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その拳にご注意を  作者: ろうろう
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95話 土下座待ったなし

修は、おっさん達に囲まれていた。

全員が全員、ムッキムキで日に焼けている。

一際マッスルなおっさんが、でっかいジョッキを持って修の向かいにどっかりと座った。


「おうボウズ!お前も行ける口か!?」


グビグビと、水の様に酒を飲んだ後に絡んで来る。


「はい!全然行けます!」


修も、同じサイズのジョッキからぐびりぐびりとアルコールを摂取していた。

皆はいい感じ赤くなっていたが、修はけろりとしたものだった。


「そうかそうかはっはっは!!飲め飲め!!」


おっさんが、一口で半分になった修のジョッキに、アルコールを追加してく。


「頂きます!親方もどうぞ」


修は喜んでそれを受け、お返しにつぎ返す。

このおっさんが、作業員の頭である親方だった。


「おう、悪ぃな!がっはっは!!」


親方も大笑いしながらそれを受けた。

二人でぐいーっと酒を飲み、二人揃ってジョッキをテーブルに叩き付けた。

ぶはーっ!と酒臭い息を吐く。


「いやしかし坊主のおかげで捗る捗る。どうだ?このままうちで働かねーか?」


親方は実に機嫌がよさそうに、修の肩をその大きな手でばしばしと叩きながら勧誘し始めた。


「いやぁ、皆さんの技術を覚えるのは難しいですよ…」


修は謙遜した。

力仕事は手伝えるが、組み立てとかを見ていても、何が何だかわからない。

職人の技を見せられているのだ。


「ばっかやろう!んなもんはな、体で覚えていくんだよ!!」


親方に怒鳴られた。


「そうだそうだ!」「やってりゃあ覚えるぜ!」


周りで騒いでいたおっさん達も、口々に叫んでくる。


「そうですか?…でも一応探索者ですし…」


修が首を傾げながら、一応本職のことも口に出した。


「あー、そういやぁそうだったなぁ。領主様にも気に入られてるんだっけか。ってぇと、ボウズは強ぇんだろ?」


親方とは別のおっさんが、ジョッキを片手に修の隣の席にどっかと座った。

ポディさんだ。


「はい。たぶん」


修はポディさんに頷いた。


「そりゃあそうだよなぁ。あんなことする人間初めてみたぜ」


また別のおっさんが呟いた。

マハッタヤさんだ。

おっさん達の頭の中に、平気な顔をして、手刀で石を切り出す修の姿が浮かんで来た。

手刀なのに、断面がつるっとしているのだ。


「前に聞いたんだがよぉ。領主様は姪っ子の、…マテナ様だっけか?あの子をボウズと結婚させたいそうだぜ?」


また新たなおっさんが絡んで来た。

ダンランドレスさんだ。


「ほぉ~」「ああ、あの子かぁ」「将来は美人だよなぁ」


おっさんたちは、今度はマテナの姿を思い浮かべた。

ファウスが連れ歩くようになり、目にする機会が多くなったのだ。


「そうなんですか?」


修にとって寝耳に水の情報だった。

12歳と結婚て。

ダンランドレスさんは手をひらひらと動かしながら呟いた。


「風の噂だがな。だがあれだ、ボウズにはポーラちゃんがいるだろ?」


今度はみんなの頭の中に、ポーラが浮かぶ。

数回手伝いに来たことがあるので、マテナよりも鮮明だ。


「あの娘か~」「ちと気が強そうだが、いいおっぱいしてるしなぁ」


やはり男。

見ている部分はおっぱいだ。


「「「で、どうなんだ?」」」


おっさん達の声がはもり、視線が修に向けられた。

流石の修も、質問の意味は分かった。


「え?結婚はまだまだしませんよ~」


あっさりと言い放ち、ぐびぐびとアルコールを摂取する。


「がはははは!!間違いない!!独り身最高だ!俺も独身に戻りたいぜ!!」


親方が爆笑し、修の背中をバッシンバッシンと叩いた。

修でなければ咽ていただろう。


「あ~、いいんスか親方~、女将さんに伝えますよ~?」


マハッタヤさんがニヤニヤと笑いながら親方に言った。


「ばっかやろう!黙ってろ!殺されちまう!!」


親方は半笑いで、マハッタヤさんに怒鳴った。

怒鳴られたマハッタヤさんも、笑顔で首を竦めた。

冗談だと分かっているのだ。


「「「ぎゃははははははははは!!!」」」


周りのおっさん達も大爆笑だ。




酒が進み、話は弾んだ。

いい感じでへべれけになりかけている親方が、ふと思い出したように呟いた。


「…そういやあれだぁ、前なんだっけ、金ピカ来ただろ?」


「あー、黄金騎士、でしたっけ?」


ダンランドレスさんが頭をふらふらと揺らしながら反応した。


「そうそう、それだ。あれもボウズが倒しちまったんだろ?どうやったんだ?なんか伝説のなんちゃらだったんだろ?」


既に名前すら出てこないらしい。

その中で、一人だけ素面同然の修が返事を返した。


「セイントさんですよね。こうですよ、こう」


修が虚空にデコピンをする。


「デコピンかー?まあボウズならやりかねねぇなぁ…」


