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異世界の女子どもが俺のぱんつを狙ってる  作者: シャイン樽画
第一章 旅立ち ~俺のぱんつを狙ってる~
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  2枚目 すかーとのなか

 異世界転移した先は、森の中だった。


「ここはどこだ?」


 木々は鬱蒼と生い茂り、そこかしこで木漏れ日が射しているものの、薄暗い。どちらに向かえば出口があるのかすらわからない。


「てっきり、城とか町とか人の多いところに召喚されると思ってたんだが……」


 俺の知ってる異世界ものラノベだと、大体そんな始まりだ。

 異世界人の多いところに召喚され、王様か何かに、改めて魔王が復活したとかの異世界の事情を聞かされ、勇者として使命を受ける。

 それがテンプレだ。

 ついでに言うと、体型もデブのままだし、恰好もしんだ時の上下ジャージ姿だった。この分だと、鏡がないのでわからないが、顔の方もブサメンのままだろう……異世界補正で少しは見てくれよくしてくれてもいいだろうに。


「ここは、ノメジハ東の森。安心しなさい、そんなに魔物も出ないはずよ……」


 ふいに背後からそんな声が聞こえてきた。

 びっくりして振りかえると、背中から木に寄りかかっている少女がいた……


「はぁい」

「え……ええ?」


 俺はその少女の格好を二度見して驚いた。

 髪は黒髪のロングヘア。格好は、紺のスカート、紺のブレザーに赤いネクタイを締めた、いわゆる前世の世界の『女子高生』というものだった。

 だが、何より俺が驚いたのは……


「沙織先輩?」


 そう……この姿を俺が見間違うはずがない。

彼女は、俺の初恋の人、佐藤沙織先輩だったのだ!


「サオリセンパイ? 貴方の知り合いにそういう人がいたの?」

「え?」

「あー、そっか……そこから説明しないといけないのね……私は精霊。エクスカリブの女神アストレイア様によって派遣された、貴方のパートナーよ」


 精霊を名乗るそいつは、淡々とした口調でそう言った。

 彼女が説明するには、そもそも、精霊にはこれといって決まった姿がない。普通の人間には目に見えない、精神体とか魂のような存在らしい。

 だが、そのままであるとアドバイスを与えるのに支障をきたすかもしれない。そこで、この精霊の言うところによる「俺が最も信頼できる姿」になって、俺の前に現れたのだそうだ。


 俺が最も信頼できる姿……それが沙織先輩だったのか。

 沙織先輩……高校の頃、同じ部活で、色々と、勉強のこととか部活のこととか、お世話になったからなあ……

 こんな俺のこと、好きで世話してたわけじゃないだろうに、嫌な顔ひとつせず面倒見てくれた……

 本当にあの人は天使のような人だった……

 今はどうしていることか……

 結婚は……もう、してるんだろうなあ……


「ひとつ言っておくわ」

「はあ……」


 懐かしい気持ちでその姿を見ていた俺に向かって、何故だか、精霊が鋭い目つきで言った。


「私は貴方のパートナーであると共に、監視者でもあるの。馴れ馴れしくしないように……」

「何だよ、それ……」

「先代の勇者も、その前の代の勇者も、勇者達はろくでもないことばかりして来たわ……そこで、神々は今代の勇者が同じ道を歩まないように、監視をつけたというわけ……」

「あの女神様がそんなこと言ったのか?」

「アストレイア様は、一点の曇りもない心の綺麗な方だもの、勇者のことを信じ切って、そんなこと考えもしないわ。でも、だからこそ騙されやすいって、他の神々様が勇者を監視するよう、私に直々に命じたの」


 俺ってそんなに信用されてないのか。

 いや、代替わりしても不信感を招くようなことをした、以前の勇者達が悪いのか。一体何をやったんだ、そいつら……


「知り合いに見えて気が緩んでるでしょうけど、変な気を起こさないように。大体、自らすすんで勇者に立候補する奴にろくな奴はいないわ……」


 何だか胸のあたりがチリチリとしてくる気がした。

 本物の沙織先輩は、もっと物腰の柔らかい、のほほんとした人だ。

 あの天使のような人が怒ったり、嫌味を言ったことなど、俺は知らない。

 何かあっても、「あらあら」とか「うふふ」とか言って笑って済ます。

 間違ってもこんなツンツンした人間ではない。


「あーあ、何で、あんたみたいにデブで、キモイやつが勇者なのかしら?」

「沙織先輩はそんなこと言わないッ!」


 頭来た!

