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トカゲ野郎と、妙齢の女性と。

 トカゲ野郎の後を歩きながら、俺はようやく周りを観察する余裕を持つことができた。どうやら俺が出てきた小屋があるのは、町の中心部にほど近い場所であったらしい。それも、商店が立ち並ぶ通りであったようで、行き交う人にしきりに声をかけている様子が見て取れた。

 建ち並ぶ建物はほとんどが木製のようで、所々に土で造られた一回り小さめの建造物も見られるくらいで、それもトカゲ野郎の後ろを歩いていると、次第に見かけなくなった。


 トカゲ野郎はどこに向かっているのかというと、人の流れとは反対方向へと向かっている。時折、行き交う人と何か挨拶のようなものを交わすくらいで、立ち止まることなく進んでいく。


 すれ違う人にも、やはりトカゲ野郎みたいな人間のような生き物がいるわけで、恐らく象の遺伝子が混ざっているんだろうなと思われる鼻の長い巨漢の男やら、あるいは他の生物、トラかシマウマか、体にうっすらと黒い横線が入っている男やら。見事に多様な生き物がいた。中には人間味すらないような生き物もいて、それが同じように通りを歩いて言葉を交わしているのを見ると、やれ黒だ白だ黄色だなどと言っているのがどうにも馬鹿らしいことのような、そんな崇高な気さえしてくる始末だった。


 あまり大きくない歩幅でずんずんと進んで行くトカゲ野郎が、一軒の建物の前でようやく立ち止まった。辺りを見れば、通りを歩く人の波はすっかりと消え、たらほらと建物の陰に見えるだけだ。


「ここだ」


 トカゲ野郎はそう言って顎で建物を指した。


「俺の店だ」

「店?」


 俺は首を傾げた。目の前の建物に店らしいどこにも見当たらなかったのだ。店らしい要素とは何かと聞かれても多少答えに困るのだが、それでも、看板の類や、あるいは陳列棚のようなもの、それらが一切見当たらない。さっきまで、それが当たり前のような場所にいたものだから、よけいにそう感じてしまう。


「何の店なんですか?」


 店内を覗いてみようと、窓を探してみるがどこにも見当たらない。

 窓を探すのを諦めてトカゲ野郎に目を向けると、トカゲ野郎はそんな俺を鼻で笑った。


「ふん、落ち着かないやつだな。ま、ついてこいや」


 出会って最初の一声とは違う、トカゲ野郎の砕けきった言葉が俺を建物の中へと誘う。よくもまあこの短期間でここまで距離がつまったなとも、つめられたなとも思わなくもないが、今はそんなこと些事でしかないだろう。もしかしたら、これから更に詰め寄られるかもしれないのだ。目の前のトカゲ野郎の顔がこの世界における悪人面であったならばあり得ない話ではないのだ。もっとも、悪人面だから悪い奴であるとは全くもって言い切れないのだが。

 ともかく、俺はトカゲ野郎が扉を開けて中に入って行く後に従った。やはり、俺には選択肢などあってないようなものなのだ。道中、トカゲ野郎が俺の知らない言葉で挨拶を交わすのを見るに、それはまあ間違いのないことであろう。


 トカゲ野郎の後に続いて建物の中に入ると、親父がよく飲むようなきついアルコールの匂いが鼻に飛び込んできて、俺は思わず鼻を抓んだ。


 察するに居酒屋であった。奥にカウンターを模したキッチンがあり、妙齢の女性が白いエプロンを着て何やら料理を作っている。それ以外は四人掛けだと少し狭いくらいの丸テーブルがいくつかと、中央におよそ七、八人は囲めるんじゃないだろうかという一回り大きめの丸テーブルがあるくらいで、きついアルコールの匂いには似つかわしくない小奇麗な店内であった。


 トカゲ野郎はカウンターで女性と二言、三言言葉を交わすと、俺を置いてカウンターの奥にある扉の中へと消えていった。


 一人取り残された俺はどうすべきか分からず、かといって勝手に座るのも何か違うような気がして、とりあえず、壁に貼られたお品書きのようなものをぼうっと眺めていた。生憎、文字は読めなかったが、その下にイラストのようなものが書かれていたので、何となく料理は想像できた。

 そうやって暇を持て余しながらトカゲ野郎を待っていると、キッチンに立っている女性が声をかけてきた。


「絵、上手でしょ。娘が描いてくれたのよ」


 そう言われて、俺はもう一度よくお品書きの下にあるイラストを見た。細い線で描かれたそれは、妙に品があって確かに上手であった。

 俺が頷くと、女性は嬉しそうに顔を綻ばせた。


「私もあの人も絵が下手なんだけど、娘は何故か絵が上手でねえ。私たちの絵も描いてくれたのよ」


 そう言って女性は、キッチンの壁に貼られている一枚の絵を指さした。そこには、女性とトカゲ野郎が描かれていた。

 目を擦るなどという無粋なことを俺はしなかった。二度見も遠慮しておいた。この世界はそういう世界なのだろう。そう自分に言い聞かせて、自分で納得した。色々と気になることはあったが、すべて内心で押し殺して、俺は女性に言った。


「上手ですね」


 女性が嬉しそうに微笑んだ。それはどこか慈愛に満ちた笑みのような、そんな気がした。


「おう、待たせたな」


 そこで、奥の扉を開けてトカゲ野郎が戻ってきた。筋肉を見せびらかすようにタンクトップを着た男を後ろに連れて。

初めに、お詫び申し上げます。

ジャンルが異世界(恋愛)になっていたのでハイファンタジーに変更しました。耕作と保夫、あるいはトカゲ野郎とのめくるめく愛憎劇を期待された方、大変申し訳ありません。

本作はあくまで、異世界を基調にしたファンタジーであり、その中に多少なりとも恋愛の要素が絡んでこようとも、それはあくまで男×女の純愛(あるいは偏愛)に過ぎず、男×男の非常に高次元な恋愛ではございません。

この度はこちらのミスでご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありませんでした。重ねてお詫び申し上げます。


次回の更新は明日になる予定です。時間は未定です。

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