ポディさんが焦点の怪しい瞳で修のデコピンを見て呟いた。

正確には見えていないが、デコピンの風圧を感じる。


新たなへべれけ、トニーさんが修に絡んだ。


「温泉とかどうやって掘り当てたんだよ?」


「耳を澄ませば」


修は目を閉じ、両手を耳にあてて呟いた。


「ぶははははははは!!どんな耳だよ!!」


トニーさんが腹を抱えて笑った。

事実ではあるのだが。


「こんな耳です」


修が手を耳から離し、髪を払った。

形の良い耳が覗いた。


「「「ぎゃっはっはっはっはっはっは!!!」」」


おっさん達は大爆笑だ。

もう箸が転んでも笑える状態だ。




大いに盛り上がり、酒代を払った後。


「よぉ~し、お前ら、お楽しみいくかぁ!!」


親方が立ち上がって叫んだ。


「おお!!」「待ってましたぁ!!」「ぃよっしゃ!!」


酔っ払い共も、全員立ち上がった。

数人足取りが怪しかったが、吐く人は居ないようだ。


「お楽しみ?」


何か分からず、修が隣のゴンザレスさんに聞いた。


「おうよ!娼館よしょ・う・か・ん。ボウズもよぉ、いつも同じ相手だとアレだろ?」


ゴンザレスさんは、「ぐひひ」と言いたげな顔で、卑猥なジェスチャーをした。


「は、はぁ・・・」


修はどうしようか悩んだ。


ポーラさんには不満はない。

むしろ開発のしがいがあるくらいだ。

他の女性と、と考えると心惹かれる何かはあるのだが、罪悪感もある。

いつもお相手している相手が居るのに、他の人に手を出すのはちょっと不誠実かもしれない。

いやしかし、ここで一人断るのも場の空気が悪くなってしまうし。

修が、うんうん悩んでいるうちに、親方とダンランドレスさんに肩を掴まれたので、行くことにした。


「よし、いくぞぉ!野郎ども!!」


親方の音頭に、良い年したおっさんたちが叫んだ。


「「「おお~!!」」」


修も混じっていたが。




そして店から一歩出たところで。


「……あんた」


一人のご婦人が居た。

ゴブリン如き、殴り殺せそうな逞しい腕をもったご婦人だ。


「ひっ!?お、お前…!?な、何でここに」


いい感じで真っ赤だった親方の顔が、一瞬で蒼白になった。

親方の嫁さんの、女将さんだった。


「そんなことはどうでも良いのよ…。それよりも、どこにいこうってんだい?」


女将さんは目に危険な眼光を灯しながら、一歩一歩踏みしめる様に親方に近づいて来た。

余りの恐怖に、修とダンランドレスさんは女将さんの視界から逃げた程だ。

二人に逃げられた親方も、そんなことに気付きもせずにじりじりと後ずさりしながら必死に言い訳を考えた。

しかし、良い言い訳が思いつく前に、耳を掴まれた。


「ひぃっ!!ち、ちなうんです!!」


親方は恐怖のあまり、良く分からない言葉を発した。

女将さんはもう何も言わず、親方の耳を引っ張って引きずって行った。


「ひぃぃぃぃぃぃいい!!」


後には、親方の情けない悲鳴だけが残された。




悲鳴が聞こえなくなるまで、おっさん達は口を噤んで突っ立っていた。


「「「…………」」」


あの怒り狂った女将さんに絡まれたどうなるかわかったものではないのだ。

親方と女将さんの気配が消えたことで胸を撫で下ろしたダンランドレスさんが、気を取り直して叫んだ。


「お、俺達だけでもー」


突然の冷たい声に遮られた。


「シュウサマ……」


その声の冷たいこと冷たいこと。

テンションをあげ直そうとしていたダンランドレスさんが口を噤み、冷や汗を流し始めた程だ。

そしてその視線を一心に受けているのは。


「はぅあっ!?……ポ、ポーラさん。き、奇遇ですね?」


修だった。

何故か分からないが、ポーラさんがこの場に現れてしまった。


「そうですね。奇遇ですね。…ところで、娼館がどう、とか聞こえましたが」


ポーラさんはとっても小さな声で話しているのに、全員の耳に良く聞こえて来た。

何と言う地獄耳。

そして全員、ポーラの背後に般若を見て目を逸らした。

逸らすこともできない修が、震える舌を必死に動かした。


「ち、違います!俺は帰ろうとしていました!!違うんです!!」


駄目な亭主そのものの姿だ。

しかし、おっさん達には修を笑うことは出来ない。


「……そうですか。そうですよね。さ、帰りましょうか、シュウ様」


ポーラはうっすらと微笑み、修の手を取った。

とても優しく掴まれたのに、何故か、とても冷たい手だった。


「…………はい」


修は震えながら、大人しく従った。

肩を落としてすごすごと連行されていく修を見つめるおっさん達に、ポーラが振り向いた。


「皆様は、どうぞお好きになさってくださいませ」


とても魅力的な笑顔だった。

背後の般若さえ見えなければ。


「「「…………………………」」」


修はポーラに連行されてしまった。


「…帰るか」


ダンランドレスさんが呟いた。


「おう」


誰も反論しなかった。

キャラクターが一気に増えてしまいました(苦笑

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