刻牙解嵐
海蛇を斬りつけて飛び回るクレスの横を、青血の槍が掠めていった。
見れば浮遊する青血の剣を従えたグラシャラボラスが、海蛇の斬り傷から抜いた血を槍状にして大砲のように射出している。
「――っと! おい、地味に俺も狙うのやめろ!」
「知ラんなぁ!」
「この野郎……」
「野郎じャないっ」
「意外なとこに反応するんだなお前」
軽口を交わしながらも二人は海蛇相手の立ち回りを続ける。
海上に出ている海蛇に一通り斬りつけると、クレスは元の船まで下がった。
甲板に降りると、解いた焔装を片手に集め……握り潰す。
「『刻牙解嵐』ッ!」
「――――――――!?!!?!??」
海蛇に刻まれた斬線が、蘇ったかのように焔を放ちその身を切り刻む。
狂ったように暴れる海蛇だが、直にズタズタに引き裂かれて海中に沈んだ。
肩で息をしていたクレスだが、海面に飛び下りると更に詠唱を開始する。
「逃がすか……! 大いなる青にたゆたうものよ、我が声に応え不浄を拒め! 『大海掌』!!」
海に響いた魔力が一つの海流を生み出し、何かを吐き出した。
宙に打ち上げられたのは、どこか風船を連想させるぶよぶよした肉塊。
不揃いな長さで断たれた足の付け根では、妖魔の証である赤い眼が鈍く光っていた。
追撃を掛けようとしたクレスだが、ふらついた拍子にその身体が海中に沈みこむ。
それを察したジェスが海へ飛び込むと同時、上空の妖魔が巨大な墨弾を吐き出した。
「『濤凍――』」
「――『砲』ッッ!!!」
リアラの手から迸った魔力はティルナの氷矢もろともに墨弾を巻き込み、極大の光柱となって妖魔を飲み込んだ。
少し陰りだした紅陽珠の下で各船が戦後処理に慌ただしく動き出す中、クレスを担いだジェスが船の上に戻ってきた。
「あんなに消耗してるのに海に降り立つとか、無茶も程々にしてください」
「……ああ、悪い」
珍しくジェスにクレスが頭を下げていると、ちょうど宙の炎球を背に降り注いで来た影がある。
「あ――、『壁』」
何かに気付いたようなリアラが結界を張るが早いか、それを破り突っ込んで来たのはグラシャラボラス。
幸い血剣は結界と相殺されていたので、船や人に被害が出ることは無かった。
「あの、グラシャラボラスさん……今度から、シャラさんって呼んでも良いですか?」
「いきなリなゼそウなる!?」
「いえ、切り替わる前に言っておいた方が良いかと思いまして」
「……訳ガ分カラん」
狼狽した様子のグラシャラボラスだったが、そのままフラリと倒れるのをリアラが支える。
彼女もまた消耗が激しかったのか、起きる気配はない。
「……リアラ、今のはどういうこと?」
「さっきシャラさんが降って来た時、クレスさんがダウンしてるのを見てちょっと焦ったのが視えたんですよ」
「……?」
「だからシャラさんが止められるところまで期待してたとしたら、思っていたより理性的なんじゃないかなって……それで、距離を置いているわけにはいかないかなって」
「……そのうち斬られても知らない」
照れたように笑うリアラがシエナを支えるのを手伝いつつ、ティルナは呆れ顔で呟いた。
シャラのフラグまで狙い始めたリアラ




