怨嗟の牙
「数百……!? それは確かなのか?」
「うん。皆にも直に見えると思う」
マリスの言葉通り、一行が走っているとすぐに腐敗した大地を火の海にしながら迫って来る焔の群れが見えた。
どのような性質を持っているのかは分からないが、地面に移った焔はどれも膝下より大きくなることはないようだ。
先ほどのナズエルのケースと合わせて、直接傷つけられることは無さそうなのが救いか。
ただ……
「あの焔……面倒だな、焔獣とでも呼ぼうか。アレはたぶん倒さないと向こうには行けないな」
エレンの言葉に全員が頷く。
それほどまでに、狂奔する焔獣たちからは無差別な敵意が放たれていた。
一部の焔獣は同士討ちするようにして巨大化さえしている。
「これは……クレス君は無事だけど、無事じゃないな」
その台詞に噛みつこうとしたマリスは、クレインの顔に浮かぶ思いつめた表情に言葉を飲み込んだ。
焔獣の群れが、マリスの射程に入る。
「『星――』」
「待った。私が行く」
弓を構えたマリスを抑え、抗議する間もなく速度を上げるクレイン。
「――霊撃蛮屠」
クレインの周囲に、生物めいた気配の霧が――霊魂が漂う。
色という色を混ぜ合わせたような不安定な黒に染まった霊魂は見る間に体積を増していく。
一撃で上空にいた焔獣が全滅した。
二撃目で地上にいた焔獣の三分の一が消し飛んだ。
そこで霊魂は分裂し、残る焔獣を全て飲み込んだ。
役目を果たした霊魂は姿を晦まし、クレインは後ろにいるマリスらには見向きもせず走る。
脚に霊魂が変じた具足を纏ってからは、さらに速度が上がった。
「それなら――」
「マリス、何を――!?」
後を追って走りながら、マリスはエレンの後ろに回って弓の弦を強く引く。
「撃ち出す! 『特攻弾』! ……もう一発!」
「まさか、ぼくも――うわあああぁぁぁ…………!」
悲鳴の尾を引きながら飛んだ二人がクレインのやや前方に着弾するのを確認。
流石に意表を突かれたのかクレインの速度が僅かに鈍る。
「後は……『鉤矢』ッ!」
実体を持たない矢が放たれ、立ち上がるのが遅れたナズエルに突き刺さる。
直後、矢に引き寄せられたマリスの身体も徒歩では有り得ない速度で移動した。
あれ……焔獣たちが碌に描写する間もなく全滅した……だと……?




