1話 美少女はまさかの……
テストで更新が遅れました!すみません!
家の前まで着き、ドアを開ける。
相変わらず普通の家だと毎回実感する。普通過ぎて何も言えないぐらいだ。まあ普通が1番だからいいんだけどね。
「ただいま」
と、自分にしか聞こえないぐらい小さい声で言う。誰も居なくても、いつもただいまは一応言っている。
靴を揃えると、近くにテニスラケットのケースが置いてあった。
「あれ、アイツ帰ってきてるのか」
リビングに入ると、美月がソファに横たわりながらテレビを見ていた。格好はショートパンツにTシャツと、随分とラフな格好をしている。少し茶色く焼けている肌が健康的で、俺とは大違いだ。
「あ、やっぱりもう帰ってきたのか。早いな」
休日、美月はいつも部活でテニスをしているため、ラケットを持っていくのだ。玄関にあったラケットケースは帰ってきて置いたのだろう。
「おかえりお兄ちゃん。星野さんと何話してきたの?」
美月が茶色いショートカットの髪をいじる。恐らく興味はそこまで無いのだろう。
星野さんは俺の家にまで来る時があるので、美月とは顔見知りである。だから、美月も星野さんがどういう人か知っているし、いい加減な性格という事も知っているのだ。
「驚いた事に担当のイラストレーターさんが仕事辞めちまってな。んで、新しいイラストレーターと話してこいって言われた」
そう言うと美月は表情一つ変えずにスタスタと歩き、冷蔵庫を開け、オレンジジュースを出して、コップに注いで飲もうとする。
「へえ。なんで辞めちゃったの?」
「イラストレーターさんが妊娠した」
「ぶふぉ!?」
突然美月が飲んでいたオレンジジュースをこっちを向いたまま吹き出す。それは見事に俺の顔に命中した。
「ちょ、お前何やってんだよ! きたな ……って目痛っ!?」
酸味のある飲み物はこんなにも染みるのか……痛てぇ!
俺は近くにあるティッシュで、顔をゴシゴシと拭いた。肌にベタベタとする感触が残り気持ち悪い。
「だってお兄ちゃんがイラストレーターさんを妊娠させたとか言うから……」
すげえ勘違いをしてるなコイツは……まぁ俺の言い方も少し悪かったけれども。それでもさすがにその解釈は無いだろ。
「妊娠させたのは俺じゃない。安心しろ」
美月がホッと肩を下ろす。そしてまたオレンジジュースを飲みなおした。
「なんだ……。てっきりお兄ちゃんが妊娠させたのかと……違う人が妊娠させたんだね」
「おう。そういう事だ」
なんだよこの会話。今の中学二年生は普通に妊娠させたとか言うのか……時代も変わったもんだ。
「んでその新しいイラストレーターなんだが、超美少女でな。金髪のハーフなんだよ」
金髪美少女なんてアニメとかラノベとかでしか見たことがなかったから、つい気分が上がる。妹にも話したくなるもんだ。
「写真とか無いの?」
「スマン。無いーー」
そう言いかけてふと思い出してポケットを探ると1枚の写真が出てきた。
やっぱり……そのまま持ち帰ってきてしまった。まあ別にいいか。また今度会った時に返せば。
「星野さんに返しそびれてた。この人がそのイラストレーターだ」
写真を美月に渡すと写真を見て美月が「わっ」と、声を上げて、驚嘆する。俺もこんな感じの反応をしたのだろうか。なかなかのいいリアクションだ。動画にして収めたい。
「すごい美少女じゃん! アニメの女の子みたい……。ついてるね、お兄ちゃん」
美月がバシバシと俺の背中を叩く。結構痛い。流石いつも運動しているテニス部。
「まあ、てなわけでイラストさんが変わるって事だ」
「そ。頑張れお兄ちゃん」
美月は無愛想に言ってまたソファに横たわってクッキーを食べ始めた。
