4枚目 かくご
翌朝、一晩寝て冷静になった頭で、自分の置かれている状況を考えてみる。
改めて考えてみると首を傾げたくなる。
今更だが、『自分のぱんつを被ると勇者の力に目覚める』なんて話、本当なのか不安になってきた。俺、かつがれているんじゃないかと。
「アストレイア様を信用してないの?」
「いや、そうじゃないけどさあ……」
スイーツは、冷やかな目つきで見て来るが、やっぱり、一度、確かめてみる必要があると思う……
だが、それには誰も見てないところでなくてはならない、と思った。
冒険者ギルドに聞いてみるかな?
どこか、人目につきにくい狩り場とかないですか、って。
思い立ったが吉日、という。
早速試しておこうと、朝早くにギルドに行って、俺の『ぱんつを被る程度の能力』を確かめるために、どこか良さそうな狩り場がないか聞くことにした。
「おはようございます。本日の受け付け担当、アニエスと申します」
今日の受け付けは、マールさんとは別の職員さんだった。
アニエスと名乗った彼女は、緑髪のショートカットで眼鏡のギルド職員さんだ。物腰が柔らかで、丁寧な対応は好感が持てる。
うん、これだよ。こういうのでいいんだよ。
こういう地味ながら清楚な感じで。
マールさんは、冷たい感じだし、自分からは名乗らないし、いきなり舌打ちだものな! 金髪巨乳美人だけど。
「今日は、マールさんはお休みですか?」
「ああ、彼女の方がよかったですか? マールさんは、今日は休日です。彼女と私は、交代で受け付け業務を行ってるんですよ」
「ああ、そうなんですね。いえ、別にマールさんじゃなくて大丈夫です」
あの人にまた舌打ちされたら堪らないもんな。
こういうシチュエーション、どっかの業界では「ご褒美です!」って言いきっちゃうんだろうけど、俺にはちょっとレベルが高過ぎるというか、どうやら俺にはドMの才能はないらしい……
俺はアニエスさんに用件を伝える。
「実は、今から狩りをしたいのですが……冒険者になったばかりの奴でも大丈夫なところ、どこか教えていただけませんか? できれば、こっそりやりたいので、人目につかないところがいいんですが……」
「ああ、それでしたら……」
アニエスさんは、俺のニーズに合う、ちょっと人目につきにくい狩り場を教えてくれた。
「でも、初めては、初心者冒険者同士でパーティを組んだ方がいいですよ?」
アニエスさんは親切にも忠告してくれた。
確かに、ソロ活動は、自分が動けなくなった時とか詰むだろうな。
その時、誰か仲間がいれば、街に助けを呼びに行けるかもしれない。だからパーティーの方が安全、というのはわかる。わかるが……
「ちょうど最近パーティーを組んだばかり子達がいますが……よろしければご紹介しましょうか?」
「すみません。しばらく一人でやりたいので……」
悪いが、あくまでこっそりやりたいのだ、俺は。
能力のことは人にバラしたくない。
あんな能力……っていうか、厳密には制約の方だが、とても人に見せられない。きっとこの街にいられなくなる。
まあ、そもそも俺がコミュ障で、パーティーでうまくやっていく自信がないのもあるが……パーティーを組むのはとりあえず無しの方向で。
「あ、ところで……」
用件が終わり、俺が行こうと思ったところで、アニエスさんが言った。
「はい?」
「余計な事かもしれませんが……昨日、マールさんが失礼な態度とっていませんでしたか?」
「あ……えーと……舌打ちを……」
「やっぱり……申し訳ありません。彼女に代わってお詫びします……」
そう言ってアニエスさんは頭を下げた。
「言い訳じゃないんですが、彼女、エルフという種族柄か、人に見られるのに慣れてなくて……ジロジロ見られると、つい、ああいったことをやってしまうようなのです……本当にごめんなさい」
なんて良い人だ!
ふつう、ここまで同僚のことフォローするものだろうか?
俺、自分のじゃなくて、この人のぱんつ被りたい!
