23枚目 だが、なぜだ?
「どうしたの、ぼうっとして?」
ターニアの声に、はっと我に返る。
「え? 何?」
「何って、話聞いてなかったの?」
「ごめん、考え事してた」
「はぁ……まったく……マールがレッドドラゴンのことについて事情を聞きたいから、ギルドに行くって話よ!」
「あ、ああ……」
そういえば、そんな話だった。
いかんな、まるで聞いてなかった。
スイーツのことを考えて……
ノメジハの街は、蜂の巣をつついた様な騒ぎになっていた。
街中には警備の兵やら冒険者やらが頻繁に行き交っている。
とは言っても、当然のことだろう。
今はもういないが、レッドドラゴンが突然、街中に現れたのだから。
「何か、すごい騒ぎになってるな……」
「あんた、他人事じゃないでしょ!」
「そうだぞ。まったく! 何があったか知らないが、レッドドラゴンについては、君達にギルドで納得のいく説明をしてもらうからな!」
ターニアとマールさんが口々に言った。
うーん、何で俺が責められる感じになってんの?
俺だって、被害者みたいなもんなんだけど……
好きでレッドドラゴンを呼びだしたわけじゃあ……まあ、いいよ。
そんなこんなで、俺とターニアは、レッドドラゴンとの遭遇を説明するため、マールさんにギルドに連れて来られ、ギルドの奥の二階へと案内される。
階段を上ったところには、重厚な感じの扉の応接室があった。
「入ってくれ」
言われて中に入ると、待っていたのは、立派な口髭をつけた、壮年の男性、この人が冒険者ギルドのギルド長らしい。
この人には、今日はじめて会った、と思う。
どうも、このギルド長、いつもは仕事が忙しくて部屋に籠りっきりなため、あまり俺達冒険者の前には姿を見せてないらしい。
「はじめまして。ワシは、このノメジハ・ギルドの長で、名を……」
ギルド長は自分の名を名乗るが……おっと、俺は男の名前は覚えない!
「それで、君達か? レッドドラゴンと遭遇した冒険者というのは?」
「ええ……」
「はい」
俺とターニアは、簡単にそれぞれ自己紹介をし、レッドドラゴンが現れた時のことを話した。
ギルド長は、俺達からレッドドラゴンの話を聞くと、手であごを触りながら何やら考え込む。
「それではまるで、レッドドラゴンが君達に会いに来たように聞こえるな……」
「そうですね……でも、本当の話です」
「にわかには信じがたい話だ……」
もちろん、レッドドラゴンの話をする時、びっくりするほどユートピアについては、ターニアと口裏を合わせて伏せておいた。
もしも、『びっくりするほどユートピア』なんてアホな儀式でレッドドラゴンが呼び出せるなんてことを知ったら、悪用するやつが出て来そうだからな。
いや、それ以上にマズイのが、レッドドラゴン召還うんぬんを話すことで余計なことまで詮索され、最終的に俺が勇者だとバレることだ。
そもそも儀式に使用した、俺のぱんつについても説明を求められるかもしれないしな。
余計なことは話さない。
勇者が犯罪者であるこの世界で、俺が生きていくために、必要以上に慎重にしなくてはいけない……
そう思っているのに……
「レッドドラゴンは何やら、彼らに勝負を持ちかけているようでした……」
マールさんがギルド長に言った。
俺は、マールさんが余計なことを言わないか、内心びくびくする。
そういや、マールさん、どこまで見てたんだろ……
「勝負とは?」
「さあ? そこまでは……でも、私は確かに聞きました。彼に対してレッドドラゴンは、勝負を持ちかけていて……そういえば……」
「そういえば?」
あ……
まずいぞ、これ……
「レッドドラゴンは、勇者がどうとか言っていました」
うわ! 誤魔化せてなかった!
