15枚目 しゅぎょう
かくして、暗黒の淑女会の脅威は去った……
と思いたいところだが、あんなしょうもない、『びっくりするほどユートピア』効果がいつまで有効か、わからない。
自分でそう仕向けておいて何だが。
「むしろ、恨みを買うことになったんじゃない? 後で、効果がなかった、って怒鳴りこまれたらどうする気なの?」
というのはスイーツの言。
うーん……まあ、その時は、土下座するか、尻尾巻いて逃げ出すか……
てか、どの道、早く強くなって、この街を出ようと思っていたんだ、俺は。
予定通り、マールさんに護衛兼で修行に付き合ってもらうことにしよう。
そんなわけで、俺は宿で軽く朝食を済ませると、マールさんと共に出発した。
そして、街道を進んで行くと、商店の前で声をかけられた。
「あら? ユータさんじゃありませんか」
シスター・クレアだった。
シスターは、相変わらずのシスター服に、買い物カゴ片手にいた。
「ユータさん、どちらへお出かけですか?」
「これから、マールさんと街の外へ、修行を兼ねて狩りに出かけるんですよ」
「二人だけで?」
「え……いや、まあ……」
そう言われて、あらためてマールさんの存在を意識する。
修行のつもりでいたけど、よく考えたら女と二人きりとか、デートみたいなものじゃないか……
うお! そう思ったら、何か緊張してきた!
失敗しないようにしなきゃ!
あ、昔読んだサイトに、デートは、口臭や体臭に気をつけろとか書いてあったっけ?
やべえ! 俺、昨日はお楽しみしたから、きっと体臭がイカ臭……
「大丈夫なんですか?」
シスターが耳打ちしてきた。
「え? は? あ、大丈夫でしょう。マールさん、つい最近まで冒険者をやっていたそうなので戦闘では……」
「そういう意味じゃありません」
シスター・クレアは、ふるふると首を横に振った。
「どういうことですか?」
「マールさんも、ぱんつの秘密を知っているんですよね?」
「ええ、まあ……」
「無理やり奪われませんか?」
え? 奪われる?
それはまさか、逆レのことっすか?
「ぱんつですよ、ぱんつ! ユータさんのぱんつ」
ああ、そっちか。
うーん、それを言われると、確かに心配だな……
「まあ、大丈夫かと言われれば、あまり大丈夫とは言えませんが……以前も無理やりぱんつ脱がされましたし……でも、意外に常識のある人ですから大丈夫でしょう……多分」
俺がそう言うと、シスター・クレアは顔を曇らせる。
「やはり心配です。人間、魔が差すということがありますから……それに、講習会でお見かけした時から思ってましたが、マールさんって、意外に執念深いですよ?」
それから、シスターは黙って考え事をしている風だったが、やがて顔をあげて、俺の目をしっかり見ながらこう言う。
「あの、私も同行したいのですが、よろしいでしょうか?」
「え? でも、シスター、何か用事の途中では?」
「大丈夫です。すみませーん!」
そう言って、シスター・クレアは、お店の人に買い物カゴを渡して、教会に届けてくれるように頼んだ。
それから、俺はシスターをマールさんのところに連れて言った。
「マールさん、シスター・クレアが狩りにご同行したいと言ってるんですが……」
「え……シスターが?」
「何か問題でも?」
「いや、そんなことはないが……」
マールさんはいかにも、困ったな、と表情で言った。
対して、シスター・クレアは、微笑みを絶やさない。
「シスターは、こんな男を、何で気にかけるんだ?」
「マールさんこそ、貴女ほどの腕の人が、こんな素人に付いてあげるなんて不自然ですよ」
「フフ、まさか惚れたとか言わないよな? こんな男に……」
「ホホホホ……まさかぁ。それは趣味悪いとしか言いようがありませんねぇ……ねえ? マールさん?」
もうやめて、二人とも! あたいのことで争わないで!
うおっ、今気付いたけど、これ、ハーレムじゃないか!
俺を巡って二人の女性が火花を散らすとか!