テレビを見ると、時計は6の数字を指している。もうこんな時間か。
「そろそろ飯作ろうか?」
「飯」という言葉に反応し、がばっと美月が起き上がる。
「食べる食べる! 今日は何作るの?」
何を作ろう。確かひき肉と玉ねぎが丁度あったから、ハンバーグでも作ろうか。
「ハンバーグ作る。だからもう菓子食うのやめろ」
早速台所へ向かう。そして冷蔵庫からひき肉と玉ねぎを出す。
去年から親が夜遅くまで帰ってこないから、料理を作る事にもすっかり慣れて、大抵の料理は作れるようになってしまった。まあ損は無いからいいんだけどな。
手際良く肉をこね、四つに分けて真ん中を窪ませフライパンに乗せる。ジューという良い焼ける音と、食欲をそそる匂いがしてきた。
ハンバーグは作るのが楽だし旨いからよく作る。美味しいしな。
「そろそろ良いかな」
皿に2つずつハンバーグを乗せてその横に昨日の残りの人参とブロッコリーを置いた。完成。ファミレスで頼んだら出てきそうなほどの完成度だ。我ながらなかなかの出来。
「ほれ、食え」
テーブルに料理を置くと美月が椅子に座った。
「いっただきまーす」
美月が手を合わせて言った後ハンバーグをムシャムシャと頬張る。その顔は実に幸せそうな表情をしていた。
「おいし〜! お兄ちゃんの料理は最高だね!」
親指を立ててにっこり笑う美月。美味しいって言ってもらうとやっぱり嬉しいもんだ。また作ろうって気になる。
「さて、俺も食うか」
美月の向かい合いの席に座り俺も食べる事にした。
「そういえばさ」
「何?」
「お前反抗期来たっけ?」
手を顎に当ててうーんと唸る美月。恐らくーー
「来てない」
「だよな。普通はお前ぐらいの年頃の女の子は皆反抗するんだぞ」
中学二年生なんて反抗しまくりの時期だろ。一緒に洗濯すんなクソ兄貴。とか近寄るなキモイとか言ってもいい年頃なのだが……いや、まぁ罵倒されないのはいいんだけど。
美月の場合はむしろ逆だ。最近なんて買い物とか一緒に行くし勉強も教えてやってる。ソファで隣同士に肩を並べて一緒に座る時だってある。前なんて一緒に寝ようとしてきたしーーってよく考えたら結構やばくないか。
「なんでお兄ちゃんに反抗しなきゃいけないの。意味分かんない」
ここまで来ると親に誤解されるレベルだぞ……ってか誤解されてもおかしくねえ……。
「お前、ブラコンだったんだな」
冗談交じりのつもりで言ったが美月は真面目に返してきた。
「うん。そうかも」
予想外の答えに驚いた。まさか認めるとは。それにこんなオタクでコミュ障なお兄ちゃんを好きになってくれるとは。いい子に育ってくれて良かった。
「でも、勿論恋愛対象とかって意味じゃないよ? お兄ちゃんの事だから変な勘違いしてそう」
ジトーっと俺を睨む美月。
いくらなんでも流石に妹をそういう目では見れない。まあ世界一可愛いと俺は思ってるがな。
「してねーよ。んじゃ食器洗っといてくれ」
料理は俺がする代わりに美月は皿洗い担当なのだ。この方式は1年前から変わってない。
「はーい」
食器を台所に置いて、俺は自分の部屋へと向かった。
階段を登り、部屋の前まで来る。相変わらず階段を登るのはめんどくさい。
ドアを開け、床に落ちている大量の本を避けてベッドに座る。
「そろそろ掃除しなきゃだな……」
本が散らかりすぎて、足場が無くなってきている。いらない本は捨てよう……もう本棚に入らなくなりそうだし。まぁそんな事いつも思ってるけど、片付けた試しないんだよな。弓梨が1ヶ月に1回くらい片付けてくれてるってこともあるから。
冷蔵庫ほどの大きさの本棚を買ったが、すぐライトノベルで埋まってしまった。合計で300冊以上はあるだろう。
