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その拳にご注意を  作者: ろうろう
95/136

93話 お肉

26階層に来た。

迷宮の中なのに、草原が広がっていた。

陽の光は無いのに何故かポカポカとした陽気を感じ、実にのどかな雰囲気を感じる。


「昼寝したい気分だねぇ」


迷宮とは思えぬ雰囲気に、修はまったりと呟いた。

いい夢が見れそうだ。


「そうですね」


ポーラも微笑みを浮かべた。

ポーラの頭の中では、昼寝する修に寄り添って寝る自分の姿が浮かんでいた。

考えれば考える程良い物だった。

今度、のどかな所でお昼寝も催促してみようと思った。


「……」


そしてカファはいつでも昼寝したい。


そんな雰囲気でも、迷宮は迷宮である。

魔物に出会った。


「む……?」


牛だ。

牛であることは間違いはない。

ちゃんと四足歩行もして、草を食んでいる。

しかし、生き物とは思えぬほど鋭角的だ。

何と言うか、四角形を組み合わせて作り上げたような生き物だった。


「レゴタウロスです!」


ポーラが嬉しそうに言った。

美味しいのだろうか。

見た目は多少アレだが、拒否反応を示すほどでもない。

牛肉は牛肉だし。


----------------------------


LV.26

レゴタウロス


----------------------------


こちらに気付いたレゴタウロスが、食事を止めた。

中々気の強そうな顔を浮かべて、こちらに向けて突進して来た。

カクカクな分、ぶつかられたらとっても痛そうだ。


「ファイアランス!!」


修の手から火の槍が飛んだ。

突進中のレゴタウロスは慌ててブレーキをかけていたが、間に合わずに直撃した。

そしてめらめらと燃え始める。


「こ、これは!!」


修が呻いた。

焼肉の匂いが広がり始めた。

「きゅるる~」と腹が鳴った。

ポーラの。


修が思わずポーラを見ると、ポーラは顔を真っ赤にして顔を背けた。

ポーラはお腹を押さえつけていた。

気持ちはわかる。


レゴタウロスは燃え尽きた。

すると、バラバラになった肉が転がっていた。


「!?」


精肉済みだった。

しかも部位が分かれている。

タンとかカルビとかハツとか。

一匹なのに、三種類も落とした。


「色々な肉を落とすのです」


ポーラが教えてくれた。


もう一匹修が倒したら、ロースとかミノとかサガリとか出て来た。

今夜は焼肉決定だ。




レゴタウロスの突進を、カファが受け止めた。

ガゴギーン!と大きな音が鳴り、カファの足が地面にめり込んだ。

レベルも中々に高いこともあり、突進の威力は高かった。


しかし、パワータイプのカファにとっては楽な相手だ。

構えて、防ぎ切れば良い。

むしろシノビキャットの様にうろちょろと動き回る相手の方が苦手だ。

考えないといけなくなるので。


「はっ!!」


ポーラがレゴタウロスに斬りつけた。

動きが単調な分体力は高いようで、即死はしない。

しかしカファが正面を押さえている限り、ポーラが苦戦するなどありえない。

サクサクと剣を叩き込んで、お肉へと変化させていた。

骨付き肉まで出て来た。


時間が経つにつれ、ポーラのお腹が悲鳴をあげ始めつつある。

二人分のリュックがいっぱいになった時には、ポーラの目に「お肉」と書いてあった。

昼飯から肉尽くしかもしれない。

野菜もリクエストしておかねば。


食材をいっぱい落とす為、すぐにリュックがいっぱいになった。

ポーラはホクホク顔だ。

これはボス部屋までに、数日必要になるだろう。


「食べる分だけ残しておこうか」


と修が言えば、


「はい!」


と元気よく返事したポーラは、一つも売らなかった。

恐ろしい娘だ。




肉は美味しかった。

マジで美味しかった。

ポーラさんがあんまり野菜を買ってくれなかったので肉まみれだったが、気にならないくらいだ。

ポーラも非常に満足そうな顔だった。

問題は、お昼だけですべての肉を食い尽くしてしまったということだ。


「ポーラ、どうする?」


訓練する?と言う意味で修が問いかけたが、ポーラは申し訳なさそうに首を振った。


「いえ、少しお休みを頂きたいと…」


ポーラにも何か用事があるのだろう。


「うん、大丈夫だよ。じゃあ俺はお仕事手伝ってこようかなー」


修は笑顔で頷くと、土木作業員さん達のお仕事の手伝いに向かった。

スーパー重機・修、出動。

ちなみにおっさん達には歓声を持って迎えられている。


「はい。行ってらっしゃいませ」


ポーラは玄関まで修を見送って、完璧な微笑みを浮かべて見送った。

通りすがりの人が見惚れるような微笑みだった。

修が視界から消えると、ポーラの顔が一瞬で引き締まった。

そして家の中に戻る。


「……」


ちょうどカファが、もそもそと自分の部屋に向かって歩き始めているところだった。

実にだるそうな足取りだ。


「カファ」


ポーラ声をかけた。


「……?」


カファは実にゆっくりとポーラの顔を見た。


「迷宮に行きますよ」


ポーラは、カファの肩をがっちりと捕まえて引きずり始めた。

装備の置いてある部屋に一直線だ。


「……え」


今日は休みではないのか、とカファがショックを受けていた。


「さあ準備なさい。アレを買ってあげますから」


ポーラが魔法の言葉を吐いた瞬間、引きずられていたカファはいそいそと歩き始めた。


「…はい」


現金な木人だった。




「さあ昇りますよ!」


ポーラとカファだけで行けるのは、23層までだ。

ヴイドラゴンと出会わなければならないのに、ポーラは実にやる気だ。


「目指せ、26層です!」


ポーラは肉の魅力に取りつかれていただけだった。

美味しいお肉がただで手に入る。

ポーラには、26層は夢の楽園だった。




そんな折、探索者風のおっさん達が声をかけて来た。


「おいおい、お嬢ちゃんたち二人か?危ないぜ?」


心配三分の一、残りが下卑た期待、といった所だろう。

ポーラの瞳が一気に冷えた。

鎧で覆っているとはいえ、こういう視線を胸に受けるのは気に食わない。


「いえ、要りません。さあ行きますよ、カファ」


ポーラはあっさりと男達に背を向けた。


「はい」


既にアレを貰ったカファはやる気満々だった。

帰ってからもらえるらしいのだ。

実にやる気に満ち溢れている。


あっさり断られたおっさん達は慌てた。

多少格好いいところを見せ、あわよくばと言う期待があったのだ。


「ちょっ、ちょっと待てって!俺達が優しく教えてー」


ポーラがぐるりと振り向いて、おっさんの目を見た。

冷たい冷たい視線に晒されたおっさん達が、凍った。


「失礼ですが、貴方達は何層まで行っていますか?私たちは23層ですが」


「にっ、にじゅっ?!」


おっさん達は16層までだ。

攻撃的すぎるラッコのに苦労している。

これ以上話しかけてこないと判断したポーラが、今度こそ背を向け、さっさと歩き出した。


「……行きますよ、カファ」


カファは男達をちらりとも見ず、ポーラについて行った。

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