84話 砕ける
深刻なアニマル不足…!!
アフロすぎて、もはやネズミとは思えぬシルエットになったアフロネズミ。
耳を澄ますと、パチパチと初めから帯電しているような音が聞こえる。
「カファ!」
ポーラが叫ぶ。
「……はぁ」
カファは相も変らず溜め息の様な返事を返しながらも駆け出した。
ポーラが後に続いて走る。
アフロすぎるネズミが二人に向けて駆けだしてくる。
「むぅ」
その動きを見て、修が呻いた。
その疾走は直進ではない。
まるで雷の軌跡の様に、カクカクと動いていた。
その動きの速いこと速いこと。
正面のカファを通り過ぎ、あっというまにポーラの背後まで回り込むと、ポーラに向けて突進して来た。
「ちっ!」
ポーラが一度舌打ちし、剣を振るった。
剣が当たると思った瞬間、アフロネズミは更に加速した。
「ッ?!」
とはいえ、流石のポーラの攻撃は、その速度すらも捕えた。
が、掠める様にして当たり、弾き飛ばすことは出来なかった。
アフロネズミは攻撃を喰らいながらも、無理矢理突進を続け、ポーラを通り過ぎて、未だこちらを向き切っていないカファめがけて突進した。
初めから、カファ狙いだったのだ。
「…!!」
さしものカファも、機敏に反応した。
とはいっても、今から盾を構えることは間に合わない。
勇敢にも体を地面に投げ出し、片手で顔を覆った。
その結果、直撃はしなかった
が、ミスリルの鎧が、ガッキーン!と良い音を鳴らし、カファとアフロネズミの体が弾けとんだ。
電気はミスリルが防いだが、衝撃だけはモロに喰らった。
「……い”っ!!」
いつも反応の鈍いカファでも、痛そうな声をあげた。
衝突の衝撃は地面に落ちても止まらず、ズザザーっと地面を滑って行く。
ポーラは、カファとは違う方向に飛んだアフロネズミを追いながら叫んだ。
「カファ!」
鬼教官の叫びで、カファの体は機敏に立ち上がった。
教育の結果だろう。
多少痛そうに顔を歪めながらも、少し体を動かして骨折が無いことを確認し、ポーラの後を追う。
アフロネズミを追うポーラは、恐ろしい速度だった。
何と、空中で体勢を整え、着地しようとしたアフロネズミに追いついた。
「やっ!!」
着地の直前に、2本の剣を力一杯叩き込んだ。
当然の如く、アフロネズミは吹っ飛んだ。
その間に追いついたカファに先頭を譲り、二人はそのままアフロネズミを追う。
「後ろにも注意!」
ついでとばかりに、ポーラがカファに叫んだ。
「…はい」
カファの返事はいつもより早かった。
やはり痛いのは嫌なのだろう。
そして着地したアフロネズミが、再びカファめがけて駆けて来る。
それも、ドン!ドン!と、アフロの下の針を発射しながらだ。
カファはそれを受け止める。
その間に肉薄した、アフロネズミが飛んだ。
「…!」
痛いのが嫌いなカファは、実に俊敏に反応し、大盾を持ち上げた。
「ッ?!下です!!」
ポーラが慌てて叫んだ。
修は目を剥いた。
上に飛んだのは、アフロだけだ。
カツラを投げ、針ネズミの姿を取り戻した本体は、未だ下にいたのだ。
空蝉の術ではないか。
お前は忍者か。
アフロネズミの突進が、カファのどてっぱらに直撃した。
「ぐへっ!!」
口から空気の塊を飛ばして、カファはもんどりうって倒れた。
ミスリルの効果で針は刺さっていないが、突撃の衝撃だけでもとんでもない物だ。
「カファ!!」
ポーラが叫びながら、アフロネズミに斬りかかろうとした。
そこに、見かねた修が飛んで来た。
倒れてげほげほと咳をしているカファを回収し、さっさと逃げ出した。
「あとお願い!」
ついでに、ポーラに一言叫ぶ。
「はい!」
ポーラは叫び返し、アフロネズミに斬りかかった。
カファは軽傷だった。
肺から一気に空気を押し出されて咽ただけで、後は軽い打ち身で済んでいた。
ここのボスは、レベルがそこそこあるとはいっても、戦闘自体が不慣れなカファにはきついかもしれない。
結局、後はポーラが一人でアフロネズミを撃破した。
突撃もうち落とし、針の散弾も、顔などの剥き出しの部分に当たるものだけは撃ち落す。
そうやって追い詰めていき、止めを刺していた。
23層に到着して、帰宅した。
反省会だ。
カファは修の経験値UPの効果でレベルは高いが、戦闘経験が少ない。
そのことを考え、まず戦闘経験を増やすことにしようと考えた。
というかそもそも、ボスに二人で挑むこと事態がおかしいのだが。
4~6人でタコ殴りにするボスを、二人で戦おうと言うことがまずおかしい。
しかし、そんなこと気付きもしない。
「ちょっとやりたいことがあるからさ。ポーラとカファで、もう一回迷宮潜りなおしてみようか」
しばらくは修抜きで、ポーラをリーダーとして迷宮に潜らせることにした。
PTリーダーが抜けるので、一層からだ。
しかし全てのボスとも戦っていけば、戦闘経験も得られるだろう。
「……そうですね。そうしましょうか」
ポーラも難しい顔で考えこんだ後、頷いた。
「……はぁ」
カファは自分の事なのに、やる気なさげだ。
もうあの痛みは忘れたのだろうか。
実際の危機が迫るまでは、こんなものなのかもしれないが。
「行ってきます!」
「……」
やる気満々のポーラと、やる気ないカファが連れだって迷宮に旅立った。
「いってらっしゃい」
そして見送った修は、『やりたいこと』をはじめた。
街を出て、外で探し始めた。
ONSENの作れそうな水源を。
当然、探すのは地下だ。
修はこの世界に来て、初めて本気を出した。
そして地下の水源を探し、彷徨い始める。
地下深くにある水源を探す為、歩き回り、時には地面に耳をつける。
そんなことで見つけれるわけがないと言いたいが、修はやる気満々だった。
毎日毎日、飽きもせずに彷徨い続けた。
「……ここかっ!!」
そして見つけた。
執念の勝利である。
しかし本番はここからだ。
まずは掘らなければならない。
しかも、温度も適正か調べる必要がある。
修の掘り方は頭がおかしかった。
「ふんっ!」
そう気合を入れて、地面に向けて手を振り下ろすだけだ。
何故か地面が抉れた。
土はどこかに消えた。
修の手が薙がれた場所の空気も消えた。
しかも何故か、掘られた場所の土が引き寄せられた。
空間を削り取ったのだ。
世界が悲鳴をあげている気がするが、気のせいだろう。
「ドラドラドラドラァ!!!」
修は空間ごと、地面を掘り続けた。
「ザ・ハ○ド」のスタ○ドを持っているのだろうか。
修はダイアモンドなど容易く砕けるのだ。
そして僅か数分後、お湯が吹き出した。
「……やった!!」
修が歓声を上げた。
後の世で、温泉王とは呼ばれない。
新しいなまもの考えねば…




