85話 説教
アニマルの案を幾つも頂きました。
ありがとうございます。
そしてまた頭のおかしいこと始めます。
温泉が噴き出た。
テンションを上げまくった修が、多少冷静になって温度を確かめた。
「……むむぅ」
どう考えても熱すぎる。
一般人なら全身やけどでさよならしそうな温度だった。
修は取りあえず、その辺から10M位の岩をもってきて、噴き出し続ける熱湯を塞いでおいた。
そして近く(10Km)にある川から水を引いて来ることにした。
ドラドラ言いながら腕を振る作業だけなので、手が汚れることも無い。
実に楽な作業だ。
いい感じで水を引けたところで、修は街に帰った。
そして喜び勇んで、カマンに話を持ち掛けに行った。
「本当ですか?!」
カマンの声が裏返った。
半信半疑と言った顔だったが、修の無茶苦茶ぶりを知っているカマンは、自ら修に連れられて温泉予定地に足を運んだ。
修がひょいっと巨大な岩を持ち上げた時には目を見開いていたが、噴き出す熱湯と、近場まで引かれる水を見て唸り始めた。
「これで温泉作れませんか?」
修が期待に輝く瞳で聞いた。
別にこのままでも入れるが、自慢したい19歳。
「むむむ……。行ける。行けますな!」
うなっていたカマンが、頭の中の皮算用を終えて叫んだ。
既に目が$マークになりつつある。
一攫千金の予感に、カマンもテンションが上がる。
修と知り合って本当に良かったと、心から思った。
「おお!ぜひお願いします!」
修が手を伸ばすと、カマンはがっちりと修の手を掴んだ。
「お任せ下さい!まずはここに宿を・・・」
早速とばかりに、温泉用の宿を考え始めた。
これでしばらくしたら、温泉に入れるだろう。
掘り当てた権利として、優先的に入れてもらえないだろうかと期待ageだ。
修とカマンは小躍りしながら帰った。
ちゃんと手刀で作り出した看板で、『シュウのお湯です』と書いておいたので安心だ。
そんなおこちゃまの様な看板でも、近場で修に喧嘩を売ろうと考える命知らずは居ないだろう。
翌日から、カマンは早速建築作業を進めていた。
ポーラとカファも順調な様だ。
まあレベルの問題もあるが。
回復薬的な物はたっぷりと持たせているし、まだまだ下層なので心配は無い。
今日も、迷宮でボスとじっくり戦ってきたそうだ。
カファも、修やポーラとの訓練ではなく安心していた。
段々とカファの瞳が荒んできている気がしないでもないが。
荒んだ心に、武器は危険なのだが、カファは武器を持っていないので安心だ。
そしてその日の夜。
修が目を覚ますと、ポーラが居なかった。
抱き枕の様にポーラを抱こうとした手が、空を切ったところで目を覚ましたのだ。
「……」
顔をあげると、案の定不思議空間だった。
キョロキョロと辺りを見回すと、神が居た。
何故か、とても疲れた顔でゲッソリしている。
「久しぶりー?」
修が気軽に挨拶をした。
もうただの友人扱いである。
「…お久しぶりですね」
神も挨拶を返してきたが、やはり覇気がない。
神々しさも70%減だ。
「ちょっと、あれは止めてくれません?」
神の声は、心の奥底から疲れ切っていた。
「アレ?」
修には何のことかわからなかった。
神は、深い深いため息を吐いた。
「普通に掘って下さいよ・・・。大変だったんですよ」
温泉の事だった。
「そうなんだ。ごめんね」
あの掘り方は不味かったらしい。
修は素直に謝った。
「次からはちゃんと世界のことも考えてくださいね?」
神はとんでもないことを言った。
世界が悲鳴をあげていたのは、気のせいではなかったようだ。
修の行動でどんどん無くなって行く世界を見て、神は蒼白になって必死に補填していたのだ。
警告を与える暇すらなく、必死で補填し続けた。
ようやく一息つけたと思って、苦情を言おうと思ったら、今度は川を掘り始めたのだ。
神はそれを見た瞬間、ムン○の叫びを再現してしまった。
神は過労死するかと思った。
マジで疲れ果てている神を見て、修も申し訳なさそうに眉を下げた。
「……はい」
修も、次に掘る時があれば、ちゃんと手で掘ろうと決意した。
「でも久しぶりだなぁ。怒られたの」
修が感慨深げに呟いた。
