プロローグ
初のラブコメです!評判がよければ連載します!
日曜日の昼下がりーー
俺は少しオシャレな喫茶店で、俺の担当編集者である星野佳代さんと、自分が書いているライトノベルについて話があると言われ、今星野さんと向かい合う席に座っている。
「話って何ですか星野さん」
面倒くさそうに言う俺を見て、星野さんは黒い髪をいじりながら言った。
「そんな顔するなよ〜。せっかくこのナイスバディのお姉さんが来てやったんだから普通喜ぶところだぞ」
確かに星野さんは黒いポニーテールの髪が似合っていて顔もいいし、何より胸が大きいが俺の好みではないし、この人は性格がいい加減過ぎる。
話があるという時は大体大事なことなのに、適当にやっとけみたいな感じで投げやりだし、編集者という感じがしない。
「んで話って何ですか? 帰ってラノベ読みたいんで手短にお願いします」
「お前は本当にライトノベルが好きだな……普通作家はそんな読まんぞ」
呆れ顔で言う星野さんの言葉に驚いた。
「えっ、ラノベ作家って読まないんですか?自分で書いてるのに」
「大体は書くのに忙しくて読まんし作家で読んでいる人は少ないぞ。しかもお前みたいなバカみたいにハマってる奴なんてもっと少ない。作家って大人が多いし」
と、言いながら、星野さんはケーキにフォークを刺して口に運ぶ。
「おっ、このケーキうまっ! お前も食ってみろよ」
そして俺の口にケーキを入れようとする。無理やり入れようとすんなよ……。
「別に俺はいいですよ……」
なんか仕事中って感じが全くしない……
近所のお姉さんと遊びに来たような感覚だ。
「うまいから1口食ってみろって! ほら、あ〜ん」
やや強引に俺の口にケーキを入れる。クリームの甘みが一気に来る。その後にふんわりとしたスポンジが混ざりあい、絶妙な味が口に広がった。
ケーキなんてあんまり食べないし久しぶりだ。ショートケーキは好みの方だったので、少し嬉しい。
「どうだ。うまいだろ?」
「まあそこそこっすね」
「素直じゃないなお前は」
今時素直な高校生なんて居ないだろ。
なんだかこんな編集者に慣れてきてる自分が悲しい……もっと普通に仕事がしたかった。『こちらのプロットはこうでこうして……』とか、そんな感じの真面目な会議みたいなのがしたかった。
「じゃあそろそろ本題に入ろうか」
そう言うと、コーヒーをすすってカバンから何かの資料を出した。どうやら仕事モードに入ったらしい。最初からそうしてもらえれば助かるのだが。
「君の処女作である「ヒロイン攻略」ってライトノベルの絵師が居ただろ?」
「はい。レーフさんですね」
レーフさんは俺の作品のイラストを担当していて、その絵は俺の中では一番と思っているくらいだ。様々なライトノベルのイラストなどをしていてラノベ作家で知らない人はほぼ居ないと言っても過言ではない。
「そうそう。そのレーフさんなんだけど実はさーー」
星野さんがにかっと笑う。……なんか嫌な予感がするぞ。この笑い方は絶対にヤバイことを言う時だ。
「……」
「絵師引退したんだよね」
「…………」
「…………」
一瞬沈黙の間になる。そして数秒経過して俺は星野さんの言葉を理解したと同時に机をバン! と叩いて立ち上がっていた。
「えぇええぇええ!?なんで!?レーフさんはあんなに人気でお金にも困らなかったはずだ!なんで辞めたんだ! ってか急だなおい!」
驚きのあまり静かな喫茶店で叫んでしまった。
「お、おい落ち着け落ち着け」
その瞬間周りの客の視線が俺に向けられる。背中に視線が槍の様に刺さる気がした。
「あ、すみません…」
ペコペコと頭を下げながらとりあえず座って頭を整理し、なんとか落ち着きを取り戻した。
「なんで引退しちゃったんですか?」
「あの人結婚して子どもが出来たんだとよ。んで普通に専業主婦として働く事にしたらしい」