 俺はデブだし、ニートだったし、顔も悪いのは自覚している。

 面と向かってそれらを責められたってカッカしないつもりだ。普通は。

 でも、憧れだった沙織先輩の顔で、声で、姿でそんなことを言われた日には、俺の怒りも有頂天だ!


 だが、頭に来たからと言って女に手をあげるほど俺は下衆じゃない。

 こいつの嫌がることをやってやる!

 俺は、精霊の足元に向かって頭からヘッドスライディングを仕掛けた!

 もちろん、体育1~2の俺がスライディングなんてしたことがない。ゲームを見様見真似でやったものだ!

 そして、さっと視線を上に上げる……

 俺の眼前には、精霊のスカートの中が広がる……ふっ……


「見え……見え……何で見えないんだ! くそぅ!」


 スカートの中は、まるでブラックホールがそこにあるかのように、闇に包まれていた……


「あらあら……この姿は、貴方の経験・体験に基づいてる……つまり、貴方が実際に見たことのないものは、再現されないというわけよ……お・わ・か・り?」


 確かに、俺が沙織先輩のスカートの中を見てるはずがない。

 天使のように思っている人間に対して、そんな暴挙するわけがない……

 せめてもの仕返しと思ったのに、俺はこいつのスカートの中を覗けないのか。

 くそぅ!


「さて、こういうことをする人には……少しキツイお仕置きが必要かしら?」


 そう言って、精霊は俺の顔の上に足を持っていき……なんと、思い切り踏んづけてきた!


「ひぃ!」


 俺は悲鳴を上げて目を閉じた……だが、いつまで経っても、その後襲って来るはずの踏みつけられた衝撃が来ない?

 不思議に思い俺が恐る恐る目を開けると、精霊の足は俺の頭を貫通していた。

貫通?

 いや少し違う。

彼女の足は、俺の頭をすり抜けて、地面に到達していた。


「私達、精霊は実体がない……貴方に触れることはおろか、こうやって攻撃することもできない。だけど、それは貴方も同じ。貴方は私に触れることもできないの。いやらしいことなんて考えないようにね?」


 どこまで失礼なんだ、こいつは!


 そして、立ちあがった俺を余所に、精霊はポケットから何かを取り出した。

 パカパカ折りたたみ式のガラパゴス携帯、いわゆるガラケーだった。

 彼女は片手で、そのガラケーにチャカチャカと何か打ち込んだ。


「何やってるんだよ……」

「ん? 今日の分の報告書書いてるだけ。ほら……」


 そう言って精霊は、俺にガラケーの画面を見せつけた。


『勇者、婦女子のスカートの中を覗こうとする』


 くそっ!

 だが、本当のことだから反論できないし、抗議したところでまた何を書かれるかわからない。泣き寝入りだ。


「お前、まさか、俺の悪口を書きたいからってわざと怒らせたとかじゃないよなあ……」

「だったら、どうだっていうの?」


 このアマ……

 いや、こいつには逆らわない方がよさそうだ……

 一枚も二枚も上で、何手も先を読まれている気がする。

 本当にヤな奴だ……

 だが、せめて何か仕返しをしたい!

 何か、こいつにわからないように仕返しできないものか……

 せめて、悪口!

 一見悪口に見えなくて、実は……っていうのがないものか……


 ふと、ある考えが頭に浮かぶ……


「なあ、お前のこと、スイーツって呼んでいいか?」

「なに? そんな可愛らしい名前つけて取り入ろうっていうの? うふふ、いいわよ、好きに呼べば?」

「ありがとうよ、スイーツ……」


 よぉーし、お前の名前は「スイーツ(笑)」だ!

 カッコワライまでが名前だからな、覚えてろ。バーカ!

 少しすっとした。

 我ながら、しょうもないこととは思うが。


「ほら、バカやってないで、そろそろ行きましょ。いくら危険の少ない森とはいえ、全く安全とは言えないんだから……」


 そう言って、精霊……いや、スイーツはパンパンと手を叩いた。

 乾いた手拍子は、静寂な森の中に、やけに響いて聞こえた……

作者「蛇足。ちなみに英語で「sweet」は「可愛い人」「優しい人」という意味で恋人や親しい人に使われたりするみたいです」

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