常闇姫と銀色妖精
短編にしては、長いかも、しつこいかもしれないです。思い付きのまま書き込んでいったので、話の筋に齟齬が起こる可能性があります。ローなのか、ハイなのか…。判断がつきませんが、ハイファンタジーかもと思ったり。銀色妖精はまだ出てきてもないし。んー困った。市尾悩んでローにしてます。
「くどいっ。」
少女は片手を上げて目の前の男を魔力で吹き飛ばした。
金糸のあしらわれた唐草模様のあしらわれた外套を纏った男は後ろに控えていた自らを守る騎士によって引き起こされた。
「ディアナ姫。」
男を一瞥もせず娘は布に刺繍針を刺していく。
キラキラと光を発しながら布に可憐な青い小花が次々に作られていく。
「姫!!」
もう一度呼んだ男は、膝を付き前に屈むとモゴモゴともがき、それ以上の言葉を発せなかった。
様子がおかしいと覗き込んだ側近は、男の様子にみるみるうちに顔色をなくす。
副宰相の口が縫われていたからだ。
側近の男は少女の立ち上がる気配に顔を向けた。
少女は先程まで刺していた布をテーブルに置き何かを呟くと恐ろしいまでの気迫を持ってしゃがみ込む男達を見下ろした。
黒いローブに身を包んだ少女の瞳は血の色より紅くローブから零れた長い髪は銀色だった。
その色をまともに見た副宰相は気を失ったようで側近は彼の重みに尻餅をついた。
「エンダー国の副宰相閣下は協会の決まりをご存じではないようだ。」
エンダー国副宰相とその側近1名と彼らを守るために後ろに控えている騎士2名は生唾を飲み込んだ。
「1つ、協会の魔女の仕事を邪魔してはいけない。何故なら…魔女の仕事を邪魔したことで、今、正に呪いに苦しんでいる依頼者を待たせる行為に繋がることになるから。」
少女は側近の青くなった顔に指を突き付ける。
「もし、その依頼者が、貴方達よりも人間で言う所の身分が高ければ、貴方達は処分!!」
立てた親指を自らの首もとに向けて左から右へ滑らせる。
「ひっ!!」
少女はニッコリと笑う。
「と、言うことになるわね。」
側近の腕の中で気を取り戻した副宰相が何かをモゴモゴと言う。
「ふ、副宰相さまは、それでも国の一大事であるから姫に戻ってくるようにと言う王命を伝えるため、ここまで足を」
告げたいことを告げようとする側近の横で副宰相が何度も頷いている。か、しかし。
「1つ!」
少女は声を張り上げる。
「魔女と認定された女は俗世から離れ、その戸籍は女の希望により選択できる。協会規定、第6条。」
「1つ、魔女の戸籍は神の領域。人が安易に軽んじてはならない。つまり、どの国の王より皇帝より尊いものとする。協会規定第1条。世界神法第9条。それをご存知?」
この世界には神の定めた神の法律といったものが10個存在する。
神は常に人々を見守り存在するが、神風を時に吹かせることはあっても、直接人々に手を貸すことはない。
人の心に悪が闇が満ちても神は直接何も出来ない。
神の意思を伝え導くのが神殿で、魔女は、人々の心によって生まれた『縁』を結んだり、切ったりするのが役目だ。
魔女と言うほの暗い名称故に軽んじる人間から魔女の人権を守り、人々から寄せられるあらゆる魔に対応する組織が萬呪事引受協会だ。
「ひ、姫様…。ど、どうか、お、王国をお救い下さい。」
震える声で側近が言う。
「最初に私を捨てたのは、その王国よ?」
ニッコリ笑う少女。
「ただ、色目が違うだけで、軟禁し、愛情を与えなかったくせに、王家が呪われてると分かるやいなや、第一王女の言いなりに父である国王陛下も母である王妃陛下も下女として扱った。殺さなかっただけでも慈悲深い王様だと思えって?」
びくりと副宰相が震えた。
「下女としての生活は、人として扱われない酷いものだった。顔と髪を覆う布を被されたし、あの頃付けられた奴隷の刻印も背中に残してあるの。」
この世界に奴隷制度があったのは遥か昔。神法に定められている事が公になったのは、200年ほど前だった。
10ある神法の中に奴隷制度禁止を謳う文言があったのだが、神殿は一番最後にこの奴隷制度禁止法が認めた。
それは、神殿にも神官達に従う奴隷達が居たことに由来する。
とにかく、今はこの世界に奴隷制度はない。しかし、第一王女は何処からかその当時の奴隷に押されていた焼き印の型を見付けたか、作ったのか。それを彼女の背中に焼き印したのだ。
あの時の痛みが恐怖が彼女の魔女たる力を解放した。その叫びが協会の魔女に届き彼女の身柄は協会預かりとなった経緯がある。