「そうだったんすか……」
なんとなく納得が出来る理由だ。
イラストレーターは18禁ゲーム、いわゆるエロゲーなどのイラストの担当をする事もあるし、ライトノベルのイラスト自体そういう絵を書くことが多い。
だから結婚したりすると一般人として生きたいと思う人も少なくは無い。
「じゃあ次巻である4巻はどうなるんですか?」
やはりイラストレーターを変えるという事になるのだろうか。レーフさんの絵は、めちゃくちゃ上手いため、その絵に慣れてしまい、新しい絵が気に食わなくて読むのを辞めてしまう人も居るかもしれない。かなり致命的だ。
俺もレーフさんの絵が1番だと思っていたからあまり気は乗らないな……。絵が変わると読者が減るっていう話も聞くし……。
星野さんは珍しく申し訳なさそうに言った。
「すまないが、他のイラストレーターに絵は担当してもらう」
やっぱりそうなるか……だがこればかりは仕方が無い。
元々俺はまだ1作目の駆け出しノベラーだし、そんなわがままを言う権利は無いよな……。
「そのイラストレーターなんだがお前が入学する同学年学校の生徒らしくてな。ソイツの写真がコレだ」
星野さんは胸にある小さいポケットから1枚の写真を出した。
その写真に写っているのは金髪のポニーテールでモデルのような綺麗な顔立ちをしていて上品な微笑みを浮かべている美少女だった。その華麗な姿はまるでーー。
「アニメのヒロインみたいだ……」
彼女は主人公と最後に結ばれるあのラブコメアニメのヒロインの様だった。ラノベの表紙に載ってても違和感が無いくらいに。
「美人だよなぁ……ハーフらしいぞ」
そう言った星野さんはどこか望ましそうに見えた。
星野さんも充分美人だと思うが……。
「んで、頼みがあるんだが、ソイツと直接話をつけてきてくれ。ソイツには言っておいたがやっぱりちゃんと会って話すのが1番いいだろ」
「…………」
マジかよ……。
普通だったらその頼みを受け入れるだろう。仕事だし。
だがこの頼みを俺は承知することが出来ない。その理由はたった1つーー。
「俺コミュ障なの知ってて言ってるでしょ星野さん」
俺が睨みながら聞くと星野さんはニヤリと笑った。
「あ、バレた?」
「バレた? じゃねえよ! まずアンタが俺と彼女を合わせるべきだろ! なんで俺が見ず知らずの女の子に入学早々仕事の挨拶しなきゃいけないんだよ! 難易度高すぎだろ!」
入学早々全く知らない可愛い女の子に挨拶? コミュ障にとってそんなの公開処刑と同じくらいキツイミッションだ。
そんな無理ゲー頼まされてたまるか!
「そこをなんとか頼むよ月夜君!」
手をバチンと合わせて頭を下げる星野さん。
女の子と話すとか無理ゲー過ぎる……。だが編集者の頼みを断るわけにも……。
しかしなんだかんだ言って毎回星野さんに助けてもらったりアドバイスしてもらったりしてたし、もしかしたらコミュ障を克服できるチャンスかもしれない。今回は……しょうがない。頼まれるか。
「分かりました。やります」
俺は決心した。
「おお!ありがとう!それでこそ新人売れっ子作家平坂月夜!」
全く……こういう時だけ褒めても全然嬉しくねえ……いや、正直若干嬉しい。
「じゃそういう事で俺は帰ります。自分の分の会計出しときますね」
まだ高校生とはいえこういった礼儀は必要だ。自分の分はちゃんと払わないとな。
「子どもが大人のフリすんな。私が全部払うから払わんでいい」
俺の礼儀を大人のフリって言ったよこの人。ちょっと凹むんですけど。
「そうですね。ガキはガキらしく奢って貰います。じゃあまた今度何かあったら呼んでください」
そう言って席を立つと星野さんはタバコを吸いながら手を振った。
「さて……帰ったらラノベでも読もうかな」
そんな独り言を言いながら、俺は家へと向かった。