6枚目 どらごんきゅう
俺が剣を構えると、ルーキーマウスのやつも臨戦態勢に入る。
心なしか、奴の目が赤く光ってるように見えた……
ごくりっ……
落ち着け……落ち着くんだ……俺!
こんな小さいのにビビってどうすんだ!
「てやああ!」
俺は剣を振りかぶってルーキーマウスの方へ駆けた!
そして、マウスに向かって思いっきり剣を叩きつける!
ミス!
初撃は、うまくかわされてしまった……
「うおっ?」
驚いたことに、俺が剣を叩きつけた地面がボコッとへこむ!
どんだけ力入ってんだよ!
そうこうしているうちに、マウスは木を登りはじめた。
上から飛びかかるつもりか?
「やらせはせん! やらせはせんぞ!」
言って俺は、マウスごと木を剣で切りつける!
ミス!
マウスは、寸でのところで俺の剣を逃れる!
「このっ! チョコマカと……」
マウスが逃れたことで俺の剣の直撃を受けた木はズザザーと音を立てて倒壊するも、マウスは軽やかに別の木に飛び移る。
俺は、マウスの飛び移った木に、またも剣を振るう……
ミス!
マウス逃れる!
俺の攻撃!
ミス……
しばらく、その繰り返しだった。
マウスは、あるいは別の木に逃れ、あるいは地面に降りて草むらに隠れようとしたり逃げ回っていたが……最後には精根尽き果てたのか、あるいは観念したのか、動かなくなった。
すかさず俺の一撃が当たる!
当たった!
やっと当たった!
マウスは血しぶきをあげて絶命した!
「勝った! やっと勝ったぞ!」
「勝った、じゃないわよ……もう、何してんの……」
後ろを振り返ると、スイーツが唖然としていた。
「何だ? イチャモンか」と思って、周りを見て気付いた。
気が付くと、狩り場が無茶苦茶に荒れていた。
狩り場に面していた木々は根こそぎ伐採され、地面は至るところが抉れてクレーターをつくっていた。
「これ……もしかして俺がやったのか?」
「うん」
うわあ……
い、いや、俺は悪くねえ!
あんだけ逃げ回るルーキーマウスが悪い!
「それに、あのルーキーマウス、多分、貴方の一撃の前にショックでしんでたわよ……」
マジかよ……
ああ、確かに、急に動かなくなったもんなあ……
まあ、いいよ。それでも勝利は勝利だ。
ヒキニートの俺がやったにしては上出来だ……そういうことにしておこう。
ん?
そういえば……
「あ、ところで、さっきからスイーツ、俺と普通に話してるけど、その……大丈夫なのか? さっきまで俺のこと怖がってたようだけど……」
「あ……うん。何か、ルーキーマウス一匹に大騒ぎしている貴方を見ていたら、何というか……怖がってるのがバカらしくなってしまって、ね……」
さいですか。
まあ、何にせよ、あんなドン引きされたままじゃあ、一緒に旅とか難しいんじゃないかと思ってたところだ。少し引っかかるが、誤解が解けたようでよかったよ。
まあ、沙織先輩の姿で嫌味を言うお前のこと、あまり好ましくは思わないけど、そんなんでも女神様から派遣された案内役精霊だ。
これからもよろしくな……と、俺が握手を求めた。
「あ、そのぱんつを被ってる時は、3メートル以内に近寄らないでくれる? キモイから。無理だから……」
言って、さっと身を引くスイーツ。
この女……
ま、まあ、さっきまでのマジのドン引き状態よりはまだマシだし、俺も紳士だ。細かい事は許そう。
大体、これがあるから悪いんだろ?
そう思って、俺はマスク・ド・パンツを頭から取った。
「それにしても、よくもまあ、暴れたものね……」
スイーツはキョロキョロと辺りを見回した。
確かに、この辺り、戦争でもあったのかってぐらい荒れちゃったからな。
まあ、俺もちょっとやり過ぎたと思うよ。
俺って集中すると周りが見えにくくなっちゃうんだよな。
「あ、ちょっと待って。これ、もしかしたらマズイかも……早くこの場を離れた方がいいんじゃないかな……」
唐突に、スイーツがそう言った。
「何でだ? モンスターなら蹴散らすぞ。さっきみたいに多少時間かかるかもしれないけど……」
「いや、この辺りのモンスターなら別に問題ないんだけどね……」
「どういうことだ?」
スイーツは額に手をあてながら、ヤレヤレといった感じで俺に説明する。
スイーツの言いたいことはこういうことだ。
この辺りは、冒険者ギルドの管轄している狩り場だ。
だから、もし、この荒れ放題が見つかったら、当事者である俺は、何が起こったのか、事情を聞かれることとなる。
そうなると、もしかしたら俺が勇者であることがバレるかもしれない。
そして、この世界では勇者は犯罪者のように嫌われている。最悪の場合、疑わしきは罰する、と死刑になるかもしれない。
「ということで、誰かに見つからないうちに逃げましょう。幸い、ここはあまり人が近寄らないって話だから、誰かが狩り場を利用しない限りバレないはず」
あちゃあ……
考えてなかったなあ……そんなこと……
ていうか、この世界の勇者って見つかると問答無用で死刑になるような存在なのか……
この世界では、勇者が犯罪者のように扱われているとは思っていたが……
どんだけだよ……
「あ、勘違いしないでね? 私は貴方の命なんてどうでもいいの。でも、折角見つかった勇者が、こんな序盤のしょうもないところで終わったら、アストレイア様が可哀想だから……」
その話、わざわざ言う必要あるか?
まあ、何でもいいよ……
とにかく、誰かに見つかる前に逃げよう。
俺は、急いで荷物をまとめると、そそくさとその場を後にした……
しかし、後でわかるんだが、この時点で既に、事態の深刻さに気づくのが遅かったんだ……
・・・・・・
それは、俺が狩り場を後にしてから、しばらくした後のことだ……
「大きな物音がするから来てみれば……何だ、これは……」
その人物は、目の前の光景に唖然とする。
木々は倒され、地面はクレーターだらけ……
どうも大規模な戦闘が行われたようだ……
「まったく、今日は休日なのについてないな……いや、そんなこと言っている場合じゃないか。早くギルドに報告しないと……ドラゴン級の災害が起きたって!」
そう言って彼女は、街の方へ駆けて行った。
彼女……ギルドの美人職員マールさんは、休日を利用して、俺がいた所より更に奥の狩り場で、剣の修業をしていたのだった……
作者「基本、主人公の一人称で書いていこうと思いますが、今回のように、途中から主人公の視点で三人称で書くこともあると思います……読みにくいかなあ、何かもっと良い方法ないものか、と思いながら……」
作者「次回、ユータを、神々の呪……もとい試練が襲う!(予定)」
作者「そろそろタイトル回収して、タイトル詐欺の汚名を返上したいところ……」
作者「あ、忘れてた。昨日気づいたんですが、総合評価が0→2ポイントになってました! どうもありがとうございます! かなり嬉しいです(・∀・)」