俺は、異世界テンプレ的展開に心が躍るように思った。
そんなことを考えて、にやけていたら、スイーツが近寄ってきた。
「ねえ、ポジティブになるのはいいけど……わかってると思うけど、貴方、じゃなくて、貴方のぱんつに興味があるのよ、この二人は……」
スイーツはそう言って、俺のことを、まるで可哀想なものでも見るかのような目で見やがった。
「回復魔法の講習会でのこと、もう忘れた? 一緒に講習受けていた女の子達は、ぱんつ魔の貴方のこと、どういう視線で見てた? 戦わなきゃ、現実と!」
言って、スイーツは両手の拳を握って、ガッツポーズを作って見せた。
ぐぬう……
だ、だが!
もしかしたら、俺のことをわかってきて、少し気になって来た可能性だって、微粒子レベルで存在するかもしれないじゃないかッ!
「な~んて、どう考えても、ぱんつ目当てなんだろ、シスター?」
「ですよねぇ! もう、マールさんったら変な冗談言うから!」
「こんな、イケメンなわけでもない、レベルが高いわけでもない、男としての魅力もないやつに惚れるわけないよなあ……」
「マールさんったら……あまり本当のこと言っては可哀想ですよ?」
「チッ、二人っきりなら、無理やり奪ってやろうと思ったのに……ぱんつを!」
「何言ってるんですか。それが心配だから、私がついていくんですよ」
やめろ……やめろ……せめて夢見させて下さい……
何で、俺……異世界転移してまで、こんな……こんな目に……
何て夢の無い世界だ……
・・・・・・
とまあ、そんな茶番はおいといて、俺達は、門番に挨拶をして街の外に出た。
そこから、てっきり森の方へ行くのかと思ったら、マールさんは草原の方へ向けて歩み出した。
「え? マールさん、方向違うんじゃないんですか? そっちだと、ルーキーマウスとかの出る初心者用の狩り場では?」
「ああ、そのことなんだが……」
マールさんは歩みを止めると、くるりと俺の方へ向き直して言った。
「ちょっと考えたんだが……君は昨日、ルーキーマウスより強い相手と戦って自分を鍛えたいと言っていたが、ルーキーマウスより強いやつといえば、ゴブリンだ。で、ゴブリンの狩り場を教えるのは簡単だが、それでは、大した鍛錬にはならんだろう……」
そして、マールさんは真剣な表情になる。
「急いで強くなりたいんだよな?」
「ええ、まあ……」
「なら……私が直接稽古をつけてやろう。ホントは、シスターがいなければ……人目がないダンジョンとかで、厳しく痛めつけてやろうと思ってたんだが……痛くないと覚えないからな」
何か怖いこと言ってる。
「まずは、君の力が見たい。ここらのモンスター相手にどの程度やれるか、見せてくれ」
そして、連れて来られたのは、ルーキーマウスやルーキーラビットといった初心者用モンスターの出る草原だった。
マールさん、俺のことナメてないか?
初期の頃ならともかく、今の俺には敵じゃないぞ、この辺のやつら。
よーし、見てもらおうじゃないか、俺の実力を。
「お、丁度いいの発見!」
森の方から、ひょっこりとルーキーラビットが現れた。
俺は剣を構える。
「てやあ!」
声をあげて、ラビットに向かって勢いよく駆け出す。
上段から思いっきり振り被る!
そして、盛大にスカる!
「オラ、そこだ! カァーッ! 何でそこで大ぶりするんだ!」
と言ってるのはマールさん。
くっ……
だが、確かに今のはよくなかった。
上から袈裟がけはダメだな、大ぶりになりやすい。
ならば、横に薙いでやる! これなら、範囲が広いから当たりやすいはず!
今度は、俺は剣を横に一閃!
ラビットは、まるで縄跳びでもするかのように、剣の上へジャンプして避けた。
「相手の動きを予測しろ、バカ! 相手の行き先に、剣の軌道を合わせるんだ!」
や、やり辛え……
いつもならもっと上手くいってるはずなんだが、人に見られているせいか、どうも上手く当たらない。女性を意識して、良い格好してやろうと考えたのがよくなかった……
その後しばらく、ラビット相手に立ちまわったが、どうにも攻撃が当たらない……
やっと当たったと思ったら、ラビットの毛をかすった程度だった。
そのくせに、奴のキックはよく当たるんだ!