それを聞いて、神が目を見開いた。
「怒る人が居たんですか?」
何と命知らずな、と思ったのは気のせいだ。
「うん。あれは昔・・・」
修は過去の記憶を掘り返した。
修が16歳の時。
最早ジジイの無茶も無茶ではなくなり、むしろ自分から世界中を駆け巡っていた時期だ。
その時修は、ツチノコを探して山々を巡っていた。
見つかるまいと普通は思うだろう。
しかし修は探し続けた。
その無駄に高すぎるスペックをフル活用して、山の中を駆け巡っていた。
そして、遂に発見した。
「げっとおおおおおおおおおおおおおお!!!」
修はツチノコ尻尾を掴み上げ、叫んだ。
『こりゃあ!!』
その瞬間、老人の怒鳴り声が響いた。
「?!」
修はびっくりして、ツチノコを掴んだままキョロキョロと辺りを見回した。
しかし老人はいない。
気配すらしない。
『ここじゃ!貴様が尻尾を掴んどるじゃろうが!!』
何と、ツチノコの声だった。
「ええ!?」
修が目を剥いて叫んだ。
『早く降ろさんか!!馬鹿者!!』
ツチノコは『シャー!』と言わんばかりの顔で修に向かって叫んだ。
「は、はい!!」
修は慌てて、ツチノコを地面に離した。
『全く最近の若いもんは・・・』
地面に降ろされたツチノコは、気難しい老人の様にぶつぶつと呟いていた。
「…………」
修はどうしていいものか分からず、立ち尽くしていた。
ツチノコの目が、そんな修を見た。
『……座れ』
「は、はい!」
修は慌てて正座した。
『いきなり人の尻尾掴むとはどういうことじゃ?んん?』
ツチノコに苦情を言われてしまった。
「…すいません」
しかし修は素直に頭を下げた。
ちょっと世界中の不思議生物共と戦って、価値観がぶっ飛んでしまっているせいだろう。
『お前さんもいきなり足を掴まれてみろ。びっくりするじゃろう?』
ツチノコは至極当然の様に、修に説教を続ける。
と言うか尻尾は足なのだろうか。
「…はい」
修はそんな疑問を持ちながらも、懸命にも何も言わずに頷いた。
『良いか、若いの。人の嫌がることをしてはならんぞ。そんなことばかりしてみろ。いつか孤独になるぞ』
ツチノコがスゲー深いことを言った。
「……はい」
修はまた素直に頭を下げた。
そこから修は、ツチノコに延々と説教をされ続けた。
一体どれ程の説教を受けたのだろう。
土地開発がどうとか、あそこのタヌキはすぐにションベンを垂らすとか、もうどうでもいいことまで愚痴られた修はヘロヘロだった。
ようやく説教から愚痴へと変化したものを停止させたツチノコが、改めて修に話しかけた。
『…この森の動物も殺したそうじゃの』
「…はい。すいません」
その頃には、修は頷くだけの存在へと成り果てていた。
しかし、ツチノコは頭を振った。
『…いいや、それはいいのじゃ。奴らもお主を襲い、お主が返り討ちにした。しかもちゃんと食っておる』
「……」
何だか、また深い話が始まりそうな雰囲気だ。
『食べるために殺す、それならば良いのじゃ。若いの、お主も無益な殺生はしてはならんぞ』
やはり深いことを言われてしまった。
「……肝に銘じます」
修はやはり、素直に頷いた。
すると、ツチノコの目が「感心感心」と言う光を輝かせた。
『ふぅむ。礼儀知らずの小僧と思っておったが…。人の話にはこれからも耳を傾けるのじゃぞ』
ツチノコは〆にかかった。
「……はい」
『うむ。ではの。儂の言葉を忘れるではないぞ』
そう言って、ツチノコはするすると修の前から去って行った。
「はい。ありがとうございました」
修は深く頭を下げて、ツチノコを見送った。
人生の師となるツチノコと修の、記念すべき初めての出会いだった。
「…ということが」
修が想い出から帰って来た。
神は半眼になっていた。
「……修さんの世界の蛇って、話すんでしたっけ?」
神が見たことのある修の世界では、少なくとも話す蛇は見たことが無い。
修は「何当たり前のことを聞いてるんだろう?」と言う気分だった。
「え?蛇は話さないよ?話しているのはツチノコさんだよ?」
ツチノコを、さんづけしている。
蛇とは違う生き物だと認識しているようだ。
「……そうですか」
神は目を逸らして呟いた。




