Q6、主人公の実力はどれくらいですか?A、そこそこのようです。
視点変更あります。
「あー眠い……。」
「どうしたんだ、昨日は晩飯にも来てなかったが……。まさか……ッ!おまえ……!早速……!」
「お前の考えは何となくわかるが、そんなことは一切なかったぞ。」
むしろわかってしまったことに教官への申し訳なさを感じる。ってか俺はそんなキャラじゃないしお前もそういうこと言うキャラじゃないだろ。
その心底眠そうな俺の声に安藤は「やっぱりな、俺は信じてたぜ!」と笑顔になっていった。嘘つけ、お前しか疑ってなかっただろう。
俺が眠いのには別の理由がある。
昨日晩飯を食べ終えた後に、俺はひたすら『魔力操作』の練習をしていたのだ。
始めは訓練の時と同じように大気中の魔力を操っていた。そして魔力切れになるたびに『水』を飲むということを夜中の十二時まで続けていた。
十二時になったあたりでふと、「ラノベだったらここで魔力とかめっちゃ上がるよな。」と思いステータスを確認すると魔力量がもともと150程度だったのにもう250まで上がっていた。
あまりの上がりようのため気をよくした俺はそのまま今回は体内の魔力を操作することを始めた。
大気中の魔力を操作することで『魔力操作』はかなり慣れており、体内の魔力操作はスムーズにできた。それはもう大気中の操作が、大岩を動かしてたのか、っていうくらい楽にできた。そのまま体内をめぐらしたり、体の外に少し放出してみたりした。
そしていざ寝ようとしたのは夜の三時で朝食の時間は七時のため俺は四時間しか寝れなかった。
つまりは自業自得なのだがそれにしても眠い。
「しかし、メリさん案外いい人だったよ。」
「そうかそれはよかったな、これからは二メートル以内に近づくなよ。」
「そうゆう意味じゃないからな!?」
安藤の教官はメリ・ホーモルさんという名前だそうだ、男色家ではあるがその人柄はよく、魔法の指導も丁寧に教えてくれるらしい。たまに体は狙ってくるらしいが。
俺の発言に安藤が思ったより反応してくる。どうやら若干気にしていたらしい。俺はそれに「冗談だ。」と言って抑え込む。
その後は安藤による魔法講義が始まったが、既に教官に聞いたことがほとんどなので、肉入りの朝食をそれをBGMに胃に入れていく。
その中で「大気中の魔力は存在が証明されていない」のくだりは少し笑いそうになったがなんとか我慢してそのまま食べ終わり、メルロッテ教官の待つ部屋に向かった。
そろそろ魚もたべたいな……。
◇◆◇
「では今から私と模擬戦をしてもらう。」
この人はいつも唐突だな。やっぱりもうポンコツ認定してもいいんじゃないだろうか、このしゃべり方も素じゃないみたいだし。
「この模擬戦は戦い方を教える前にユキマサの癖なんかを調べるためにやるものだから遠慮せずにかかってくることだ。」
そうですか、それにしても……
「戦い方を教える前なら本当は昨日やるべきだったんじゃありませんか。」
「え、えっとそれは……。」
図星のようだな。かなり動揺しているし。
「昨日教えたのは魔法関係だけだからいいのだ!」
「わかりましたよ、で、ルールとかはどうなるんですか。」
なんか子供の癇癪のようなものを起こしそうだったのであきらめてその先を促す。
教官は一瞬恨みがましいような目を向けてきたが、気のせいだということにしておこう。
「対戦は模擬戦用の木製の剣を使う。ルールは基本ないがさっきも言ったようにユキマサは全力でかかってきてくれ。」
「はい。」
なるほど、まあ適当にやりますか。
「手を抜いたら怒るぞ。」
バレてら。
◇◆◇
「よし、準備ができたらいつでもかかってきていいぞ。」
そういう教官と俺の距離はだいたい十メートルくらい。
俺は昨夜の魔力操作で体に流すと動きがよくなることが分かっていたので、さっそく体に魔力を流す。
それを見て教官は驚いたような顔をするが俺はそれを無視して駆け寄っていく。
ただそれは教官の目にはとても遅く映るであろう速度でその十メートル移動した。
しかし教官の間合いに入る少し前で俺は思い切り踏込、教官に向かい右手に持った木製の剣をふるう。ただそれに教官はしっかり反応して剣で防ぐ。
まあここまではシュミレート通りだ。
俺の剣が教官の剣にあたるインパクトの瞬間、俺は持っていた剣の持ち手を放した。そして魔力を多めに通したパンチを『体術』スキルの力を借りて放つ。