彼女は迷わず王国との絶縁を解いた。
「あ、あの慈悲深い姫様が…。」
先程とは違う意味で震え始めた側近。副宰相は側近を一瞬睨んだ。
「あれ以来、エンダー国との係わりは担当者が責任を持って対応しています。ご依頼ならエンダー国担当の魔女の所へどうぞ。」
営業スマイル真っ青な笑顔で手を降ると宰相も側近も騎士2名も姿を消した。
「さて、刺繍の続きをしましょう。」
再び椅子に腰掛け作業に取りかかる彼女の前にある椅子の背凭れに1羽のカラスが降り立つ。
「よろしいので?」
「ニゲル、彼らが何故今になってココに来たのか知ってるでしょ?それに彼らは勘違いをしてるしね。」
手を休めない彼女。
「第二王女の姿をちゃんと見たことあるのって、第一王女くらいなんじゃないかしら?だから、この国の中で忌み色の髪をしたを私をディアナだと思いこんだのね。優しいあの子が対応してたら、体の調子が悪くても、どうにかしようとしたでしょ?だから、よかったのよ。」
カラスのニゲルは片翼で自分の頭を掻いた。
「他称深窓の姫君である第一王女は、この度ヴィッセル帝国への輿入れが決まった。けど、第一王女の本性は最悪。国王陛下も王妃陛下も王太子もそれを分かってて姫君を離宮に追いやったんだろ?」
第一王女の姿形は、素晴らしいものらしい。可憐な薔薇の花に例えられるほどに。
しかし、性格は我儘で奔放。
泣かしたり、辞めさせたり、行方不明になった侍女は数知れず。自分より下位の貴族令嬢の中には婚約者と別れさせられ、失意の中、王都を離れたり、自害した者もいたと聞く。
その令嬢の中に王家にも政治にも影響力のある公爵家の令嬢がいた。彼女の婚約者は、同じく公爵家の子息で第一王女に熱を上げてから与えられた仕事を放置し、周囲をドン引きさせ、高位貴族社会を混乱させた。
彼らは父親から仕事の引き継ぎを受けようとしているところだった。自慢だった息子達を骨抜きにされたと知った親達は、国王に直談判。臣下との話し合いで事実を知った国王陛下は姫を問い詰めたが、公爵令嬢の婚約者をはじめとする彼女の取り巻きが揃って姫を庇い、更に混乱。
話し合いは混迷を極めたが、事の次第を聞いた王太子が帰国し、主導権をとると混乱は収束し、第一王女に関する醜聞は、彼女を籠の鳥とすることで封じた。
取り巻きだった見目麗しい男達は姫と離れることで一応目を覚ましたが、姫のために周囲の言うような馬鹿に成り果てていた事実の揉み消しに必死となった。
廃嫡されかけた者もいたが、自分が姫に従ったのは自分自身の成長を促すためだったと嘘八百を並べ首一枚で嫡男の座から落ちることを回避した。自尊心が高過ぎた彼らは第一王女を自らを高めてくれた素晴らしい女神だと今までの経緯は自分自身の成長のためには必要な事だったのだとの噂を広めた。
しかし、一度壊れた婚約者との関係の修復は叶わなかった。
尾鰭だけではなく背鰭のついた噂から第一王女アデレードには内情を知らない他国からの縁談が数多く寄せられ、内情を知るもの達は頭を抱えることとなった。
「国王陛下か、宰相閣下辺り、いや王太子かな?が帝国からの要望に慌てたんだろ。ヴィッセルに比べたら、この国は弱小と言っていい。この国では忌み子でも帝国では違う第二王女を第一王女の代わりにしようと思ったのだろうね。うん、第二王女の存在は極秘…姫さえ差し出せば約定を違えることはない…。だが、来たのが、アデレード姫ではないと知った帝国は嫁がされた姫をどうするだろうな。」
コンコンと小さなノックがされた。
返事を返して入って来たのは、突つけば転がっていきそうに丸々と肥えた娘。
「ブランカ?お客様は帰ったの?」
黒い瞳に黒い髪をした愛くるしい顔をしている彼女に部屋の主は笑顔を見せた。
「えぇ、ディアナ。具合は戻った?」
茶器を運び込む彼女の手伝いをしていると足元を二匹の黒猫がすり抜けた。
「うん、彼らの気配が消えたから。」
豊かな紅茶の香りが漂ってきた。
「やっぱり、ディアナはこの国に居ては駄目ね。あの強欲王女の呪いのせいだわ。」
「でも…。」
次の言葉を紡ぐ前にブランカは言った。
「協会長がディアナへの土地の呪縛が溶けて来たから、そろそろ国を出てみないかって言ってたわ。」
ブランカの言葉にディアナは震える手で口を押さえた。
「ほんと?」
「ディアナに呪いをかけた術師は、協会が始末をつけたわ。邪神教徒だったとは、びっくりしたけと。くそ王女は、離宮の結界内にいるから人々との隔離ってことでしか罰っせなかったけと。この国から出たら呪いの効果は更に薄れるわ。いっそのこと、ヴィッセルに行く?帝国は魔女に優しい国だし。」
