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その拳にご注意を  作者: ろうろう
92/136

90話 大人の階段

可及的速やかにボスを始末し、この階層を離脱しなければならない。

修とカファの心は今、一つになったのだ。

ポーラは『ハイレグ』を燃やしてはいるが、八つ当たりはされていない。

しかし、いつどうなるかは分からない。

修とカファはビクビクしながら先に進んだ。


そして、ボスを発見した。


----------------------------


LV.23

ボス・ヴイドラゴン


----------------------------


変態だ。

変態である。


(よし!!)


しかし、修は心の中でガッツポーズを取った。

変態だろうがどうでも良い。

サーチアンドデストロイである。

例えそれが、やけにセクスィーな肢体となったヴイドラゴンでも。

何故か股間の膨らみを無くし、尻と胸が膨らんでいる。

手足も白く細く、腰にくびれまで生まれている。

体だけは女性的だ。

そして身に着けているのは、愛変わらずのVライン。

色は水色だ。


「……あれ?」


修が何かに気付きかけた。

アレを見ているとムズムズする。

そう、つい先日どこかで見た様な…。


修の頭の中で、昨夜見たポーラの姿と、目の前のヴイドラゴンが近づいて行く。

水着の色と、ヴイドラゴンがボン!キュ!ボン!なのが不味かった。

それを、ポーラは超直感的な何かで理解した。


(不味い!!)


「シュウ様!!見てはなりません!!」


ポーラは修に飛びついた。

慌てたポーラは指を二本、ぶすりと修の目玉に突き刺した。


「ぎょええええええええっ?!」


修は素晴らしい反射神経を発揮して、瞼でポーラの目潰しを防いだ。

とんでもない瞼だ。

しかしそれでも、ポーラの指が修の目を奪おうとガッツンガッツンと突き込んで来る。

実に恐ろしい。


「き、危険です!!あれは危険です!!シュウ様は見てはなりません!!」


ポーラは必死に叫びながら、執拗に修の瞳を潰そうとして来る。

完全に錯乱している。


「分かった!!見ない!!見ないから!!」


修は悲鳴をあげた。

敵ならまだしも、味方に眼を潰されるのは勘弁してほしい。

修は部屋の隅っこで丸くなり、両手で顔を覆うことで難を逃れた。


そしてそんな大騒ぎをしていて、気付かれない訳がない。

ボス・ヴイドラゴンは、やけに尻をぷりんぷりんと振りながら接近して来た。

修とポーラが見ていれば、気分を害していたであろう間違いなしの歩き方だ。

しかし、見ていたのはカファだけだ。

ポーラの側よりも、ボス・ヴイドラゴンの側の方が安全だと冷静に判断したカファは、自ら駆け寄った。

そしてポーラの間合いから遠く離れ、しかも真面目に戦っている。

これならば文句のつけようも無い、完全な逃避だ。




そしてカファが攻撃を防ぎ続けていると、何度も何度も修がこちらを見ていないことを確認しながら、ポーラが現れた。


「迅速に抹殺しますよ……」


ポーラがぼそりとカファの耳元で呟いた。


「はい」


カファは実に素早い返事を返した。

そしてカファがボス・ヴイドラゴンの正面に立ち、ポーラが後ろに回る。

ヴイドラゴンが振り向こうとすればポーラは離れ、カファが盾で体当たりを仕掛け、注意をひきつける。

そしてまたポーラが後ろから攻撃を開始する。


リンチの正しい姿である。


修は結局、ボス・ヴイドラゴンの最後の姿を見ることは無かった。

ちなみにドロップは、全て色違いの水着だった。

カラフル!