それに教官は目を見開いて驚いていた。しかしその拳が教官に届くことはなかった。
突如背筋を襲った悪寒に従い、俺は教官に当てようとしていたパンチを倒すことではなく吹き飛ばすことへと目的を変える。
その目論見は果たして成功したが、俺の頬には一筋の赤い線ができていた。これ木刀の切れ味じゃないだろ。
「教官もしかして俺を殺す気でしたか。」
「いや?ユキマサならきっちり躱してくれるだろうと思っての行動だよ。しかし今のは驚いた、が、剣士が剣を手放すのは感心しないな。」
「それはすいませんでした。しかしこれが全力なもので。」
「そうか、ならいい。では次はこちらから行くぞ!」
ならいいのか、と思う暇もなく教官が突っ込んでくる。だがこの速度でも手加減しているんだろう、まだ目で追える。
振り下ろしてくる教官の剣を半身で避ける。普通のクラスメイトなら目をつぶってしまうのだろうが、俺は今更そんなことで怖がったりはしない。避けた後に教官の右腹部あたりに狙いをつけ俺が出せる最高速度で突きを放つ。
ただそれも教官は余裕で避けてしまう。
俺はそのまま俺の『剣術』スキルに身を任せ、振り返りながら振り下ろしてきた教官の剣を受け止める。そのまま一瞬のつば競り合い。
「ハッ…!」
俺は教官が力を入れた瞬間を見計らい、剣をそらして体制を崩させる。
そして魔力を多めに流した左足で教官の脇腹を蹴る。ただそれにも教官は対応してきた。
そして蹴りを放った時の体制は宙に浮いている状態だった。当然今も宙に浮いている。そこをついてこない教官ではない。
次の瞬間、俺は後頭部に衝撃を受けたと思うと意識が朦朧としてきた。
ああー見えなかったな、たぶん今のが教官の最速か、まあ本気を出させたということでいいか……。
そして俺は地面に落ちると同時に俺は意識を落とした。
◇◆◇
「あー……俺はどのくらい気絶してましたか。」
「まだ一時間も経っていない。さてもう会話もできるようだしもう少ししたら訓練を開始するぞ。」
俺が目を覚ますと、教官が俺の顔を覗き込んでいた。大方俺が起きる気配でも感じてみていたのだろう。
俺は自分がどのくらい眠っていたかを教官に確認する。ふむ、一時間か、遅いのか早いのかわからんな。
「もう今日は訓練免除でいいんじゃないですか。」
「なにをふざけたことを言っている。そういうことは私をもっと苦戦させてからいえ。」
さすがに少ししんどかった俺は教官に訓練の中止を具申してみるが敢え無く撃沈。というより苦戦させてからって無理でしょ。
「しかし、魔力を体内に流して身体能力を上げるなどいつの間に出来るようになったのだ?」
「昨日の夜です。」
「まあそれは普通に考えるとそうなのだが……。」
そのあとも教官は納得していないような顔をしていたが折り合いをつけたらしい、「では今日は剣術の訓練だ。」と言って訓練を始めたのだった。
◇◆◇
時刻は夜の八時。
私は今、城の廊下を騎士団長室へと向かい歩いていた。
今日の模擬戦、最初は小手調べのつもりだった。だからユキマサにもかかってくるように言った。
しかし、ユキマサが走り始める間際、ユキマサの体に魔力が流れるのを感じた。体に魔力を流すのは身体能力をあげる方法でよく使われる手段だ。しかし、さすがに昨日今日で扱えるものではないはずだ。
だが私の驚きをよそに、むしろあえて驚かせたような態度でユキマサはこちらにかけてきた。
ただその速度に私は違和感を覚えた。ユキマサの申告通りのステータスに魔力を流しているなら、もっと速度が出てもいいはずなのだ。もしやステータスを偽っていたのか、そう思いもしたがユキマサの顔を見た瞬間、私は経験に基づいて全身に魔力を流し臨戦体制を取った。
そして私の予想通りに、ユキマサは後一歩のところで地面が揺れるほど踏込、飛び込んできた。
ただ、ユキマサには全力の速度なのだろうが、私にはまだ見える。振るわれた剣を受け止めようとして、ユキマサの方を見ると、なんとユキマサは笑っていた。
その瞬間ふと剣にかかろうとしていた圧が消える。そしてユキマサの左手があるであろう場所に魔力が集まるのが感じられた。
ただ私はまだ反応できた、伊達に騎士団ナンバー2はやってないのだ。私は持っていた剣を振りおろし、これでユキマサの意識を刈るつもりでいた。