ターニアが勝手にドラゴンの言った「ユーシャ」を「ユータ」と勘違いしてたから、この路線でいけると思ってたが、そう上手くはいかないか……
だが、マールさんが勇者の名前を出すと、ギルド長はあごに手を当てて、納得いったような表情を見せた。
「なるほど……色欲の勇者か」
「色欲の勇者?」
「うむ、伝説では……300年前、魔王が現れた際、レッドドラゴンは勇者の味方をし魔王討伐を手助けしたらしい。今でも何か繋がりがあるのかも知れない。勇者は魔王を討伐した後、新たな魔王として君臨したが、その時の怠惰な生活から『色欲の勇者』もしくは『色魔王』と呼ばれているのだ……」
色魔王て……
勇者が大犯罪者と思われているから、余程のことをしたに違いないとは思っていたが、まさか魔王になっていたなんて……
これは、益々俺の正体が勇者だってことバラせなくなってきたぞ……
俺が、そんなことを考えていると、ギルド長が尋ねて来た。
「ひとつ尋ねたいのだが……君は……」
ギルド長はそこまで言いかけて、首を横に小さくふった。
「そんなわけないか……いや、何でもない。気にしないでくれ」
いや、気にするだろ……
マズイな……
恐らくギルド長は、こう言いたかったのだろう。
レッドドラゴンがわざわざ会いに来るのは、俺が勇者の再来だからじゃないか、と……
何か、じわじわと、俺の正体が、この世界の人達にバレつつあるように思う……
はぁ~……
背中に嫌な汗をかいてる。
早く何とかしないと……
「ギルド長、これから、どのようにするおつもりですか?」
マールさんがギルド長に尋ねた。
「我々の目的は……ノメジハの安全だ。ノギーツのAランク冒険者が到着するまで何とか街の防衛を固めるのだ」
ギルド長はそう言うと、深いため息をする。
そして、ゆっくりと俺の方を向き直り?
「ところでユータ君? ものは相談なのだが……」
あ、このパターンは……
・・・・・・
俺は監禁された。
と言っても、別に牢屋にぶち込まれた、とかではない。
冒険者ギルドの一室を与えられて、逃げ出さないように外に見張りをつけられたのだ。
ギルド長は、レッドドラゴンが俺に勝負をもちかけたことから、俺を餌として利用できるのではないかと考えたようだ。
つまりは、レッドドラゴンが俺に気を取られている間に、ノギーツに要請したAランク冒険者に奇襲させる算段だ。
そのために、Aランク冒険者達がノメジハに到着するまでの間、俺がどこかに逃げ出さないよう見張りをつけたのだ。
俺が閉じ込められた、というか、軟禁されたギルドの部屋は、広くないものの、こじんまりとした良いものだった。
家具はベッドと机、椅子と、一通り揃っている。
要するに、宿屋と同じ感じだな。
実際、何かの際に、冒険者に宿屋代わりに使ってもらうことがあるらしい。
出入り口はドアが一つ、窓が一つ。
窓は堅く閉じられ、外からご丁寧に板を打ち付けているようだ。
でも、一階の部屋だし、窓さえどうにかすれば逃げ出せないこともないかな?
普通だったら無理かもしれんが、俺には、ぱんつという奥の手があるし……
とりあえず、これから、どうしようか?
自問自答してみる。
『何言ってるの! 早く私を助けに行きなさいよ!』
幻聴だ。
スイーツの声が聞こえて来たように思えた。
「こんなものが聞こえるなんて、大分疲れてるな、俺……」
うーんと背伸びをすると、それからベッドに横になる。
・・・・・・
・・・・
・・・
だが、ベッドに入っても、全く寝付けない。
気持ちが落ち着かないのだ。
『ほら! 早く! 寝てる場合じゃないでしょ! Aランク冒険者が来たらお終いよ!』
また幻聴が聞こえる……
やれやれ、余程まいってるみたいだな……俺。
もちろん、スイーツを助けにいかなければ、とは思う。
俺が勇者であるということを知っていて、その上で協力的な人物というのは貴重だし、とても頼りになる存在だ。
だが、何故だ?
何で、こんなにも気になる?
さらわれた後、ついぼぉ~っとしてしまったし、さっきだって幻聴は聞こえるし……
あんな嫌味なやつの安否が……何でこんなに……
そこがどうにも納得がいかない。
スイーツを早く助け出したいと思う反面、何で俺があんな嫌味なやつを助けなきゃいけないんだという反発が若干ある。
「そもそも、レッドドラゴンのやつは、何で俺の一番大事なものがスイーツなんて……」
俺は、スイーツなんて大事とは思っていない。
むしろ、厄介者だとすら思っていて……
胸の中がもやもやする……
これが仮に、さらわれたのが沙織先輩だったら、どうだったのだろう?
すぐに助けに行っていただろうか?
うん、間違いなく、迷うことなくすぐ出かけてただろう。
だけど同時に、沙織先輩なら、俺なんかがいかなくても何とかしてしまう気がするんだよなあ……
沙織先輩自身は、かなりのほほんとして危なっかしいところがあるが、誰にでも好かれる先輩なら……きっと俺が行かなくても、誰か……そう、もっとヒーローとして相応しい奴が、沙織先輩を助けに行っていると思う。
むしろ、俺が行かない方が……全てが丸く収まる気さえする……
ああ! 嫌だ嫌だ!
