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第1話 冤罪

 土煙が巻き上がる。

 どうやら俺は何とか生きていたようだが、動くと背中に痛みが走る。

 たぶん壁に叩き付けられたんだろう。

 目を開け、起き上がる。

 段々と土煙が晴れ、封印の間の全貌が明らかになる。


 さすがの封印の間だ。

 勇者である俺が吹き飛ばされるほどの爆発があったにもかかわらず、壁床天井はほとんど無傷だ。


「あっちゃー…」


 しかし、台座の上には、パンドラの箱の姿はなかった。

 あったのは、粉々になった箱。

 

 俺はとりあえずこの状況を皆に伝えようと、再び封印の間の扉を開こうとする。

 しかし、普段通りに手を当て、魔力を注いでも、扉は開かない。


「え、ここにきて不調?」


 爆発の影響でこの空間そのものに何らかの影響があったのかもしれない。

 だとすると、後は力技だ。

 俺は腰に携えた刀を抜こうと手をやる。

 しかし、刀がつかめない。


「あ…」


 爆発の影響か。

 刀は吹き飛び、封印の間の壁に突き刺さっていた。 

 あれだけの爆発を受けほぼ無傷の封印の間に残された唯一の傷が、俺の刀が刺さったものだった。

 改めて勇者の力の凄さを知る。

 

 刀を抜こうと、手をやる。

 しかし――――――――――


バチィッ


 その音と共に、軽い静電気のようなものが発生し、俺の手は弾かれた。

 再度試すが、結果は何度やっても同じだ。

 あれれェ~おかしいぞォ~?


 刀もつかめず、扉も開かない。

 何やら嫌な予感がしてならない。

 あのフード男の言葉を思い返すと、余計に不安になる。

 『もうじき勇者じゃなくなる』。

 俺は勇者だ。

 その証拠にほら、手の甲に勇者の模様が…


「…あれ?」


 本来なら右手の甲にあるはずの六芒星の模様が…ない!?

 最初から模様なんてなかったかのように、普通の手に戻っている。

 この世界に来る前の…俺の手だ。

 手の甲の六芒星は、自分が勇者であることの何よりの証明だ。

 あの模様があれば、店に行けば飯は安く食えるし、他国への入国も容易だった。

 その模様が、無い。


「おいおい…どうなってんだ…?」







 15分ほどが経過しただろうか。

 すっかり退屈になり、俺は台座に寄り掛かって座っていた。

 すると、突然封印の間の扉が開いた。

 外からは武器を構えた兵士が複数人入ってきていて、その真ん中には章介の姿があった。


「しょ、章介!」

「…捕らえろ」

「…え?」


 章介の声に、武器を持った兵士が一斉に俺の所へと寄ってくる。

 俺は兵士に取り押さえられる。

 ふざけんな…どういうことだ?


「おい章介!!」

「その者を拘束し、牢に入れておけ。明日の朝、王に謁見させよう」

「はっ!」


 章介の命令を聞いた兵士のうちの一人が、何やらぶつぶつと唱え始める。

 そして、拘束魔法で俺の両腕を後ろで拘束した。

 強い拘束魔法だ。

 1年以上もこの世界で戦ってきたから、自分にかけられた魔法がどれほどのものなのかは感覚で分かる。

 そこまでして俺をとらえたいのか?