しかしユキマサは反応した。私を仕留めようとしていた拳を私を吹き飛ばす方向に変えて、さらには自分も飛び退く。
頬に掠りはしたが、まぎれもなくユキマサは私の攻撃を避けたのだ。
そのことに驚き、休憩がてら正論のように嫌味をいってやったが、ユキマサには答えた様子はない。
そして再びユキマサの体に魔力が流れるのが分かる。
今度すぐに仕留めるつもりで、私から攻撃を開始した。
確かに昨日模擬戦をやるのは忘れたが、そのおかげで有用な情報も聞けた。
他の教官たち曰く、ほとんどはこちらから攻撃すると目をつむり、委縮してしまったという。だから私もそれを狙うことにしたのだ。
しかし、今思うとそれは愚行以外のなにものでもなかった。先ほどユキマサは私の攻撃を躱したのだ。
それを見ていればこんな考えは思いつかないはずなのだが、私も動揺していたのだろう。
やはりユキマサはその攻撃を避けると、私に反撃を繰り出してくる。
それでもステータスの差もあって私はユキマサの攻撃を避ける。そのまま攻撃を繰り出すが、これは防がれるだろうということを確信していた。
ユキマサはある意味期待通りに私の攻撃を防いだ。そこからさらに私の体勢を崩し、蹴りを放ってくる。
かなり魔力がこもった攻撃だったが、それでもまだまだ私には届いていない。
ただその状態からユキマサはさらに体に魔力を流し始める。自己申告通りの魔力量ならそろそろ魔力切れになってもおかしくはない。ただ私の見立てでは彼はステータスを偽ってはいない。つまりこの魔力量はたった一晩で増えたことになる。
このことに関しては推測ができる。魔力を限界まで使うと回復した時に魔力が増えることがあるのだ。そしてユキマサには何故か魔力が回復できる水がある。それで昨日の夜の内に魔力を増やしていたんだろう。
魔力が急激に増えると体に痛みが走ると聞いたことがあるが……。しかし彼は異常なところもある。
あの試合も私は結局本気を出してしまった。大人気ないと思い最初は絶対に出さないようにしようと思っていたのだが、彼はあのままだとさらに速度を上げてしまうだろうと予想できたのであそこで終わらせてしまった。
私が今日の模擬戦の記憶を呼び起こしながら歩いていると、目的の騎士団長室が見えてきた。
なにも私は無意味に呼び起こしていたわけではなく、騎士団長への報告をしにきたのだ。一日の遅刻はしたが。
騎士団長室の目前に立つと私はノックをし、声をかける。
「失礼します。メルロッテ・デリス、本日の担当生との模擬戦のご報告に上がりました。」
「一日遅れだが、まあいい、入れ。」
「……は。」
やっぱり、皮肉は言われるか。まあそのことはいい、部屋に入ると私は早速ユキマサの報告をする。
「私の担当生のことでいくつか気になったことを報告させていただきます。」
「ああ……あの油断ならん坊主か。」
団長の言葉に私は反応しない。なぜならそのことは私や団長だけでなく他の教官たちにも知らされていることだからだ。
ユキマサは、最初召喚された時、私達が用意した針を使いステータスカードに登録を行っていたにも関わらず、魔法がかからなかった。
あの針に掛かっていた魔法は、精神を不安定にさせ誘導させる魔法だ。
それだけを聞くとたいしたことはないように聞こえるが、精神に働きかける魔法とはこの程度であってもかなり難易度の高い魔法なのだ。
しかし教皇様はこの国の国家元首であり、演説により人の心を揺さぶるのはいつもなされていることだ。そしてなにより教皇様自身が強力な魔法使いだった。
これでもこの魔法を使うには十分ではあるのだが、少しでも負担を減らすために宮廷魔法士は魔法に
『失敗条件』を付けた。
『失敗条件』とは、その魔法が発動しないもしくは今回のような付与系の魔法の場合はかからない状態になる条件のことである。これをすることによって、条件次第では相手に利かなくなることもあるが大幅な魔力の削減ができるようになる。
そしてこの『失敗条件』に宮廷魔法士たちは『人を殺したことがある者』と設定した。
なぜこの理由にしたかというと、神託によってもたらされた情報だからだ。
勇者一行に伝えていない神託の内容を要約すると、
勇者一行はほとんど争いのない国から来る。だから強大な力を持っていてもすぐには扱えないから、鍛えた方がいいだろう。
