92話 クラーケン
25層に来た。
そして出会った魔物を見て、修は黙った。
「……」
『あ、これは無理だわ』と言う目をしていた。
「ブドゥーです」
ポーラ先生が教えてくれた。
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LV.25
ブドゥー
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以前ポーラが教えてくれた通りの外見だった。
巨峰どころではない巨大な葡萄があった。
無数にある葡萄の実の間から、なんかおっさんの足が突き出て、ぺたぺたと地面を歩いている。
止めに、その実の全てに眼球があった。
子供が見たら、三日は一人でおしっこに行けなくなること間違いなしだ。
食べたい等と、欠片も思わない。
「ファイアランス!!」
炎の槍を放ってみた。
一つの実に突き刺さり、紫色の液体を噴き出した。
更に、そこから燃え広がった。
「毒です!お気を付け下さい!」
ポーラが叫んで来た。
あの液体は毒なのだろう。
もう見るからにどろっとしていて、ヤバい雰囲気丸出しだ。
「うん…」
修は状態異常とか効かない。
しかしそれでも、あんなもん触りたくはない。
地面に落ちたのが、シュウシュウと音を立ててまでいる。
酸じゃないのか?
修がそう考えているうちに、ブドゥーに着火した炎が、次々と侵食を広げる。
炎に焙られた実が、ぶぢゅっ!ぼんっ!と破裂して液体を振りまいて行く。
すごいグロイ展開だった。
「うわぁ…」
修が思わず呻いた。
燃えた毒の匂いか、周囲にはツンとした刺激臭が漂ってきた。
「ぅ…」
匂いには敏感なポーラが鼻を押さえた。
毒を喰らったのかと心配したが、そういう訳でもないそうだ。
ただただ、この臭いに苦しんでいた。
ちなみにカファは平気な顔をしていた。
ブドゥーに魔法を使うことは止めた。
衝撃を与えると、実が破裂して毒を撒き散らすのだ。
何と言う神風戦法。
実際、それくらいしかしてこないそうだ。
よって、一つ一つ実を斬りおとしていくのが通常のセオリーらしい。
正面は盾役のカファが受け持てば、後はひたすらポーラが斬りおとしていく。
メテオドラゴンの剣だと燃えてしまい、破裂してしまうので、ミラードラゴンの剣だけだ。
ボス・ブドゥーも変わらなかった。
大きくなり、実の数が増え、時々不規則に動く程度だ。
ポーラとカファの敵ではなかった。
そんな訳で、25層は楽々と踏破した。
ちなみに、ブドゥーはポコナの実を落とした。
が、アレと似たものをすぐに食べたくはならないので、全て売った。
その日の夜。
修はまた不思議空間で意識を覚醒させた。
何だか久々な気がする。
「お久しぶりですね。修さん」
神が居た。
神々しい全裸だった。
カファみたいに、性別の無い体が修の視線を迎えた。
神は不思議空間で、シャワーを浴びていた。
何かむやみやたらに神々しい植物が伸び、まさしくシャワーの様にお湯を流していたのだ。
弾け飛ぶ飛沫すらも美しい。
これぞ、ゴッドシャワー。
「ちょ、それ俺も!」
修も懐かしきシャワーの誘惑に叫んだ、
神が突然シャワーを浴びていても、突っ込み話だ。
「ふふ。分かっていますとも」
神がゴッドスマイルを浮かべると、修の足元からも、にょきにょきと植物が伸びて来た。
「うおおおおお!久しぶりだー!!」
修は躊躇いも無く裸になり、喜んで浴びた。
神はダチだと思っているのだ。
神は過労死しそうになりながらも修の削った空間を治した後、恍惚とした顔をして温泉に浸かる修を見て自分も、と言う欲望にかられたのだ。
そこから神は、ご機嫌な様子でゴッドジャグジー、ゴッドサウナを作り出した。
何でもゴッドをつければいいと思っているのではないだろうか。
しかし修は、喜んでその恩恵に預かった。
グーパンだけでは、手に入らないものもあるのだ。
ゴッドサウナで二人並んで汗を流しながら、雑談をしていた。
神は、汗すらもキラキラと輝いて神々しかったことだけは追記しておく。
「修さんの世界の話を聞かせて下さいよ」
だいぶ詳しいくせに、そう聞いた。
神が知りたいのは、修が出会った不思議生物たちの事だったのだ。
「う~ん、あれは16歳の時…」
修は過去を思い出した。
その日、修は嵐の中、海の上を走っていた。
