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タンクトップに連れられて。

「あのヒョロっとした奴だ。ずぶ濡れの」


 トカゲ野郎は戻ってくるなり、俺の方を顎でしゃくりながら、後ろの男にそう言った。

 筋肉質な男は俺をじっと見つめた。何かを見通すような、何かを知ろうとするようなそんな目は、しかし、すぐにふっと和らいで、細められた。


「やあ、ようこそ。こちらの世界へ」


 男は無警戒な笑顔を見せながらそう言った。俺は何と返すべきか分からず、軽く会釈しただけだった。

 そんな俺に男はやはり人のよさそうな笑みを返すと、仕切りなおすように手を叩いて言う。


「それじゃあ、とりあえず僕の後に着いてきてくれるかな。その恰好じゃ居心地が悪いだろう?着替えも用意してるし、君も何か聞きたそうな顔をしているし。場所を変えてゆっくり話そうか」


 俺は思わず顔を触ってしまった。そんな顔をしていただろうか。すぐにそれが言葉の綾だと気付いて上げた手を下げた。


「その前に一つ、聞かせてください」


 俺は入ってきた扉へと向き直る男の背中に声をかけた。

 振り返った男に言う。


「俺は帰れるんですか?」


 別にどうしても帰りたい理由などない。強いて言うなら、家族が心配するだろうから、となるのだろうが、それも本心からそう思っているのかと問われれば、首を傾げてしまうくらいの理由でしかない。

 ただ、平穏と安寧を求めるとするならば、こんな訳の分からない世界は早々に去るべきだろう。人間じみたトカゲ野郎がいるのだ、だとしたら人間大のトカゲやあるいは、それ以上の何かがいたっておかしくない。そも、常識が通じない世界など面倒でしかない。


 そう思えば、それが俺の帰る理由になるのだろう。

 俺の言葉に、男は頷いた。


「すぐに、とはいかないけど。帰ることはできるよ」


 その言葉に俺は思わず内心で安堵していた。やはり俺は、なんだかんだ言って内心に不安を抱えていたのだろう。

 俺の様子に男は笑みを浮かべると、何も言わずに、奥にある扉を開けて消えていった。


「ほら、お前もさっさと行け」


 トカゲ野郎が急かす。俺はその言葉に追い立てられるように男の後を追った。

 扉の向こうは殺風景な部屋であった。備え付けの窓が一つに、木の台の上に藁を敷き詰めただけのベッドが一つに、何の意匠もない四角い本棚が一つ。

 それだけの部屋であった。唯一ある窓も木の蓋で覆われており、明かりすらない室内は、扉の向こうから入ってくる明かりだけに照らされていた。


 俺が部屋に入ると、男がベッドの脇に立っていた。


「ちょっと手伝ってくれないかな」


 脇にあるベッドを指さして男は言う。何を手伝うのだろうかと一瞬思案して、咄嗟に身構えて、意味が違うことに安堵して、ようやく俺は男のしようとしていることを理解した。


「ベッドをズラすんですか?」

「うん、僕たちはこの下に用があるからね」


 ベッドの下。つまり地下ということだろう。ということはベッドをズラせば出入り口があるわけだ。

 俺は男とベッドを挟んで向かい会う形で立った。そんな俺に、男は苦笑して言う。


「そっちじゃなくて……、まあ、見せた方が早いか」


 そう言うと、男はいきなりベッドを持ち上げた。すると、ベッドが傾く形でベッドと一体になった床が持ち上げられて、地下への出入り口らしい穴がそこに現れた。


「あのさ、これ、ちょっと持っていてくれるかな」


 男の言葉に俺は一瞬躊躇した。俺が持てるような重さなのだろうか。そんなことを考えながらも、しかし、男を待たせるのは悪いという妙な正義感が湧いてきて、俺は恐る恐るベッドを持ち上げた。


「木製とは言っても、軽くするために中は空洞にしてるからね。そんなに重くないはずだよ」


 男の言葉通り、ベッドは思ったよりも軽かった。

 俺が持ち上げたのを確認すると、男はちょっと待っててと言って、ベッドの下から出てきた穴の中に消えていった。


本日はもう一話投稿します。(20時頃)

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