といった内容だった。
争いがない、ということは人を殺したことなどもちろんないだろうということで、こういった『失敗条件』にしたのだ。
そしてそれはあたりだった。ほとんどの勇者一行はこちらの魔法にかかっていた。しかし、ユキマサには魔法がかかっている様子はなかった。つまり『人を殺したことがある』ということだ。
ユキマサが私が教官になったときに聞いてきた、私が教官になった理由は、むろん彼に伝えたことも本当だが、こちらが大きかった。
「まず一つ目は私の担当生、ユキマサと呼ばせて頂きますが、彼が『殺人経験者』であるという確証が高まりました。」
「その理由は。」
「はい、彼の攻撃には殺気がこもっていました。」
「ほう……。」
私の報告を聞き、団長は思案顔になる。
模擬戦で攻撃に殺気がこもるというのは通常はない。事実勇者様もあちらの世界では剣術の経験があったらしいが、担当した団長によれば、殺気などこめられてはいなかった、そうだ。
攻撃に殺気がこもるというのは、相手を殺す気で攻撃するときと、少し前のに内容がかぶるが、感情に任せて攻撃するときだけだ。
後者は今日の模擬戦ではありえない。ということは前者ということになるが、これは人を一回だけたまたま殺した程度で出来ることではない。
最低でも自分の意思で、二人以上は殺さなければ、攻撃に殺気を込めることはできない。
もちろん私も騎士という仕事をしている以上人を、それも何人も殺したことはある。しかし殺気を込めるのは相手を殺すときだけだ。
ユキマサが攻撃に殺気を込めていたのは、私を殺す気で来ていたということもなくはないが、可能性としては制御できていない方が高いだろう。
つまりユキマサが今までにしてきた戦いは殺し合いだけ、それも回数は五回を超えることはないだろうと思える。
「間合いの取り方や、距離の詰め方、攻撃方法などを見ても実戦経験があると思われます。」
「その攻撃方法というのは?」
私の補足情報に団長は質問をしてくる。私は、今日の模擬戦の様子を余すとこなく伝えた。
「ふむ……。」
そうすると団長は少し考え込むと一言、
「その攻撃方法、体術を使っていないか。」
「…!!そうですね、言われてみれば……。」
私としたことが、あの攻撃が体術によるものだとは思いもよらなかった。剣士は剣術を使うものとばかり思っていた。
「彼の申告にはそのようなことはなかったが。」
「やはり……彼は怪しいでしょうか。」
「異世界から召喚されて他の者から知られているから、他国からの間者ということはないだろうが……なにかあることは間違いないだろうな。」
「そう……ですか。」
実を言うとユキマサのことはこの二日でかなり気に入っていた。適当なようでいて変なところで真面目で寝顔はなかなか可愛いものだ。
そのためもし危険分子のため『処分』ということになれば、少し寂しい気持ちになる。
「まあ今のところは様子見だろうな。『殺人経験者』であることは間違いなさそうだがそれだけで危険分子と呼ぶには早すぎる。それにもし本当に経験しているだけならこっちは経験させなくて楽なくらいだが。」
そんな私の胸中を知ってか知らずか、団長はそんなことを言う。
それに少しだけ安心するが、それを表には出さず「失礼しました。」と団長室を後にした。
◇◆◇
「ふーむ……。」
メルロッテが出て行くのを見送ると俺は早速思案に入った。
勇者召喚だけでもそうだが、こんなことはベルト・デロールの人生で初めてのことだ。
今話題にでていた少年は、最初に私が召喚を行った部屋に入ったときに、一人だけ戦闘態勢を取っていた。
勇者も俺のことを警戒はしていたが、すぐに戦闘できる状態ではなかった。
それに比べて彼は、右手に何か鉄球のようなものを持ち、さも自然体を装いながらいつでも飛び出せるようになっていた。その立ち姿はさながら暗殺者のようで私はかなり警戒していた。
そのあとも不審な行動が目立ったため、俺は常に彼を警戒していた。
私の警戒はそこまであからさまなものではなかったはずだが、彼には気付かれていたようだ。時折怖いものを見るような顔をされた。
彼が異世界人であるのは間違いないのだが……メルロッテがすこし悲しそうな顔をしていたためああいったが、さっきの話を聞く限りやはり私も彼のことは注意しなければならないかもしれないな……。