暴泥猿
リアラもキィン、アーヴィンと共に仲間を探して山中を歩いていた。
先頭のアーヴィンが世間話でもするように口を開く。
「なあ、さっきからヤバいのが一匹こっちを狙ってるんだが。周りに余計な魔物がいない内に仕掛けた方が良いと思うんだよな」
「……そうですね。方向はどちらでしょうか?」
「あっちの樹の向こうだ。準備は良いか?」
視線で正しい方向を示しつつ、弓で見当違いの方を指すアーヴィンは様子とは裏腹に真剣な声で確認する。
「はい」
「そっちの……キィンは?」
「俺は当てにするな」
「はぁ!?」
「あー……キィンさんは、戦えないんです」
「冗談じゃねーぞ。ったく……だが、仕方ないか。行くぞ」
霞むような速さでその手が動いた。
リアラに認識できたのは矢を放ち終えたアーヴィンの姿だけ。
彼が「来るぞ!」という警告を発した直後、怒りに満ちた悲鳴が響いた。
木々を薙ぎ倒しながら、常人の二倍以上はあろうかという巨大な石猿が姿を現す。
片目を失ったその眼窩からは泥が血のように流れている。
「『砲』!」
「ゴッ!」
腕輪を外したリアラの手から放たれた一撃を、大猿は小さく吠えて回避。
反撃とばかりに飛びかかろうとするところへナイフに持ち替えたアーヴィンが割り込み、もう片方の眼も奪われそうになった大猿は回避を優先。
追撃にリアラがもう一発撃ちだした砲は再び躱されるが、その隙にアーヴィンが投げつけた爆弾が炸裂した。
胴のど真ん中を抉られても動きの鈍らない大猿に舌打ちするアーヴィン。
リアラも腰の銃を抜いて発砲するが、大猿の巨体には効果が薄い。
「相変わらず、武器の効きにくい相手ですね……!」
「そりゃ人間相手の武器でデカブツを相手にするのは無理な話だ。普通の猿や蛇を斬る分にはその剣もだいぶ有効だったんだがな――っと!」
「ゴァアア!」
地面を揺るがす一撃を避けつつリアラを諭すアーヴィン。
実際リアラの剣は以前クレスが素材から厳選して鍛えたものにマリスが雷魔法を付与した逸品。
専門違いとはいえSSSの傭兵二人の渾身の作なのだが……。
アーヴィンも指摘したように、巨大な魔物を斬り裂くにはいかんせん刀身が短すぎた。
リアラが腕力で勝負するタイプでないことも合わさって、引っかき傷程度にしかならない。
リアラの砲は回避され、範囲の広い排では威力不足で隙を作る以上の効果は見込めない。
アーヴィンの装備も巨大な魔物を相手取ることを想定していないため火力に欠ける。
加えて大猿が慎重な立ち回りを見せるせいで攻めあぐねる中、リアラたちは次第に押され気味になっていった。
「ゴガアア!」
「くっそ、腰抜けの癖に調子づきやがって……!」
「『縛』!」
タックルを敢行した大猿の動きをリアラが封じた隙に射程外へ逃れたアーヴィンはより威力に期待できる弓に持ち替えて攻撃するが効きは薄い。
「このままじゃジリ貧だぞ! おいキィン、何か手はねぇのか!」
「……知らんな」
苛立ちの混ざる声で怒鳴るアーヴィン。
初めはある程度警戒していた大猿も、もはやキィンには目もくれない。
そんなやり取りの横で、深く考え込んでいたリアラが口を開いた。
「……アーヴィンさん。少し、時間を稼いでくれませんか?」
「手があるんだな? 逃げたら承知しねぇぞ!」
軽口を叩きながらも狩人は前に出る。
その後ろで、リアラは意識を集中させ始めた。
イメージするのはクレスの炎鎌。
かつて天をも衝くような巨大な蛇を両断したその圧倒的な威力に自分の魔力の感覚を重ねる。
半ば無意識に剣を抜いたリアラは魔力を同調させ――。
「リアラ、避けろッ!」
「ゴァアア!」
「えっ?」
アーヴィンの叫びに意識が引き戻される。
真っ先に視界に映ったのは、へし折れた樹の下で半身を血に染めた狩人の姿。
続いて、正面から自分に迫る巨大な拳。
イメージは霧散し、反動から座り込むリアラ――その前に立ちはだかった影がある。
「――――キィン、さん?」
「俺を、守るんだろう? 死なれたら……困る」
巨大化した鋼腕を交差させて大猿の拳を受け止めたキィンがぶっきらぼうに吐き捨てる。
それを聞いたリアラは目を丸くしていたが、小さく笑みを零した。
「そう、ですか……ありがとうございます」
予期しない参戦者に大猿も一瞬その動きを止める。
すかさずキィンは刃状にした腕を分裂させつつ更に伸ばし、その頭部を斬り刻んだ。
頭を失ってなお暴れようとする身体をアッパーカット気味に打ち上げる。
「今度は、私が。……『砲』!!」
更に追撃を掛けようとするキィンを制し、リアラが立ち上がる。
不完全ながらも放たれた砲は、無防備な大猿の身体に直撃して消し飛ばした。
ニートがデレました
アーヴィンは接近戦もできますが基本は射手なので……
あと、マリスとは比べないでやってください。




