クレスと林檎
「えっと……クレスさん、それは?」
追いついたリアラの質問に、クレスは林檎を齧りながら振り返った。
「四年前に植えた林檎だよ。品種は果皇、ツァイヴルでひたすら大きい実を研究した結果できた奴だな。林檎とは思えない味してるが、美味い!」
本当に嬉しそうな表情のクレスは、目にも止まらぬ速さで巨大林檎をもぎ取り、五等分してティルナたちに投げ渡す。
「あ……これって、食べたことあるかもしれません。林檎だったんですね」
「……美味しい」
「へぇ、面白い味だな」
「寧ろ林檎なのは見た目だけじゃないれすか?」
「じゃあ何の味かって言われると表現できないんですけどね」
五人の感想に満足そうに頷くクレス。
その傍にちらりと見えた小さなシルエットに気付いたティルナは視線を向ける。
「……それは?」
「ん?」
指摘されて初めて気づいたように、自分の後ろに隠れようとするそれを摘み上げるクレス。
「~~!」
顔を赤くしてじたばたと暴れる手の平サイズのそれは、クレスを縮めたような赤髪の子供の姿をしていた。
「「!」」
ティルナとクレインの手が子供の手前で弾き合い、二人の間に見えない火花が散る。
クレスが手を離すと子供は再びクレスの背後に回り、顔だけ出して様子を窺う。
「木霊ってやつかな? 俺に似てるのはマサムネやムラマサみたいに俺の魔力の影響を受けてるからだと思う。地味に火属性も備えてるみたいだし」
「えっと……クレスさんとこの林檎には、どんな関係があるんですか?」
木霊の方を気にしながらリアラが尋ねる。
「ここは魔力流が集まるところだけど、見ての通り草原のど真ん中だろ? これはチャンスだと思って林檎を植えて、ついでに結界で守っておいたんだ」
「結界?」
「魔力流を利用した奴で、成長促進と外敵排除の効果を備えてる。まあ普通に果実を取る程度なら見逃す仕様だけど」
爛々と光る視線を木霊に注ぐティルナたちを、ナベリウスが面白がるように眺めている。
「木霊ってことは、連れ回すことはできないんれすよねー?」
「そうなるな」
「ご主人様、この林檎の樹を本部に移さないか?」
「……賛成」
「良いと思います」
「却下」
クレスの即答に三人は不満も露わな表情になる。
「魔力なら私が与えるぞ」
「~~!」
首を横に振る木霊にクレスも頷く。
「この木はもうかなり深く根を張ってるから、どうしても負担がな」
「「「むぅ……」」」
三人が唸っていると、木霊の身体が淡い光に包まれた。
「~~……」
はにかんで手を振ると、木霊は木に吸い込まれるように姿を消した。
「あまり長くは出てられないみたいだな。じゃあ、そろそろ行くか?」
「あ、ああ。そうだな」
「……」
「ですね……」
名残惜しそうだった三人も、何度も振り返りながら林檎の木を後にしたのだった。
次回ようやくセポルに到着です。。