そしてすべて灰になった。

三人で24層へ向かい、帰還した。




ポーラさんの精神状態を、一刻も早く納めなければならない。

修はムツゴ○ウさんが憑依したかのごとく、「よーしよしよしよし」と撫でまわした。

そのおかげで、ポーラの精神は持ち直した。

ようやく一安心である。

ポーラも正気に返ると、どえらいことをしたをしたことを思い出した。

仕切りに謝って来るポーラに安心しながら許した。




ポーラが腕によりをかけて料理をしてくれるそうなので、夕食までの間、修は外をぶらついた。

家にいると、あの匂いに誘われてしまうのだ。


すると久々の人に出会った。


「やあ、シュウ君」


ジェイアスだ。

PTを引き連れてぞろぞろと歩いて来た。


「あ、お久しぶりです」


修は行儀良く頭を下げた。

年長者には礼を尽くせと、人生の師・ツチノコさんにも教えられたのだ。

ちなみに血の通ったジジイは教えてくれなかった。


「うん。久しぶりだね。色々噂は聞いているよ。君は本当に強いんだね」


ジェイアスは実に気安げに話しかけて来た。

大人だ。

どこかサムハンと被る気がする。

しかし他のPTメンバーの修を見る目は様々だ。

特に、以前睨んでいた魔法使いの女は悔しそうだ。

負けん気が強いのだろう。


修はその視線を華麗にスルーして、ジェイアスの腰にある剣を見て言った。

魔法使いの女よりも、修の方がよっぽど大人である。


「あ、武器新調したんですか?」


するとジェイアスは嬉しそうに笑った。

ミスリルの剣が腰に吊ってあるのだ。


「ああ。みんながプレゼントしてくれたんだ。良い仲間達を持ったよ。その分、頑張らないとね」


笑いながらも、気合を込めてやる気を溢れさせている。

修にも気持ちはわかる。


「ですねぇ」


修もうんうんと頷いた。


「うん。ところで時間はあるかな?もしよければ、また手合せをお願いしたいんだけど」


ジェイアスはやる気を称えたまま修に聞いて来た。

顔には微かに自身が溢れている。

後ろのPTメンバーたちも同様だ。

よっぽど頑張っていたのだろう。


「大丈夫ですよ」


修も丁度暇だったので、快く快諾した。


「そうか!じゃあ是非ともお願いするよ」


「はい」


修はジェイアスに誘われるままに着いて行った。




修とジェイアスは向かい合っていた。

ジェイアスは抜刀していた。

修が「どうぞどうぞ」と進めると、ジェイアスは剣を抜いたのだ。


「行くよ、シュウ君!」


ジェイアスが構え、叫んだ。


「はい、いつでも」


修はいつも通り、構えもせずにぶらりと両手を提げていた。

魔法使いの女は不快そうに修を見ていた。

舐めていると考えているのだろうが、実力的にはこんなものだ。


「はぁ!!」


ジェイアスは虚空を切り裂いた。

その瞬間、斬線が修に向かって飛んで来た。


「おお!?」


修が驚きながら、デコピンで迎撃した。

ポーラのメテオドラゴンの剣の、炎が無い番だ。

威力も数段落ちるが、普通に考えれば非常に有用だろう。


「……飛んできましたね」


修が感心したように呟いた。


「……あっさり防がれたけどね」


ジェイアスは頬が引き攣っていた。

ジェイアスのPTメンバーも硬直している。


修はジェイアスの剣を鑑定してみた。

ただのミスリルの剣だと思っていて、鑑定しなかったのだが。


『ミスリルソード』

『衝撃のシルクパンツ』


「?!」


修が衝撃に震えた。

何故二つ出たし。

もう一度鑑定した。


『ミスリルソード』

『衝撃のシルクパンツ』


変わらなかった。

修は目を凝らしてミスリルソードを見た。

シルクパンツなど無かった。

いや、よく見れば。

柄だ。

柄が普通より膨らんでいる気がする。

包帯の様な布で滑り止めにしているが、その下にはまさか…。


「まだまだいくよ!」


修が愕然として震えていると、ジェイアスが叫んで駆けて来た。


「…え?あ、はい……」


修は心ここにあらずと言った風体で呟いた。

そんな状態でも、ジェイアスの攻撃は全て叩き落した。

止めにデコピンを叩き込んでやると、ジェイアスはもんどりうってぶっ倒れた。


そこから色々あり、ジェイアスのPTが一人ずつ参戦していった。

そして最後には、フルメンバーで修に向かってきた。

全てデコピンで撃ち落とした。


数分後には死屍累々だ。

特に、全ての魔法をデコピンで消し飛ばされた魔法使いはorzしている。

「嘘よそんな訳ない何かの間違いよこれは」とか呟いていた。

知らんがな。




全員がグロッキーになっていたので、ある程度回復するまでは修は付き添った。


「……強いな。いや、強いのは知っていたけど、ここまでとは……」


ジェイアスがショックを受けた顔で呟いていた。

ある程度は食い下がれると考えていたが、そんなことなかった。


「…はぁ。あの、その剣なんですけど」


修はそれよりなにより、剣の事が気になった。

いや、剣ではなくパンツのことだ。


「…ん?ああ、衝撃波だよ。こんな良い装備を貰えたんだ。頑張ってみたんだけどね…」


しかしジェイアスは何も知らないようだ。

修が目を凝らして見ると、布の間からシルクの何かが覗いていた。

ビンゴだ。

しかし、知らなければ気付かないのかもしれない。


「あの…」


教えてあげるべきか否か。


「ん?なんだい?」


しかし知ったらどうなるのだろうか。

人の好さそうなジェイアスは、羞恥と苦悩に挟まれて使い続けるかもしれない。

逆に手放しても、PTとの仲が険悪になるかもしれない。

修は苦悩した。

ここ一年で一番悩んだ。

その結果。


「……なんでも、ないです」


知らなかったことにした。

一体PTメンバーのだれがこんな恐ろしいことをしたのかは気にはなったが、それも気にしないことにする。

触らぬ神に祟りなしだ。




「また手合せをしてくれ」


と言って来るジェイアスに頷き、修は帰った。

また一つ大人になってしまったのだ。

また頭のおかしいことをしてしまった…

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