「章介、俺だ!光太郎だよ!なんで分かんねえんだ!」

「…貴様が光太郎だと言うのなら、証拠を見せてみろ」

「証拠も何も…俺の顔を見りゃ分かるだろ!?」


 そう言うと、章介は呆れたような表情を浮かべ、そっぽを向いた。

 俺にはその態度の意味が分からなかった。


「章介!!!」


 俺の声も虚しく、章介は封印の間を後にする。

 続けて俺は、複数の兵士たちによって連行され、牢に入れられた。








 翌朝。

 鉄の扉が軋みを上げる音で、俺は目を覚ました。


「謁見の時間だ」


 よく知っている兵士だ。

 名をヘンロル。

 魔王討伐の為にここを発った時からの顔なじみの兵士だ。

 だがそのヘンロルでさえ、俺の目を見てはくれなかった。

 といっても、拘束魔法で喋ることも許されてないからな。




 謁見の間には、錚々たるメンツがそろい踏みだった。

 俺以外の3人の勇者に、宮廷騎士、大魔導師の姿もあった。

 そして、王座の間には椅子に腰かけた国王の姿。

 ここ、ディアンティカ王国の王、ディアンティカ21世だ。

 神託に従い大魔導師に俺たち4人を召喚させるように命じた張本人。


「その者の口の拘束を解け」


 そう言うと、兵士の一人が印を結び、口の拘束を解く。

 ようやく自由に発言できると分かったが、言葉は出なかった。

 なんだこの状況は…これではまるで…これから死刑宣告でもされるかのようではないか。


「まず貴様の名を聞こう」

「…光太郎。水瀬川光太郎だ」

「冗談はよせ。貴様は光太郎ではない」

「冗談じゃないさ!俺は光太郎だ!なんでみんな分かんねえんだ!!」


 俺が声を上げると、突然俺の顔に激痛が走る。

 何かに耐えかねて、裕也が俺のこめかみに膝を食らわせやがった。

 なんだろう…すごく痛い。


「次ふざけたら、てめえを真っ二つにするぜ」


 裕也は背中に背負った身の丈ほどの巨大な戦斧を握りながら言った。

 真っ二つ…?

 なんで俺が真っ二つにされなきゃいけねえんだ。


「裕也…本当に俺が分かんねえのか…?」

「てめえが誰だかも分かんねえし、なんで俺の名前を知っているのかも分かんねえな」


 それが同じ勇者に掛ける言葉か…。

 章介はゴミを見るような目でこちらを睨んでいる。

 駿は顔を合わせてくれない。

 大魔導師も宮廷騎士も、まるで魔物を見るような目で俺を見ている。

 そして俺は、理解した。


「…裕也、お前いつも手鏡を持ち歩いていたよな?」

「あァ?」

「貸してくれないか?顔を確認したいんだ」


 そう言うと、裕也は俺のひざ元に手鏡を投げる。

 手鏡にはヒビが入った。

 そのヒビが、鏡に映る俺の顔に重なった。


 誰だ…こいつは…。

 この鏡に映っているこいつは誰だ?俺なのか?

 俺のチャームポイントともいえるサラサラの黒髪の面影はない、白のような銀のような髪色。

 貧乏小僧のような顔立ちだ。

 少し幼くなったようにも見える。

 

 そして、王が再び尋ねる。


「貴様に問う。なぜ封印の間にいた?」

「…俺が光太郎だからだ。俺は勇者たちと飲みに行った。その帰りに、パンドラの箱をもう一度見たくて、封印の間に来た」

「光太郎が封印の間にいたのは確かです国王。光太郎の刀が封印の間に刺さっていました」


 章介が王に言及した。

 王は深くうなずく。


「そ、そうだ!だから俺は光太郎だ…!」

「貴様の手の甲には勇者の模様がない」

「それが俺にも分かんねえんだ!封印の間に行ったら変な男に会って、その男に――――――」


 俺の弁解など聞く気もないようで、裕也が再び膝で俺の顔を叩く。

 今度は懲りずに、何度も何度も…。

 あぁだめだ。気を失いそうだ。

 勇者だった時はこんなの大して痛くなかったのになァ。


「も、もうやめましょう!」


 声を上げたのは、駿だった。


「裕也さん。そんなに殴る必要ないじゃないですか」

「こいつはパンドラの箱の封印を解いた張本人だぜ?本来ならすぐにでも殺さなきゃいけねえ」

「証拠がありません。この人が光太郎さんであった証拠がないように、パンドラの箱の封印を解いたという証拠もないです!」

「てめぇ、こんな奴を擁護するのか?」

「もうよい」


 裕也と駿の言い合いを、王が止めに入った。

 駿がこんなに熱くなるのも珍しい。

 よほど混乱しているのか、或いは心のどこかで俺が光太郎なんだと信じてくれているのかもしれない。


「その者は、封印を解いた張本人ではありませんよ」


 突然、奇妙な声が謁見の間に響いた。

 そして、王座の後ろに突然人影が現れた。

 王は立ち上がり、王宮騎士たちが王を守るように立ち塞がる。


 現れたのは、あの時謁見の間にいたフード男だった。


「パンドラの箱を開けたのは、私です」


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