94話 格差社会
ポーラさんは、修との迷宮探索は少しだけお休みを貰った。
自分でお肉調達を出来る様になりたいのだ。
ポーラとカファは、一日一層のペースで探索を進めた。
ポーラさんがやる気MAXだったので、カファは楽が出来た。
ヴイドラゴン、アトミックシザー、ブドゥー。
どいつの攻撃もあまり受けるまでも無く、ポーラが抹殺してくれる。
楽してアレを貰える。
カファにとって、実に有意義な迷宮探索だった。
「ーーーッ!!」
そしてポーラにとっても。
26層にたどりついた瞬間、実に晴れやかな顔をした。
これでお肉食べ放題。
最高だ。
お肉をゲットして、いい笑顔をして帰宅した。
その日の夜は、やっぱりお肉祭りだった。
並ぶお肉料理の数々を見て、修が気付いた。
「あ、26層まで行ったんだね」
そして野菜が少ない。
ポーラさんもっと緑色の物もください。
「はい!!」
ポーラは実に良い笑顔で頷いた。
お肉事情は安泰だ。
また修との探索を始めた。
やっぱり26層だったが。
それでもポーラはやっぱりホクホク顔で肉を集めていた。
お肉好きすぎである。
そしてボスと出会った。
----------------------------
LV.26
ボス・レゴタウロス
----------------------------
大きい。
セオリー通りの三倍だ。
「カファ!」
鬼教官の声を聞くと、カファは恐れる様子も見せずに進み出た。
「……」
レゴタウロスも突進してくる。
さすがに激突の瞬間、カファは立ち止まり、腰を落としてどっしりと構えた。
そして激突した。
「……む」
カファは衝撃に押され、かなり後ずさりはしたが、受け切った。
レゴタウロスはその状態から、ぐぐぐとカファを押し込んで来る。
カファも、更に腰を落として押し合いを始めた。
そこを狙って、ポーラがレゴタウロスに襲い掛かった。
動きの止まっている牛など、的でしかない。
「はぁっ!!」
もうやりたい放題し放題である。
レゴタウロスは頭を振り、カファを弾き飛ばそうとするが、カファは踏ん張り続ける。
いや本当に、あの細腕のどこにそれだけの力が込められているのだろうか。
「っ!!」
ポーラの攻撃を受け続け、レゴタウロスは遂にぐらりと後ずさった。
圧力を失ったカファは、お返しとばかりに押し返そうと進み出た。
が、その瞬間、レゴタウロスの体が弾けた。
「えええええええええええええええええええええええええええ?!」
牛の頭が、手足が、モツが。
バラバラになって空中に浮いている。
「なっ!?」
ポーラさんも目を剥いた。
バラバラになったレゴタウロスの部位が、ポーラとカファに襲い掛かった。
とんだサイコミュ攻撃である。
「むっ!!」
ポーラは慌ててカファと背中を合わせた。
お互いが互いの背中をカバーしている。
盾で防ぐカファは良いのだが、全部撃ち落しているポーラは凄まじい。
しかしレゴタウロスさん、モツを直接斬られて痛くないのだろうか。
修がそう心配したが、やはりとっても良いダメージが入っていたようだ。
突然浮いていた部位が停止し、地面に落ちた。
「……」
しかも、落ちた部位がそのままアイテムになっていた。
牛一頭分だ。
しかし猛烈に食べる気を無くす。
修達は、ボスの肉は火葬しておいた。
宙に浮き、襲い掛かって来た肉をそのまま食べたくは無かった。
何かの拍子でまた襲われたら食事が台無しになってしまう。
修はある日、土木作業員の、The・おっさん会に誘われた。
おっさん人口100%の、むくつけき野郎どものどんちゃん騒ぎである。
修は、ほいほいとつられて参加しに行った。
女が居ないと聞いて、ポーラさんも笑顔で送り出してくれた。
道中で、マテナと出会った。
「シュウ様!」
マテナが顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「お久しぶり。マテナちゃん」
修は近所の子供を見る顔で挨拶した。
やはり、ロリコンではないのだ。
マテナの胸囲では、ポーラの圧倒的戦闘力を越えることは出来ない。
恐らく、永遠に。
「はい。お久しぶりです…」
しかしマテナは頬を染めて修を見つめていた。
ファウスの洗脳が実を結んだようだ。
その顔には、確かな恥じらいがあった。
「お散歩かな?」
近所の優しい修お兄さんが保護者の顔で微笑んだ。
「は、はい!私も、もう12になりましたので、一人での外出もようやく…」
12歳のお偉いさんの身内の娘が、一人で出歩くなど珍しい。
そう思って修が辺りを窺ったが、SPっぽい人たちの気配をそこかしこに感じた。
マテナは初めてのお散歩気分だったが、大人は汚いのである。
「そっかー」
修お兄さんは、マテナの頭を良い子良い子してあげた。
マテナ嬉しそうだ。
所詮子供よ。
「あ、あの!」
撫でられて「えへへ」と微笑んでいたマテナが、意を決した顔で修を見上げた。
「うん?」
見上げられた修はニコニコ顔だ。
「今お時間は如何でしょうか?もしよければ、この辺りの紹介をして頂ければ…」
マテナは雌の顔をしていた!
ポーラが居たら警戒心爆上げ待ったなしだっただろう。
そして本来止めるべきSP達も、裏ではガッツポーズだ。
「ごめんね、今日は御呼ばれしてて」
しかし、修お兄さんにとっては、先約が大事だ。
おっさん達と集い、馬鹿話をしながら朝まで飲み明かすのだ。
おこちゃまの立ち入れる雰囲気では無い。
「そ、そうですか…」
マテナがしょんぼりしてしまった。
「それに、俺もあんまり詳しくないんだよね~。あ、ポーラなら詳しいよ。今度お願いしておこうか?」
修は乙女心など露知らず、あっさり違う女の名前まで出した。
修は刻々と、要らぬフラグを立てていく。
マテナがこっそり不機嫌な顔になった。
「い、いえ。だ、大丈夫です」
マテナは当然の如く断った。
そしてポーラを思い出す。
美人だ。
美人ではあるが、あの顔とは将来、いい勝負が出来るだろう。
ポーラは強気な顔なので、お淑やか系で攻めれば良い。
しかし、あの圧倒的な戦闘力を誇る胸には…。
マテナは家系を思い出し、誰一人ポーラの胸囲に敵う者が居ないことを悟り、密かに絶望した。
「そう?あ、じゃあ時間だから、またね」
修はいそいそと去って行ってしまった。
「は、はい。また!」
マテナはそれを見送った後、自分の胸を見て深いため息を吐いた。
胸囲の格差社会




