空から降ってきた少女
その翌日の昼過ぎ。
山岳地帯を抜けた一行は進行方向にある小さな村、プレールを目指して進んでいた。ここを抜ければ国境は目前だ。
「あ――――――れ――――――!」
不意に聞こえた異音に、クレスはすかさず周囲を探る。
反応は上空にあった。渦巻く風を纏った何かがこちらに落ちてくる。
「ちょっと失礼!」
「きゃっ!?」
ちょうど落下地点にいたリアラを抱え、クレスは飛びのいた。
直後、謎の物体が着弾。巻き起こった激しい爆風に耐えることしばし。
爆風が収まると、落下地点には小規模なクレーターができていた。
「きゅ――ぅ……」
再びの異音に、クレスが油断なくクレーターの様子を窺う。
そこには目を回して大の字に倒れる少女の姿があった。
鳶色の髪を左側でサイドテールにしている。ぶかぶかの黒いジャージのような服を着ているが、その上からでも起伏が見て取れる。
落下の衝撃によるものか危うい所まで捲れ上がった服の下からは純白の素肌が曝け出されており、クレスは慌てて目を逸らした。
ただ、あれほどの高さから落ちてきたにも関わらず外傷一つないのが引っかかる。
「……どうする?」
「放置」
「ああ、よく分かった。依頼主の意見は?」
ティルナの返答に爽やかに頷くと、クレスはリアラに問いかけた。
「じゃあ、事情を聞いてみましょうか」
「まぁ……そうなるよな……」
さして迷うこともなく答えるリアラに従い、クレスはクレーターに歩み寄った。
「おい、大丈夫か?」
「うにゃ……ハッ! ここは一体?」
クレスが呼びかけると、反応があった。のそりと起き上がる少女。
「ここはリムニアのメガイラへ向かう道だ。お前は一体何者だ?」
「わらしはナベリウスっす~。ガルディア帝国より、ついに店長にぶっ飛ばされへやってきまひた~」
「……は?」
頭でも打ったのだろうか、目の焦点が合っていない少女――ナベリウスは、呂律の回らない声で物凄いことを言った。
数百年の長きに渡って大陸の東西を隔て続けるクリニエル山脈を越えるのは、そんな簡単なことではない。
「……そ、それでお前はこの後どうするんだ?」
だいぶ困惑気味に尋ねるクレス。
風魔法で軽く探りを入れたが、予想に反して酒や薬をやっている様子は無かった。何らかの魔法で中毒に陥っている気配もない。
「『二度とその顔みせるな!!』って言われたのれ~……どうしまひょう?」
その「店長」の気持ちを、何となく理解するクレス。ちなみに後ろのティルナは我関せずとばかりに本を読んでいる。
「それで、お前は……何なんだ? 身の上的な意味で」
「しがない旅人れすよ~」
「成る程」
(正体不明、と……)
頷きながら脳内のメモに情報を書き留めるクレス。
「アンタ方見るになかなか強そうれすし、わらしも混ぜてくれねぇかい?」
「え……」
突然の提案に眼を白黒させるクレスは、さりげなく腕に抱きつこうとするナベリウスから距離を取る。不本意にも先ほど見た分だと、彼女はこの面子の中で誰よりメリハリある体つきをしている。これに抱きつかれたら、それだけでクレスの性能は半分以下に落ちるだろう。戦闘不能は確実だ。
それに気付いた時点で、クレスにとってナベリウスはS級超の危険人物だった。実は既に朱の差した顔色を、光魔法でさりげなく誤魔化している。
「…………断る、と言ったら?」
「と言っても何の当ても無い身れすからね~、ひとまずアンタ方の後ろに付いて行くだけっす」
「………………」
思わず肩を落とすクレス。
「え? 別に良いと思うのですが……」
リアラの声に愕然とするクレスとティルナ。
だがリアラには、ナベリウスの不安が僅かに視えた。気付いてしまった以上、無視はできないのがリアラである。
「ちょ、正気か? 俺たち狙われてるんだぞ?」
「でも、このままここに置き去りにするのも同じくらい危険ですよ」
「確かにそうかもしれないけど……」
「えっと……何か考えでもあるんですか?」
「いや、アンタは正しいよ。……おい、ナベリウス! 付いて来たいなら好きにすればいいさ!」
クレスの不安を視て取ったリアラがさらに尋ねるも、クレスはナベリウスに呼びかけてからさっさと進んでいってしまった。
かくして一行に、変人が加わった。
「ところでわらしのことは、気軽にナベっちとでも呼んでくらはい」
「悪ぃ、無理」
「……」
「そ、それはちょっと……」
……分かる人には既にナベの正体がバレてるかも?




