少ないらしい。俺たち日本組の固有スキルは俺が『魔法剣士』が増えたときにステータスが上がったことから、このタイプだと推測できる。
「アクティブ型」は、固有スキル事態保有者が少ないらしいが、「パッシブ型」より数は少ないらしい。過去にあった例としては、ある魔物を相手にした場合にステータスが大幅に上がるといったものが大半らしい。
固有スキルというのは後天的に得られる場合があり、その場合の大半がこういった「特化型」らしい。
「特化型」の取得方法はだいたいその魔物を倒し続ければ十年から二十年くらいで発現するらしい。
「特化型」だからその魔物にしか効果はないが、そのステータスの上がり具合はバカにならないそうだ。
この一週間で変わったのは大体こんなもんだな。
そして俺は今なにをしているのかというと、さっき言った自主練習の場所に向かっている。
その場所とはこっちに来て二日目に教官に案内されてきた中庭だった。
ここは誰も人が来ないし広さも中々あるのでもってこいだ。実は案内された時からこの発想はあったりした。
ようやく中庭が見えて来たな、ん?誰かいるのか、ほのかに光ってるぞ。
「精霊……我に……せよ。」
うお!急に明るくなった。びっくりしたな。しかしあれは魔法の詠唱だったよな。しかも女子の声だった気がする。
めでたく「魔法剣士」になった俺だが、なぜか教官がまだ魔法を教えてくれないため俺はまだ魔法を使えずにいる。
とりあえず俺は誰がいるのか確かめに出て行ってみる。
「あー図書委員か、何してんだこんなとこで。」
「!?」
そこにいたのは驚いた表情でこちらえを見ている、クラスメイトの地味眼鏡っ子で図書委員の戸野彰子だった。
多野は明るい図書委員って風貌だが戸野はまんま見た感じの地味な図書委員だった。しかし戸野は名実ともに図書委員だからな。
「驚かせたか、悪かったな。」
「い、いえ……えっと……。」
俺は急に声をかけたことを謝ったが、戸野は何か言おうとしてどもり、結局そのままになっていた。
仕方ないので俺はここに来た本来の目的をする。
まずは今体を操作できる限界まで魔力を体に流し、それから目を閉じ、今日の見取り稽古を反芻する。
初手は斜めから袈裟切りに、それは受け止められるから二手目は突きを放つ。
そしてその傍らで、空気中の魔力を操り複数の剣をイメージして俺の攻撃を実際に受け止めさせる。
魔力が切れたら持ってきた水筒で「水」を飲み、再開する。これをひたすら繰り返す。
そして見取り稽古で覚えた型をすべて復習し終わると次にそれを取り入れて、独自に開発していく。
この作業はまだ慣れていない。そのもっともは実戦経験が少ないからだろうが、やはり一人では難しいか。
俺が動きを止めたのを見て戸野が恐る恐る近づいてくる。
実は最初から最後まで戸野は俺の自主練習を見ていた、こういったのを人に見られるのはあまりいい気はしないが、何かをしてくるでもないし、戸野なら後で何かをするといったこともないだろうから放っておいたのだ。
そして俺に近づいてきた戸野の第一声は、
「すごいですね!」
「お、おう……。」
こいつこんなキャラだったか?いやまあ日本じゃ碌にしゃべってなかったが。
俺の態度に自分が変なことをしていることに気付いたのか、戸野は「すいません!」というと三歩ほど下がって、それでも興奮冷めあらぬといった様子で口を開いた。
「あの魔力の制御!それに魔力量!仲田君は剣士のはずですが魔法職だったんですか?」
「そんなわけないだろう、これを見ろ。」
若干首を傾げて聞いてくる戸野に俺は右手の剣を見せる。しかし、こうしてよくよく見ると意外に多野に負けず劣らず和風美人な顔してるな。
そこまで目は大きくないはずだがまつ毛が長いから大きく見えるし、口は小ぶりで鼻筋は通っている。
野暮ったい髪で野暮ったい眼鏡をしてるが、しかるべき化粧をすればこれ化けるんじゃないか?