ブランカの言葉にディアナは自身の心がようやく解放されるのだと悟った。
あらゆる呪い事を引き受け解決するのが協会の大きな仕事だ。
その協会が解くことに難渋した大掛かりな呪いが存在する。それは、この世界の神ではなく悪魔信仰とも呼べる邪神教が絡む呪いだ。国を治める王家には、神の加護があり、呪いを受けにくい性質がある。しかし、王家の誰かが邪神教徒の誘いにのり、契約を交わしたとしたら、呪いはじわじわと浸透したいく。エンダー国王家が『何かがおかしい』と思い出したきっかけは、第一王女に仕える侍女や騎士が次々に病に倒れ、ついには国王陛下の姉が倒れたことに始まる。王家に仕える魔術師たちがこぞって原因究明と解決に向けてうごいたが、行方不明者も出始め、このままでは第一王女に仕える者が居らず、たち行かなくなる危機に直面した。
そして、第一王女に絡んだ醜聞の数々など全て、忌み子を殺さずにいたからではなど様々な要因が取りざたされるようになった。
『呪い』に対して一番のエキスパートは萬呪事引受協会であるのだが、昔から魔女を起源としない魔術、魔法の教育に熱心だったエンダー国は、魔女に対して懐疑的だった。
それでも余りの人手不足と恐怖を訴える家令達からの要望もあり、協会へ依頼をだした。
協会への解呪の依頼は大分後だったが、一番の解呪にはアデレード姫の心を入れ替えることが必要だと述べた協会に、王族は根拠のない戯れ言として、この言葉に激怒した。
王族と協会の間にヒビが入った決定的事項だと言えた。
この頃の国王も王妃も宰相も留学している王太子もアデレードの本性に気付いていなかった。ただ自分の周りのもの達が消えたり、辞めていくのが悲しいと涙する第一王女に何とかせねばと思っていたのである。
そんな王国の危機にアデレードは自分お抱えの術師の言葉を告げた。その術師こそ邪神教徒であると知らずに。
「王族に向けられた呪いを王族の誰かに背負って貰えばよいのです。忌み子として、国に、王族にとって鬼門であるあの姫に全てを背負って頂きましょう。」
術師はこのままだと使用人だけでなく王家の人間にも被害が出るといった。この呪詛の正体は国家の王族を狙うものであると。
本来なら誰かが死ぬ予定だった呪いをアデレードは、僅か八歳のディアナに押し付けたのだ。
忌み子とは言え、それは国内にのみ通じること。
表に出さぬよう教育だけしていずれ政治の駒として、他国へ嫁がせるつもりだった国王と王妃は当初渋ったが泣き落としにも近いアデレードの言葉を受けて了承した。
王族の中に呪い持ちがいるのは外聞が悪いとアデレードはディアナを下女として側に置くことにした。第二王女の存在など国民は知りもしない。呪われ何れは朽ちていくディアナを側でみて優越感に浸るために。
何故、アデレードはディアナを其ほどまでに扱ったのかは謎であった。
軟禁状態であったが王族として育ってきたディアナが下女として上手く動けるはずもなく、彼女は失敗を繰り返しては罰を受けた。アデレードは録な食事もしていないディアナが見るたびに肥えていくのを感じた。術師はディアナが太っていくのは王家に向けられた呪いを吸収しているからだろうと語った。
何れディアナは身体に蓄積された呪いの大きさに耐えかねて破裂するだろうとも言った。
アデレードは、それすら側でみていたいと言った。
あの時、アデレードが面白がってディアナに焼き印を押さなければディアナは魔女として覚醒せず死んでいただろう。
本来なら呪いを受けた数日には死んだはずのディアナが生き長らえたのは、彼女が魔女であったからだと協会は思っている。
この世界で魔女と覚醒した者を殺めることは神の教えに反する。
かくして、ディアナは協会に救い出された。
「ディアナが呪いから救われると言うことは、呪いが本来の相手にいくと言うこと。いい気味だわ。」
「でも…兄さまは、優しかったの。」
幼い頃、本の少しの間だけだが、エンダー国王太子は、忌み子であるディアナに優しかった。
本当に幼い頃だったため真実ではないのかもしれないが。
「では、ディアナの兄上と民が呪いの影響を受けないことをいのりましょうね。」
優し微笑むブランカ。
(覚醒前とは言え魔女に手を出した者を神は許さないけどね。その王太子にはどうかしら。ディアナを放置してたんだから、それ相当の罰を受けるべきよねー。)
ブランカはそう思った。
おわり