最近、自分でもこれは多少やりすぎな気がしてきた。本屋のラノベコーナー作れるぞこれ。まぁ、作家なら普通なのか? でも星野さんは普通はそんなに読まないって言ってたしな……結構参考になるし、面白いからいいんだよな、ラノベ。
おもむろにベッドに飛び込む。気持ちがいい。腹が満腹の為、このまま寝てしまいそうだ。
「あ、明日の準備しなきゃだな」
途端に思い出して起き上がる。
明日は高校の入学式。制服もしっかり着こなして行かなければ。
それに新しい仕事仲間に挨拶もするのだ。やれやれ。入学初日から話しかけて怪しまれないだろうか。
ポケットから写真を出してじっくり見る。
やっぱいつ見ても美少女だ。金髪碧眼で顔もアニメのキャラみたいでーーーー
「って見惚れてる場合か」
写真を机の上に置こうとしたら裏に何かが書いてある事に気づいた。
「なんだこれ…………aryi? ユーザー名か?」
写真の裏には雑にボールペンのような物で、アリィという文字が書かれていた。なんだこれ。
「調べてみるか」
机の奥にしまってあるパソコンを、ゴソゴソ探って出す。
このパソコンは、執筆する時も使っている俺の相棒なのだ。親が使っていたが2、3年前に新しいパソコンを買ったから、譲って貰った物で、性能はなかなか良い。
パソコンを立ち上げてインターネット検索サイトへ移動する。
「えーっと……aryiね」
キーボードでaryiと打ち込む。小説を執筆して慣れたせいか、20年ほど働いているサラリーマン並に文字打ちが早くなった。まあ、損は無いから良いだろう。
enterボタンを押すとカチッといい音が鳴る。すると画面には『aryi イラスト』などと出てきた。
イラスト……?
検索すると、一番上のサイトには某イラスト投稿サイトに『aryiのイラスト』という欄が出てきた。
そこをクリックして浮かび上がった絵は予想外の物だった。
まずは絵のクオリティだ。今までのイラスト担当のレーフさんより上手く見える。個人的にはこちらの絵の方が好きだ。
もう一つ驚いた事はなんとその絵が俺が書いているライトノベル『ヒロイン攻略』のメインヒロイン雨宮沙霧の絵だった事だ。
「すげえ……特徴も全部捉えてる。色も最高だ」
見た感じ相当時間をかけて描いたように見える。細かい所まで出来てるし。
他の絵も全部俺の書いている本のキャラだった。一人一人良さが出ていて見てて飽きない。
そして、その実力に答えるように、恐らくいいと思ったら押すのだろう、いいねという欄には3万と表示されている。これは相当凄いのでは無いのだろうか。
待てよ? 俺の作品のキャラをこんなたくさん、しかもこんな細かく描いている。これってもしかしてーー
「間違いない! この人は俺の作品のファンだ! しかも相当の!」
夜中なのに嬉しさのあまりつい大声を出してしまった。だが、そんなことは気にしてられない。
「てことはこの美少女がこのイラストを……?」
はっきり言って、このレベルはイラストレーターの中でも相当上手い部類に入るだろう。もしかしてもうイラストの仕事しているのだろうか。
しかし参ったな。まさかこの美少女さんが俺の作品が好きなんて……いや好きなのはあくまで俺の作品であって俺じゃないことは分かっているけども!
「これは楽しみだな……よーし! なんか執筆したくなってきたあああああ!」
思いっきり叫ぶと横の壁からドンッ! という大きい音が響いた。恐らく美月が五月蝿く感じたのだろう。しかし今はそんな事だって許せる。なんたって気分がいいからな。
その後深夜4時まで執筆した俺は満足しながら眠りについた。