「あの、私の顔になにかついてますか?」
「ああ悪かった、じろじろ見て。」
少し、見すぎたか。戸野は「いえ……」と言っているが若干不審そうだ。
「そうだ、図書委員はここで何してたんだ?」
少し雲行きが怪しくなってきたため、俺は話を変えるために戸野にここでなにをしていたのかを聞く。
「それは……仲田君と一緒ですよ、私の職業は「巫女」なので魔法の練習だけですが。」
「ふーん。」
巫女ってどんな魔法使うんだ?式神か?なんてことを思っているとそれを感じたのか戸野が「巫女」の説明を始める。
「巫女といっても日本のようなものではなくこの世界は精霊との親和率が高い人をそう呼び、まれに職業として発現するそうです。」
「ってことは普通の魔法使いより魔法の威力が高くなる、もしくは魔法が使いやすくなるということか?」
この世界の魔法とは神話の通り、精霊そのものであるという見方が大半だ。
この世界にもファンタジーよろしく精霊はいるそうだが、それはこの世界にある精霊の残滓が何かしらの力で集まったものと言われている。無骨な言い方をすれば『魔力集合体』ということだ。
そしてこの世界の魔法が精霊の力なら精霊と親和率が高いということはそういうことのはずなのだが、
「そうですね、魔法だけに関しては普通の魔法使いの方より威力も出ますし消費魔力も少ないです。」
やっぱりか、それで俺が来たときあんな強い光が起こったのか。しかし戸野はそこに「ただ、」と付け加えると。
「魔法使いの方はある程度近接戦闘ができるのですが、「巫女」は出来ないというよりしてはいけないのです。」
「どうして?」
「巫女というだけあって魔法を使うのは一種の儀式を必要とします。そこまで大仰なことではないのですが、その一つに決して動いてはならないというものがあります。そのため戦争などで、乱戦になると巫女の役割は皆無だそうです。」
そんなもんか、しかしそれはネガティブに考えすぎというものだろう。
逆に考えれば奇襲などでは最大の威力を発揮するし、固定砲台としては最高の職業だろう。
「俺はもう少ししていくが、図書委員はどうする。」
俺はまだしてない行動があるので残っていくということを伝えると戸野は何故か寂しそうな表情になると「やっぱり……。」とつぶやいた。
「どうした。」
「やっぱり覚えてないんですね……。」
俺が聞くとなんだか思わせぶりなことを言う。
「何を。」
「覚えていませんか?私のこと。」
戸野のこと?どう考えても高校のことじゃないよな、それより前に会ってたか?
俺が悩んでるのを見て戸野は悲しそうな表情で言う。
「私達、小学校のころ同級生だったんですよ?」
「あのな、俺は小学校で二度転校してるが図書委員のことは覚えてないぞ?」
厳密にはあれより前の記憶は極力思い出したくないが、それでもあの時は大阪の小学校だったはずだ、東京にいる可能性はなくはないがかなり低い。
「確かに仲田君は三年生のときに転校してしまいました。あのときは少し仲が良かったので寂しかったんですよ?ただあの後私も親の都合で東京に転校してきました。これでも信じられませんか?」
確かに俺の最初の転校は小学三年の時だった。これを知っているということは信憑性が増すが……俺の転校の理由は知っているのか?
「あのとき、仲田君が転校した理由を聞いても先生ははぐらかしたようだったんですが、ある日私、仲田君が転校した理由を偶然聞いちゃったんです。」
誰だか覚えてないが先生よ、子供に気取られるはぐらし方ってそれでよく先生やれたな。
「仲田君のご両親が殺されたことと、」
やっぱりそこも知ってるか。しかし、小学三年以前の同級生だったんなら、記憶がない(厳密には少し違うのだが)時だったから知らないのもしょうがない。
俺が現実逃避気味にそう思っていたが、戸野はそのまま続ける。
「仲田君が犯人を殺したことを。」