こんな陰気な考え!
そもそも、あいつが沙織先輩の姿で現れるのが悪い!
だから、こんなにも、もやもやするんだ!
精霊は、見る者にとって「最も信頼できる姿」になって現れる。
スイーツは、あいつがあの姿でいるのは、俺が沙織先輩のことを信頼していたからなのだが……
「あ、だからか……」
考えてみれば、スイーツは俺以外の誰にも見えない。
沙織先輩を助ける奴は星の数ほどいそうだけど、精霊であるスイーツが見えるのは俺だけ……つまり、スイーツを助けだせるのは俺しかいないのだ。
俺があいつを見捨ててしまったら、それで終わり。
つまり、スイーツには、俺しか頼れる人間がいないのだ……
傲慢かもしれないが、そう思うと、段々と……本当に少しずつだが、俺が助けださなければ、という気持ちになって来た。
「はあ……やれやれ、ヒーローとか俺がやるような役じゃないんだがな……」
でも、仕方ない。
だって、俺は選んでしまったんだ、勇者として異世界に転移することを!
なら、その責任、果たしてやろうじゃないか!
あいつを助け出すことで!
・・・・・・
俺は、ギルドの部屋でぱんつを被ると、
バキッ!
なるべく音をたてないように窓枠を破壊し、ガラス板を取り外す。
窓のあったところには、ぽっかりと穴が開く。
ここから外へ出よう……
途中、デブの俺は、腹がつっかえたが、それも無理やりぶっ壊した。
「ふぅ……」
お陰で、壁に大きな穴が空いてしまい、見たら一発で気づかれそうだったが、知ったことはない。
目指すは街の外壁の外。
真夜中のひっそりとした街中を行く。
人通りは無く、通りは真っ暗だ。
「あれ、か?」
遠くの方に灯りが見える。
恐らく、あそこは街の門の辺りだろう。
俺は、灯りを目指して歩み始める。
暗闇の中、歩くのは、とても大変だった。
時折、自分がどこを歩いているのか、わからなくなる。
そういや、こうやって、真夜中のノメジハの街を歩くのは初めてだな。
いつもの喧騒とした雰囲気ばかり目にしているから、ひっそりとして物音ひとつ無い街は、何とも不気味に感じた。
いや、気味悪がっている場合じゃないな。
残り使用済みぱんつは、7枚。
一枚につき約30分は効果を得られるから、ざっと210分、つまり3時間半か。
レッドドラゴンがどういう勝負を挑んでくるか知らないが、ぱんつは十分もつだろう。
問題は、どうやって街の外に出るかだが……
すぐ思いつく選択肢は3つぐらい、か。
1番:街の門を強行突破
2番:どこか適当な外壁を登って乗り越える
3番:外壁に穴を開けて抜け出す
う~ん、やっぱり1番が合理的かな……
とりあえず、こっそり門のところまで行ってみて、出られそうならそこから出よう。
ダメだったら、外壁を乗り越えるか、壊すか、とにかく別の方法を考えて……
そんなことを考えながら街中を進む。
暗闇の中、何かにつまずきそうになりながらも、何とか門の近くまで辿りつく。
「さてと、門番は?」
いた。1人だ。
「これなら、いける……かな?」
1人なら、ぱんつ被った上で、強行突破すればいけなくはないかな……
ふいをつけば、奇襲をかけるのも難しくないだろう。
いや、別に倒すことを目的としないのだから、体当たりの勢いのまま外に出れば……
ザザ……
ふいに、後ろから、すり足で地面を擦った音が聞こえた。
「待て……」
「いやあ、トイレの場所がわからなくて、迷ってしまって……」
俺はそう言いながら、ふり返る。
「人間は、何で時々、そういう見え透いた嘘を言うんだ?」
そこには、皮鎧に身を包み、俺に向かって剣を構えたマールさんがいた……
作者「シリアスな展開続く……だるいよお~。ギャグ書きたいよお~」
スイーツ「書けばいいじゃない」
作者「それやるとストーリーが進行しなくなります。てか、もう大分予定より遅れてるんですよぉ~! ここら辺でやっと7~8万字の予定が、気付いたら9万5千字超えてるじゃないですか! やだー! こりゃ10万字丁度で第一章・完というのは無理そうだな……」
作者「某ドラクエ3クリアしたので、最初からやり直して、勇者一人旅やってるんですが、超楽しい! 経験値4人分入るから、結構レベル上がって意外にサクサク進む! その代わり、ボス戦がキツイけど……」
スイーツ「そういうことやってるから……はぁ~」