走っているだけではない。
その修を追う様に、巨大な背びれが着いて来ていた。
修はその時、またしてもメガロドン的な何かと戦っていた。
風と雨と雷が降り注ぐ中、二人の戦いは続いた。
とはいっても、修は余裕の表情だ。
もはやメガロドン的な何かなど、敵ではない。
それだけの実力差はあった。
メガロドン的な何かも、修との力の差は理解していた。
だというのに、王者の誇りか、逃げ出すことなく、果敢に修に襲い掛かっていた。
その心意気や良し、せめて痛みを知らずに安らかに死なせようと決意した時。
突如、海の底から巨大な何かが突き出て来た。
「!?」
それはイカの足の様にも見えた。
しかしでかい。
でかすぎる。
イカの足の一本が、メガロドン的な何かをあっさりと捕えると、海の底へと引きずり込んだ。
同時に修にも巻き付いたが、
「ぬん!!」
修が全身に力を込め、その足を引き千切って脱出した。
そして海面に着地する。
修は足元を見た。
荒れ狂う海の底に、巨大な巨大な影があった。
「…!!」
修は大きく息を吸い込むと、海面に潜った。
そこに居たのは、巨大な巨大なイカだった。
既にメガロドン的な何かの体の半分が食いちぎられている。
ばかりか、タンカーすらも足で捕えている。
それほどの大きさのイカだった。
(!!)
修は、男と男の勝負に水を差したそのイカを許すことは出来なかった。
海の中を走り、クラーケンに殴り掛かった。
しかし、幾ら修とはいえども水の中。
地上ほどの速度は出なかった。
逆に地の利があるイカは、先ほど修に足を一本引き千切られたこともあり、修から距離を取る。
絶妙な距離を保ちつつ、足で持ったタンカーや、海底から引っこ抜いた岩石で修の体を叩きに来た。
決して、足が捕まる愚は犯さない。
修は悉くそれを撃ち落とす。
二人は、どんどんと深くまで潜って行く。
イカが誘い込んでいるのだ。
息はこのままでも半日は持つが、このままでは埒が明かない。
そう思った修は、必殺技を使うことを決意した。
幸いにしてここは海の奥。
他に被害は起きるまい。
修は両手を大きく広げた。
そして猛烈な速度で手を合わせ始めた。
正確には、手は重ね合わせてはいない。
間に空間は開けてある。
それを、様々な角度から。
猛烈な速度で行い続けた。
そして最後に修の手が重ねられた時、修の手の中には圧縮され尽くした海水があった。
修はそれを解き放った。
巨大な水の塊を手の平サイズに圧縮し、それを解放することで大爆発を起こす荒業だ。
肉球など必要ないとばかりに作り出したのだ。
水深500Mで衝撃波が発生した。
海面を荒らす嵐など、比べ物にならない。
衝撃波が修とクラーケンを襲った。
しかし、修はその衝撃破をあっさりと耐えきった。
そしてクラーケンを見る。
クラーケンは、全身に衝撃波を浴びて動きを止めていた。
修は全身が痺れているクラーケンに、水中を駆けて近寄り、自分の体よりも何倍もでかい足を掴んだ。
(ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!)
修は水中でジャイアントスイングを繰り出した。
自分よりも、何千、何万倍も重いはずのイカを振り回す。
あっという間に渦巻きが出来た。
渦巻きは刻一刻と規模を増していく。
そして、修の体が海から出た時。
「ぜいっ!!!」
全力で上空に投擲した。
イカは、空の彼方にぶっ飛んだ。
修は更に、空中を駆けて追撃に走った。
空中で辛うじて体の自由を取り戻したイカは、死に物狂いで修を迎え撃った。
その足の全て砕き、修がイカの胴体に肉薄した。
「セリャアアァァッ!!!」
渾身のアッパーカットがイカに突き刺さった。
イカの巨体が跡形も残さず弾け飛び、天が割れた。
射し込む陽を感じながら、修が海に向けて落下した。
そんな中、修は冥福した。
敵は討ったぞ、友よ。
「…ってことがあったねぇ」
話しの途中でゴッドジャグジーに移動して、まったりと泡に体をくすぐられる修がのんびりと呟いた。
「……なるほど」
神は頷いた。
実は神は、新しいアニマルを作る気満々だった。
喉元過ぎれば何とやら。
全く懲りていない。
殴られるのは未来の自分で、今日の自分ではないのだ。
そんなことを考えているのだ。
神は本当に駄目な神だった。




