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その拳にご注意を  作者: ろうろう
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89話 悪鬼羅刹の如く

ポーラとカファの訓練が終わった。

修と同じ階層まで辿り着いたのだ。


修はおっさん達に惜しまれながらも、探索者のお仕事に戻ることになった。

満を持しての23層だ。


少し歩くと、魔物の気配を感じた。


「「「……」」」


----------------------------


LV.23

ヴイドラゴン


----------------------------


なんと、ドラゴンである。

体長は2メートル程。

コモドドゴンが二足歩行していると考えてもらえれば良い。

盾と剣を持ち、リザードマンと言った風体だった。

そして何故か、女性用のハイレグ水着を着ている。

とても際どいライン。

Vラインだ。

きっと名前のヴイはそういう意味なのだ。

止めとばかりに、股間部分は不自然にモッコリと膨れていた。

そう、そこに居たのは、まごう事なき変態だった。


変態枠の魔物が追加されてしまった。

修とカファが表情を変えずにヴイドラゴンを見ていると、二人の間からギリリと何かが軋む音が聞こえて来た。


「「?!」」


ポーラだった。

歯を食いしばっている。

その余りの形相に、修とカファがポーラから距離を取った。


ポーラは美人である。

少しきつめの眉だが、修を見るときはトロリと下がって絶妙な可愛らしさを醸し出す。

その目が、悪鬼の如く吊り上がっていた。


理由があった。

ヴイドラゴンが装着している女性型の水着。

それは、ポーラが持っている物と同じデザインだった。

むしろ、昨晩着た。

そして大いに盛り上がったのだ。

「良く似合っているよ、ポーラ」とか言われて、とても嬉しかった記憶もある。

心に深く刻み込んだほどだ。


ポーラは帰宅後、即刻破棄することを決意して駆け出した。


ります!!」


もはや修には止める術は無い。

ポーラが殺意を振りまきながら、ヴイドラゴンに突進した。




ヴイドラゴンはふざけた見た目だったが、戦い方は実に真面目だった。

まず盾を前面に構え、剣を持つ手を引いた。

ポーラの剣を受け止め、反撃しようとしているのだ。


「しぃっ!!」


怒髪天のポーラの斬撃が繰り出された。

余りの速度に、タイミング良く受け止めようとしたヴイドラゴンの体勢は整っていなかった。

ずんばらり、と盾がまっぷつに叩き斬られた。

ばかりか、炎の斬線がヴイドラゴンの体を焼き始めた。

水着はあっという間に燃え尽きた。

その水着の下はつるっとしたもので、何故水着を着ていたのか問いかけたくなる。


燃え盛り、苦しみながらも、ヴイドラゴンは残った剣をポーラに振るった。


「ふっ!!」


裂帛の気合と共に、ポーラが左手の剣を振った。

振られてくる剣の横っ腹に、ミラードラゴンの剣が叩き込まれる。

ヴイドラゴンの剣が、半ばからへし折れた。


「死ねぇぇぇぇぇぇえええ!!!」


後はポーラさんオンタイム。

鬼神の如く勢いで、ヴイドラゴンを抹殺した。




そしてドロップアイテムは『ハイレグ』だった。

ポーラは、これを買ってしまったのだ。


「あああああああああああああああああ!!!」


ポーラはハイレグを切り裂いていた。

アレの着ていた物と、同じものを着てしまったのだ。

飢えた一匹の狼が、確かにそこに居た。


修はその様子に、怯えて震えていた。




「フー!フー!」と荒い息を吐いていたポーラが、「ふー、ふー」と多少落ち着いた呼吸になったのを見計らって、修が切り出した。


「き、気を取り直して、次に行こうか…?」


疑問形だった。

ポーラさんが怖いのだ。


「…………はい」


地獄の底から響くような声だった。

修はそっと、ポーラから目を逸らした。

カファは口を噤んでいた。

賢い。



二体目と遭遇した。


「じゃ、じゃあ俺が行くよ?」


修が下手に話しかけた。


「……どうぞ」


おどろおどろしい声が返ってきた。

実に恐ろしい。


「……」


カファは相変わらず、ポーラから距離を取っている。



修はヴイドラゴンと向かい合った。

見れば見る程に変態だ。

しかし、ポーラと同じデザインの水着であることには気づいていなかった。

イメージが違いすぎるのだ。


修は考える。

火は結構耐えていた。

水はとても嫌だ。

ならばとばかりに、修は手を向けた。


「サンダーランス!!」


雷の槍がヴイドラゴンに向かって飛んでいく。

ヴイドラゴンは盾を構えてそれを受け止めた。

その瞬間、修は確かに見た。

金属で出来ている盾は、槍の雷撃をあっさりと体に送り込んだ。

ヴイドラゴンの骨が見えた。

ギャグマンガではあるまいか。

全身からしゅうしゅうと煙を立てて、ヴイドラゴンが倒れ伏した。

死んだのだ。


「……いい気味です」


ポーラがぼそりと呟いた。

実に恐ろしい。

ツカツカと『ハイレグ』に歩み寄り、忌々しげに掴み上げた。

何故か、先ほどヴイドラゴンが履いていた物とは違う色だ。

水色だ。

ポーラが着ていた物と、全く同じ色である。


「……」


ポーラはそれを握りしめながら、ちらりと修を見た。

目が、『モヤシマスヨ?』と言っていた。

修は抵抗もせずに頷いた。

マジでコエー。

やはりあっさりと燃やされた。




次のヴイドラゴンと遭遇したところで、修がポーラに話しかけた。


「カファと一緒に戦いますか?」


完全に敬語だった。

今日のポーラさんは過去最高に怖いのだ。


「……そうですね」


ポーラはぼそりと呟いて、胡乱な目でカファを見た。


「……」


カファは、実に迅速に走り出した。

飛び火は勘弁だった。

ヴイドラゴンはカファに剣を振り降ろす。カファは平気な顔で、しかし後ろから感じるプレッシャーに恐怖を覚えながらも、ガギーンガギーンと音を鳴らして攻撃を防いだ。


「くぅたばれえええええええええ!!!」


そしてカファの背中から飛び出したポーラが、恐ろしい勢いでヴイドラゴンに襲い掛かった。

その形相の恐ろしいこと恐ろしいこと。

最早どちらが敵なのか分からなくなりそうだった。


「ひぃぃぃ!!」


思わず、見ている修が悲鳴をあげた程だった。

子供が見たら、おしっこを漏らしそうだ。

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