しかも痛い!
一時、蹴られた痛みで、持っていた剣と盾を手放してしまいそうになったくらいだ。
何だ? 何かおかしいぞ、このラビット……
「おーし、ストップ! もういいぞ! 大体の実力はわかった」
「ぜいぜい……はあはあ……も、もう少し待って……本当の実力を……」
「もういいって。君、才能ないから」
容赦ない一言が胸に突き刺さる。
「い、いつもはこんなんじゃないんですよ! ルーキーラビットごとき!」
「ルーキーラビット? あれが?」
「え……」
「はあ……もう、その時点でダメダメだな。あれは、よく似ているが、草食のルーキーラビットではなく、肉食のキラーバニーだ。たまにルーキーラビットに混じって出現する上位種だぞ?」
そうだったのか……
いや、そうならそうと、教えて下さいよ!
いや、それよりリベンジ! リベンジお願いします!
今度こそルーキーラビット相手にして、俺の本当の実力を見せてあげますよ!
そう言ったが、「もう十分だから」とマールさんは取り合ってくれなかった……
「よし、こっからが本番だ。私が相手だ。どっからでもかかって来な」
と、剣と盾を構えるマールさん?
え……マールさん?
それ、真剣なんですが?
「痛くないと覚えないからな。丁度、回復のできるシスターもいることだし、半殺しでいくから体で覚えろ!」
「ちょ……」
「致命傷でなければ、どんな傷でも治してあげますから、ドンドンやられて下さいね」
「クレアさんも! 聖職者なら止めてあげてよぉー!」
そこからは地獄だった……
スカ、スカ、スカっと、こちらの攻撃は全く当たらない。
マールさんの攻撃は、ザシュ、ザシュ、ザシュっと当たる。
んで、ビュッ、ビュッ、ビュッと流血が飛ぶ。
「オラァ! どんな時も腕下げんな! ノーガードになるぞ! いいのか?」
「ひぃ!」
ザシュ、ザシュ、ザシュ、ビュッ、ビュッ、ビュッ。
ザシュ、ザシュ、ザシュ、ビュッ、ビュッ、ビュッ。
何か、擬音だけにすると、リズムゲームでもやっているみたいだな。
ザシュザシュザシュ!
ビュッビュッビュッ!
なんか、音だけだと卑猥だ……
でも、うま~く致命傷になるところは避けてくれているのか、切られても動けなくなるような怪我にはならない。マールさんの剣術は、とんでもスキルだな。
で、クレアさんに回復魔法をかけられるとすぐ治る……
お陰でゾンビのように、俺は何度も何度も立ちあがって、戦い続けた。
まあ、そうは言っても、回復魔法では、スタミナまでは回復しない。
ついには、俺はスタミナが切れて、へとへとになってしまった。
「よーし、やめ!」
日が暮れて、影の背丈がすっかり長くなったところで、今日の修行、終了の合図が来た。
「や、やっと終わった~……」
「情けないな……君のこと、自分から強くなりたいと言うから、もうちょっと根性があると思ったんだが……」
「まあまあ……ユータさん、頑張りましたね。マールさんもお疲れ様です」
「ああ、クレアさん……女神様のようだ……ぐす……」
「言っておくけど、この調子だと、次の街に旅立てる中級レベルになるには、あと二週間くらいは必要だぞ!」
「そ、そんな~……鬼ぃ~!」
だがまあ、とにかく今日の訓練は終わった……
そして、やっと乗り切った、と安堵していると……
カーン、カーン、カーン!
突然、鐘の音が聞こえた……
街の方から?
妙に甲高い、聞いていると何だか不安に駆られる音だ……
「何でしょうか?」
俺がそう言って、二人の方を向くと、二人は深刻な表情をしていた。
「冒険者ギルドが鳴らす、緊急事態を知らせる鐘です……」
「街で何かがあったんだ!」
マールさん達は口々にそう言うと、街の方へ向かって走り始める。
「ちょ! 置いてかないで!」
疲れて、へとへとになっている体に鞭打って、俺は二人を追いかけて走り始めた……
作者「やべえ、ギャグ入れたいけど、入れると話が滅茶苦茶になるっぽいから入れられない……」




