第3話 護衛募集中
俺の冤罪が晴れてから1週間が経った。
魔王の封印が解かれたなんて事実が発覚したにも関わらず、人々は平和に暮らしていた。
中には、勇者光太郎の死に悲しむ者もいた。
国を挙げての葬式が本来は行われるはずなのだが、今は混乱状態でそんなことをしている場合でもないらしい。
人々は、各所で細々と俺を追悼してくれた。
俺は生きているんだがな。
俺は金銭も失った。
本来なら宿舎に戻れば、金なんか腐るほどあったのだが、それは勇者としての話。
光太郎が死んだ以上、その金はまあ、回収された。
そもそも勇者の宿舎に入ることも許されない。
だが、バーで飲んでいる時に持ち合わせていた金がまだ残っている。
23000ゴール。
これだけあれば、まあ何とかなる。
飯も食えるし、宿にも泊まれるし…。
ただ服装は少し残念だ。
バーに行った時の服装のままなのだが、ラフな格好だ。
これがもししっかりとした服であれば、俺が光太郎であることも信じてもらえたかもしれないのに…。
「だ、誰か!」
城下町で、一人の女が声を上げた。
「子供が…草原で魔物に…」
俺はすぐに走り出した。
周りも、俺なんぞに何が出来る…そう思っているだろうな。
だが俺はもともと勇者だ。
ここらで人助けでもしておいて、評判を上げておこう。
城下町のすぐ外は草原になっている。
最初はこの草原でみんなで訓練したっけな~。
戦い方や魔物についてを色々と学んだ。
徐々にだけど。
見ると、子供が確かに魔物に襲われていた。
あれはラドバード。
弱いが地味に痛い鳥の魔物だ。
俺は恐らく子供が落としたのであろう短剣を拾い上げ、ラドバードに飛びかかる。
うむ、力を失ってはいるが、身体能力は衰えていない。
ラドバードを次々と薙ぎ払う。
短剣はあまり使ったことはないが、ラドバードくらいならどうってことない。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうおにいちゃん…」
「危ないだろ。一人で草原に出ちゃ…」
「で、でも…僕、勇者の力になりたかったんだ…」
見た感じ6,7歳くらいの子供だ。
「勇者の護衛を…募集してるらしいから…」
「なに?それは本当か?」
「うん…僕、どうしても裕也様みたいになりたいんだ」
はい。
寄りによって裕也のファンとは…。
なんかムカつくなぁ。
それにしても護衛の募集か。これはいい話を聞いた。
「よし、じゃあ町に―――――――」
そのとき、背後に違和感を感じ、俺は振り向いた。
空間がウネウネと捻じ曲がっているのが分かった。
1年間ずっと見てきたこの、嫌な感じ…。
これはこの空間から魔物が現れる前兆だ。
何もない所から突然魔物が現れる…。
魔王が封印されてからその現象はなくなったのだが、再び起きているということは、やはり魔王は本当に復活してしまったのか。
空間が開くと、中からは巨大な魔物が姿を現した。
全身硬い岩で覆われた2足歩行のアルマジロ…ゴロロジロだ。
こんな魔物が…どうして…。
「くそっ!」
短剣でどうにかなる相手ではないことくらいは、分かる。
こういう硬いやつを相手にするのはいつも裕也だと決まっていたんだが…。
ゴロロジロは背中の岩を飛ばしてきた。
子供を抱えて何とか躱すが、これでは時間の問題だ。
いずれボロが出る。
「おにいちゃーん…」
子供が涙を浮かべている。
俺に勇者の力があれば、こいつに勝てるかもしれない…。
だが今は、まともに戦うことすらできない…。
くそ…この子供を助けて、美人なお姉さんとつながりを持てる可能性だってあるのに…。
俺は目の前のチャンスを逃すのか…!?
目の前のチャンスは逃げて行ったが、目の前の魔物は一刀両断された。
この大胆な攻撃、間違いない。
「おーおー、またてめえかよ」
ゴロロジロを倒したのは、巨大な戦斧を握る裕也だった。
勇者一のパワー、本来だったら礼を言うところだが、こいつだけは許せない。
「うわあぁ!裕也様だ!」
子供が俺から離れ、裕也に抱き着く。
あー、そういや裕也のファンだったね。
「お前みたいな奴が出しゃばらない方がいいぜ?」
「…お前こそ、来るのがおせえんだよ。どや顔かましてねえで、もっと早く来いよ」
「あァ?」
「その子供は最初ラドバードに襲われていた。お前が今更来たところで、子供はたぶんケガしてただろうな」
「…今ここでてめぇを真っ二つにするのも悪くねえが、こっちも忙しいんだ」
裕也は眉間にしわを寄せ、子供を連れて町へ入っていった。
まあいくら勇者といっても、今となっては一般人の俺に手は出せないのだろうな。
それも子供の前だ。
案外、まともな感覚はあいつにもある。
城下町を見ていると、至る所に紙が貼ってあった。
内容は、勇者の護衛を募集しているというもの。
今までこんな張り紙があることに気付かなかったとは…俺はどんだけ下を向いて歩いていたんだか…。
5日後に選抜試験が行われるようだ。
その中から3人か…。
これで合格し、勇者の護衛に付けば、いずれは成果を上げられ、返り咲くことが出来るかもしれない。
さっきは目の前のチャンスを逃したが、もう逃す気はない。
5日後の試験に備えて、俺は準備を始めた。
「おばさん、魔導書見せて」
魔道具屋に、俺は来ていた。
ここでは、主に魔道具を扱っている。
魔道具とは、魔力を利用して扱うことのできる便利な道具のことだ。
種類は色々あり、魔導書も魔道具の一つである。
魔導書とは、持てば魔力を扱うことで魔法を習得できるという物だ。
しかし、魔導書の魔法を使う場合は、常に魔導書を持ち歩かなければならないというデメリットがある。
だから、魔導書がなくても魔導書の魔法を使えるようになるまで普通は鍛錬する。
実際俺も勇者だった頃はそうしていた。
魔法を覚えるのは楽しいから、結構ホイホイ覚えていた。
それでも、魔法使いの駿には歯が立たなかったな。
「どんなのがいいんだい?」
「そうだなぁ、とりあえず難易度はCでいいかな」
魔導書には色々な種類がある。
攻撃魔法、防御魔法などのように、魔法の種類によって分かれているものもあれば、炎魔法、水魔法などのように、属性によって分かれているものもある。
俺が今回狙っているのは、魔法が満遍なく記載されている魔導書だ。
一つ一つの魔法のスペックは多少落ちるが、色々な魔法を覚えることが出来る。
魔導書には難易度が設けられている。
上から、S、A、B、C、Dだ。
勇者だった頃は難易度Aの魔法も少しだけ覚えていたな。
今となっては使えないが(3日前に試してみたけどだめだった)。
とりあえずCだ。
一般人なら頑張れば覚えられる程度の魔法。
難易度B以上になるとある程度の才能は必要になってくるけど、Cだったら何の問題もなく習得できるだろう。
俺は1500ゴールを払って魔導書を購入した。
さて、これを3日で覚えよう。