いやあ、それにしても、年頃の女子と話すのは楽しいなあ!
会話といっても、俺はコミュ障だからほとんど受けてばかりだけど、それでも楽しい! 何でこんな、普段ならどーでもいい話でも、アニエスさんから聞くと、幸せな気分になるのか?
彼女ができると人生変わるというが、こんな感じなんだろうか?
もっとアニエスさんと話をしたかったが、小姑……もとい、スイーツが時折こっちを見ながら「いつまでやってるの?」と、カチャカチャと報告書作成にいそしんでおられたので、惜しみつつもギルドを後にする。
あーあ、彼女欲しい。
彼女っていうか、ハーレムか。
うん、ハーレムつくろう。
ハーレムなんて、元の世界じゃ、ブサメンの俺じゃあ絶対無理だったけど、この世界ならいける!
何せ、俺は勇者だ!
異世界もの勇者のテンプレみたいな活躍をして女の子にモテよう。俺はそう改めて心に誓った。
それから俺は、武器屋で一番安い剣や木の盾を購入するなど冒険の準備を整え、いよいよ狩り場へと出発した。ノメジハの街の門番に一言挨拶して、どこへ行くかだけ伝えて、街を出る。
アニエスさんに聞いた狩り場は、歩いて程なくして着いた。
森に接した開けた草原で、時折、森の方から小動物やモンスターがやってくるらしい。
生息モンスターは、ルーキーマウスというネズミのモンスターとか、ルーキーラビットという兎のモンスターとかで、初心者冒険者が戦うには手ごろな相手だそうだ。
そして、一番重要なこと。街道から外れてるから人影も見当たらないし、近くで狩りをしている他の冒険者もいない。
「さて、と……」
俺は、剣と盾を傍らに置くと、周囲に人がいないのを確認してから、おもむろにジャージのズボンとぱんつを脱いだ。
あ、ちなみに俺は白ブリーフ派である。
しっかし、初心者向けで安全な狩り場とは言え、こんな命のやりとりをするような場で下半身マッパになるとか、ホント変態だな。何も知らない人が見たら、さぞ異様な光景に見えるに違いない……
人の見てないところで本当によかった。
いや、他人の目があると言えば、あるのか、よく考えたら……
「絶対にこっち見るなよ? 絶対だからな。フリじゃないからな?」
ズボンをおろしたままの状態で、俺は後ろにいるはずのスイーツに向かって、背中越しに言った。
「ちょっと……貴方、何言ってるの? 見るわけないでしょ!」
スイーツは憤慨していたが、念のためだ。
こいつなら、俺を貶めるために、挑発のために、やりかねない。
うん、俺は正しい。
だから、なんか殺意のこもった視線を感じるが、気のせいだろう。
うわ、何かガラケーをガチャガチャいわせてる音がするんですけど……
なんか、めっちゃ書き込んでる感じなんですけど!
うう、藪蛇だったか……
まあいい。
お陰で少し気が紛れた。
俺は、ズボンだけを穿いて、ぱんつを手に取る。
自分のぱんつを両手で持ち、マジマジと見つめる。
昨日はいてから1日は経っている白ブリーフは、少し黄ばんで見えた。
「これからこれを被るのか……」
とても……とても憂鬱である……
現実から逃れたい……
ああ、これが女の子のぱんつだったらなあ……
頼まれなくても被るところなんだが……
何か、あれこれ考えてたら、手に変な汗かいてきた……
「覚悟をきめるか……」
四の五の言ってても始まらない。
俺は意を決して、ぱんつを頭に被った!
♪デロデロデロデロデーンデン……
頭の中で、某有名RPGの、呪われた時のBGMが流れた気がした……
作者「ドラクエ11のスロット、何でこんなに楽しいんやろ……今回のプログラム(?)が秀逸。こっちがやめようとしたタイミングで大当たりが出る……」
作者「今回の話、最初書いた時はもっと長かったが、バッサリ省いた。でもまだカットできそう。いらぬ部分といえ、思い切りよく自分の作品をバッサリカットするのは本当に難しいですね。できる人、尊敬します」