旅支度
しばらくして、クレスが戻ってきた。
「お待たせ。大体は目を通した」
「成果は?」
「まずまずって感じだな。大層な秘宝は結構あったんだが、はっきりした情報は少なくてパッとしない。『破壊者』『回答者』『招虹剣』……今回の収穫は名前だけかな」
秘宝。この世界の各地に存在する、特殊な力を帯びた道具の数々。その出所は様々で、人知れず田舎に代々伝わっていたり、大昔の遺跡の深部に眠っていたり、魔物の腹の中から出てくることさえある。
最近では魔法や科学といった技術の発達に伴う人造秘宝の研究も盛んだ。魔法を封じた呪符や過去の遺物を再現した銃火器などは、その成果の一端である。
「そういえばリアラ」
「……はい」
「これから宿を取ったら旅支度しに行くんだが、どうする? 疲れてるみたいだし、休んでるか?」
「いえ、御一緒します」
「そうか? 無理はするなよ」
「じゃあ、遅くても十八時には宿に戻るってことで」
「あっ……」
商店街の前でそう言い残すと、クレスは離れていった。
中途半端に手を伸ばしかけたままのリアラが、ティルナと共に残される。
そんなリアラを全く意に介さず歩き出すティルナに、リアラも小走りで付いて行く。
宿に残ると、クレスが気を利かせてティルナを護衛に残す可能性が高い。
そう踏んで同行を申し出たリアラだったが、この展開まで読みきれなかったことを少し悔いる。
黙々と買い物を続けるティルナは、店員とも簡単な身振りで意思疎通をこなしていく。
『お釣りは紙幣で』
とにかく徹底的に口を開こうとせず、必要なときは氷で宙に文字を描いている。
普通に喋れば良いのに、と思いながら眺めていたリアラの脳裏に古文書館で自分を問い詰めたときのティルナの剣幕が浮かぶ
何とか挽回しないと、という思いをそろそろ沈黙に耐えられなくなってきたことも手伝って、リアラは恐る恐る口を開いた。
「あの……」
「?」
返事はなく、ただ面倒くさそうにこちらを振り返るティルナ。その半眼が彼女の不機嫌を物語っているようだった。
「あまり食糧とか買わないんですね」
「…………」
広げた右の掌の上に、小さな森を象った氷が生まれる。その中から出てきた猪型の氷を、同じく氷でできた人形の放った矢が貫く。
「……外で狩りをする、ということでしょうか?」
「(コクリ)」
首肯が返ってくる。リアラは予想もしなかった答えに少したじろいだ。ちなみに少し長い距離を野宿しながら旅するような者の間では、ごく普通のことである。
(……やはり国を追われた貴族の類、か?)
その反応を見たティルナが当りをつけていると、その隣を不審な動きで通り過ぎていく赤いツンツン髪。
次回は腐れ縁のアイツが大(?)暴れ!